デート(観客多数)
魔王達が組んだデートプランは完璧と言えるものに仕上がり、普段の報告書よりもしっかりと分かりやすく書かれた報告書はレオナに手渡された。
本来であればレオナ1人で考えなければならないのだが、彼女は恋愛初心者であり周囲の手を借りなければマトモにノアを誘うことすら出来ないのである。
手のかかる配下だなと魔王は思いつつ、こうして人のデートを覗き見するのを楽しみにしていた。
そして、乙女のようにモジモジとしながら恥ずかしがるレオナを無理矢理連れ出し、ノアとデートの約束をさせる。
あまりにも初心なレオナの姿に、何故か観客陣は物凄い罪悪感を覚えた。
「........気合いが入りすぎてはないか?妾、結構早く来たのにそれよりも先に待っておるとは、一体どういうことなのじゃ」
「報告によれば、3時間前には既にいるそうです。と言うか、魔王様も早いですね。まだ1時間前ですよ」
「いや、妾もレオナの成長が嬉しくての?つい早く来てしまったのじゃ。ってか、2時間前からあぁしてウロウロしていたら嫌でも目立つじゃろうに」
「ふふふっ、それだけ楽しみだったんですよ。昨日はきっと寝れていませんよ」
子供か。と魔王は心の中でツッコミを入れつつ、普段の軍服とは違った服装をしてるレオナを見てどこか嬉しく思う魔王。
あの服は普段着を全くもっていないと言うレオナのために、魔王軍幹部総出で選んだ勝負服であった。
あまりフリフリとした可愛い服装は似合わないので、できる限りレオナのカッコ良さを生かす形となったがそれでも本人の可愛さも出ているので魔王的には悪くないと思っている。
ノアの事をよく知るアラン曰く、ノアはカワイイ系よりもかっこいい系の方がウケがいいという情報もしっかりと生かしていた。
しばらく待っていると、続々と観客たちが集まり始める。
流石に大騒ぎしてしまうとデートの雰囲気がぶち壊されてしまうのだが、レオナがノアとデートしたいと言う話はあっという間に広がり、多くの観客がやってきてしまった。
なんと、魔王軍の面々のほとんどは、その様子が見たいがために有給を取っている。
なんならもういっその事今日を休日にしてしまっても良かったのだが、内政管理をする者に止められてしまった。
「通行人のフリすらしてくれるとは、最早デートというかドッキリじゃの........妾、後でレオナに怒られそうで怖いわ」
「皆さん、レオナさんのことをよく知ってますからね。見たい、協力したいと思うのは自然の道理かと。あ、ノアくんが来ましたよ。約束の時間30分前。ノアくんもかなり真面目ですね」
「アレはモテるの。流石は姫じゃ」
30分前にやってきたノア。ノアもこれがデートだと理解しているのか、相当気合いが入っているのが見て分かる。
が、それを感じさせない自然な服装と態度に、思わずこっそりと覗き見していた魔王達は唸った。
慣れてやがるこいつ。と。
「のぉ。あやつなんか慣れて居らぬか?」
「ノアくん、もしかしてこういう経験があったり?」
「いや、僕の知る限りでは無いよ。まぁ、ノアだからね。なんでもそつ無くこなせるんだと思う」
「にぃに、意外とこう言うの得意」
レオナと楽しそうに話すノアの笑顔。その笑顔を見たアランはノアの可愛さに我慢できず鼻血を出しながら、解説をする。
流石に鼻血を出しながらノアの事を語るアランを見て、魔王はドン引きしていた。
1歩間違えれば変態だ。いや、既に変態かもしれない。
「お、動くみたいだぞ。最初はこの街の1番大きな商店街を巡るんだったよな」
「そうじゃの。妾達も移動するとしよう。このデートが成功するかどうかを見守ろうでは無いか」
「悪趣味ですねぇ。私も息子がデートしていた時はこっそり覗いていたので人のことは言えませんが」
「くははははははっ!!皆、同じ穴の狢という訳よ!!祈ろうでは無いか、この2人の行く末をの」
こうして、下世話な覗き見達のデート見守りは始まった。
ノアとレオナはその後も楽しそうに色々な場所をめぐり、特にハプニングもなく周囲を回っていく。
最初は緊張していたレオナも、ノアが積極的に話しかけてきてくれるお陰かかなり調子が戻ってきて心の底から笑いながらデートを楽しんでいた。
なお、魔王達は会話の盗み聞きをしてこなかったので気づかなかったが、レオナはこの日“軍団長”ではなく“レオナ”個人としてノアに見て貰えるように“レオナ”と呼ぶようにノアにお願いしていたりする。
魔王達の計画の中にはそのような事は書かれていなかったのだが、レオナが自ら考えた数少ないファインプレーであった。
上司と部下ではなく、対等な個人として。
魔王達がその話を聞いたら、観劇のあまり涙が溢れることだろう。
そして、楽しい時間ほど早く過ぎ去る。
時刻は既に夕方を過ぎ、最後に魔王達が選んだ料理店へと入っていく。
店主には既に話を通してあり、ノリのいい店主は覗きができる最上階の窓際の席を用意してあった。
「本当に楽しそうじゃの。妾、あんなに笑うレオナは初めて見たぞ」
「おそらく、この場にいる全員が初めて見ましたよ。見てくださいよ。後ろで第四魔王軍の方々が涙しています」
「あやつらはレオナの保護者か何かかの?まるで、初めて友人ができた我が子の成長を喜ぶ母じゃろうて」
「だって魔王様。あのレオナ軍団長が優しい笑顔を浮かべながら楽しそうに話しているにゃるよ。もう、これを見れただけでも今日有給を取ったかいがあったにゃる」
「全くだ。今日ばかりはタバコが湿って吸えねぇや。なんでだろうな」
涙に濡れたタバコを咥えるプルートや、普通に泣いているミャル。
第四魔王軍の面々は、特にレオナの事を知っているのでここまで変わってくれた団長が嬉しくてたまらないのだろう。
だとしても感極まりすぎてちょっと気持ち悪いが。
「クハハ。レオナは愛されておるの。妾が同じことをしても、ペッ!!と唾を吐きかけられるだけだろうに」
「レオナはなんやかんや人望がありますからね。誰かが困っていれば不器用なりに助け、悩みながらも人の為を思って行動していますから。どこぞの王とは違うのですよ。見習ってください」
「クハハ。それは無理じゃ。お、美味そうに料理を食っておるの。食事の時だけはあまり話さないのかの?」
「レオナは食事中はあまり話さないな。美味いもんは美味いうちに食うもんだろ?大抵魔王様と飯に行く時は、冷めてから食わされるからレオナは不満タラタラだったぜ」
「くははははははっ!!次からは先に食ってから騒ぐかの!!」
いや、そもそも店の中で騒ぐなよ。と、ガルエルは思うがこの魔王に言った所で人の話は聞きやしない。
今はそれよりも、二人のデートを見る方が大事であった。
「ん、食べ終わったようじゃの。所でエリスや。なんかノアがこちらを見ておらぬか?」
「あ、バレましたねこれ。レオナは気づいていても無視していましたが、ノアくんはちょっと恥ずかしがり屋さんだったようです」
「不味くね?あれ、割とマジめに怒ってね?」
「怒ってますね。多分、デートプランを計画してあげる事は許してくれますが、覗き見は怒られますね」
「のぉ、アランお主、何とか─────」
アランとニーナに何とかしてもらえれば、ノアの怒りを収まらせることが出来るのではないかと考えた魔王。
しかし、ノアの性格を知っておりこれだけの数の視線があれば気づかれるとわかっていたアランは既に逃げていた。
「あやつ逃げたぞ?!自分だけ助かろうとしておるぞ?!」
「あ、魔王様、こっちに来ますよ。しかも、レオナさんまでノアくんの味方をしています」
「ファー!!結局あやつもノアの手先か!!えぇい!!妾達も逃げるぞ!!解散!!」
こうして、レオナのノアの初デートは、いつものように鬼ごっこして終わることとなる。
その日の魔王城の街は、いつもより少しだけ騒がしい夜になるのであった。
後書き。
読者ももちろん観客です。データ内容はご想像にお任せします。
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