デートの後の日常
魔王め。人様のデートを覗き見するとは何事だ。
レオナからのお食事もとい、デートのお誘いを受けた俺は心の底から舞い上がった。
それもそのはず。俺の推しはレオナであり、俺はレオナの事が好きなのだ。
そんな推しからデートのお誘いが来たとなれば、嫌でも舞い上がってしまうと言うのが人の性。
その日のデートは本当に楽しかったし、本当に大切な時間でもあった。
........観客が居なければ。
レオナが“実は魔王様に相談した”と言った時点で俺は察したのだ。あ、これは間違いなく覗かれていると。
デートプランを考えてあげたり、服装を選んであげるのはまだ許す。
レオナもこういう事に慣れておらず相談してしまうのは仕方がない。俺だって誰かに相談するはずだ。
しかし、それを覗き見するのは許せないし、許さない。
俺達は動物園にいる動物では無いのだ。間違っても見世物では無い。
という訳で、デートの終わりは魔王を俺とレオナでシバいて終わった。
これはこれで楽しかったし、俺としては悪くない終わり方だったかなと思っている。
まぁ、どうせアランとニーナも覗いていただろうから、その日の夜は一緒に寝てあげなかったが。
半泣きのアランとニーナはちょっと可愛かった。でも、許しません。反省しろバカチンが。
それにしても、俺は思っていた以上にレオナの好感度を稼いでいたんだな。まさかデートのお誘いが来るとは思ってなかった。
俺が報告書を作りに行く時とか、もしかしたら食事に誘おうとしていたのかもしれない。
手も繋げたし、ナデナデもされた。
俺は今ここで死んでしまってもいいとすら思っている。
いや、リバース王国だけは滅ぼすわ。リバース王国を滅ぼしたら死ぬわ。それほどまでに俺は今の世界を満喫しているのである。
「反省したか?」
「寝れなかった........ノアがいないと寝られない体になっちゃった」
「にぃにが居ないと寝れない」
次の日の朝、俺が少し早めに起きてシスターマリアの手伝いをしていると、アランとニーナが目の下に隈を作りながら起きてくる。
どうやら俺と一緒でないと寝られないらしく、二人とも明らかに寝不足であった。
「ふふっ、今回ばかりはアランくんとニーナが悪いですね。ダメですよ?折角のデートを覗き見するなんて」
「だって気になるじゃん。普段見せないノアの顔が見られると思ったら見たくなっちゃうのが人の性と言うものだよシスターマリア。僕達は悪くない。こんなにも可愛いノアが悪い」
「そう。にぃにとレオナが悪い」
シスターマリアは口では叱りつつも、俺達の成長が嬉しいのか全く怖くない。
実はシスターマリアも覗いてたとかないよね?この人、割とそういう所ではノリが良かったりするから、俺の知らない間に覗き見していた可能性は十分にありそうなんだよな。
それはそれとして、サラッと俺が悪いとか言うアランとニーナは反省してないな。これは今日も俺一人で寝るか。
「反省していないようで何よりだ。これは今日も一緒に寝られないな」
「ヤダヤダヤダ!!反省するから!!もうノアのデートとか覗かないから!!一緒に寝てよノア!!」
「それは困る。このままだと私、夜更かしする悪い子になっちゃう。もう覗かないから許して」
「か、カァ........」
またしても半泣きになりながら俺に縋り付くアランと、割とマジめに困った顔をするニーナ。
ニーナ、困っているからってトリを睨まないであげて。その子何も関係ないでしょ。
トリも大変だな。アランに脅されてニーナに優しくされたから懐いてしまったが、懐いた相手があまりにも悪すぎる。
その内“黒い鳥は悪魔の象徴!!”とか言い始めて解体されないといいけど。
「これに懲りたらもう覗くなよ。俺にもプライベートと言うものがあるんだから」
「覗かない!!覗きません!!」
「ん、覗かない。にぃにに誓う」
それにしても、やはり泣いているアランは可愛い。
なんだろう。新たな扉が開きかけている気がしてならないんだよな。はっ!!もしかしてアランのやつ、俺に新たな扉を開かせることで弱みを握ろうとしている?!
なんと恐ろしいやつだ。昔、パセリがどうしても食べられなくてこっそりニーナに食べてもらっていたら、それを脅しに我儘を言ってきたニーナと同じことをしようとしているのか。
末恐ろしい勇者だぜ。
ま、流石にそんなアホなことを考えているとは思えないが。
「それにしても、ノアくんがデートですか。しかも、相手はあの魔王軍幹部のレオナ軍団長。何度かお会いしたことがありましたが、随分と........そのー、話すのが苦手な方でしたよね?」
「まぁね。いつも会う度に天気の話題を振られて困っていたこともあったよ。最近は結構話せるようになったけどさ」
「ノアが積極的に話しかけたのが良かったと思うよ。レオナ軍団長も、の後話している時は楽しそうだったし」
「レオナ、雰囲気怖い。でも、優しい」
親代わりのシスターマリアにデートをしていたことがあっさりバレているのが少々恥ずかしいが、俺もアランもニーナも、シスターマリアには敵わないので諦める。
育ての親にして、俺を拾ってくれた恩人。そして、血の繋がりもない俺達を我が子のように厳しく優しく育ててくれた彼女には、たとえ天地がひっくり返ろうとも逆らえるわけが無い。
親にデートしていたことがバレた子供ってこんな感じなのかね?前世は年齢イコール彼女無しだったから、その気持ちがわからんが。
「邪魔するぞー。お、もう朝食ができちまってるのか。少し遅かったな」
「お邪魔します。お手伝いに来ました」
そんなことを思っていると、よく家に来るガルエルとエリスが顔を出す。
さも自分の家のように入ってきた二人は、手土産にいくつかの食材を持ってきていた。
「お、昨日街で大暴れした姫様じゃねぇか。どうだった?レオナとのデートは」
「あんなに楽しそうにしている二人を見たのは初めてです。頑張ってプランを考えたかいが有りますね」
自分達も覗き見をしていましたよと言わんばかりにニッコニコなガルエルとエリス。
だが、その後ろから死神の手が迫ってきている事を2人はまだ知らない。
アランとニーナは気づいて若干顔を青くしていたが。
「楽しかったよ。観客さえ居なければね。ちなみに、あの時俺たちを見ていた人は全員お仕置するつもりだから、2人もお仕置確定ね」
「そうだな。ノアを不愉快にさせた事は断じて許さん。感謝はしているが」
「ゲッ、レオナ!!」
「あ、ヤバっ」
ガシッと2人の肩を掴んだレオナは、大人でも泣き出しそうなほど凄まじい圧を放ちながら手に力を込める。
ガルエルとエリスは何とか逃げ出そうとしたものの、こういう時のレオナは力が強かった。
「シスターマリア。少々この2人をお借りする」
「ふふふっ、手加減してあげてくださいね?後で配膳をお願いしたいので」
「安心してくれ。私は手加減が得意なんだ。ほら、来い」
「ちょ、ちょっと待て!!お前どちらかと言えば覗かれても問題ない側だっただろ?!」
「そうですよレオナさん!!貴方、私達が覗くことに関して何も言わなかったじゃないですか?!」
「........と言っているが、ノア、どうする?」
「もちろん
「だそうだ。諦めろ」
「ノアぁぁぁぁぁぁ!!」
「ノアくん!!それは無いですよ!!」
2人の悲鳴が新居に響き渡るが、誰も手を出すことは無い。
手を出したら自分まで巻き込まれてしまうから。恨むならノリノリで覗きに来た昨日の自分を恨むんだな。
俺はそう思いながら、シスターマリアの手伝いを続けるのであった。
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