デートプラン


 レオナがノアとデートがしたいと知った魔王軍幹部たちの動きは、とてつもなく早かった。


 魔王軍全体として、基本的に皆ノリがいいのはもちろんの事だが特に恋愛事になると話が違う。


 ブロンズが狙っていた女性に振られていた時も幹部の殆どはこっそりと覗き見していたし、今回も自分たちが最大限楽しめつつそれでいてレオナの希望に沿う形の在り方を見つけたいのだ。


「と、言うわけで連れてきたのじゃ」

「マジで連れてきたよ。レオナは一旦帰らせて正解だな。この2人にまで知られたら、多分恥ずかしさのあまり悶え死んでる」

「魔王様に“面白いことがあるから来い!!”って言われたけど、何があるの?」

「本を読んでいる最中だったのに........これでくだらない事だったら殺す」

「くははははははっ!!そんなに怖い顔をするなニーナよ。今回はノアとレオナに関する話じゃぞ!!」

「にぃにとレオナの話?」


 よく分からないけどノリで連れてこられたアランと、本を読んでいたので断ったにもかかわらず無理やり連れてこられて機嫌の悪いニーナ。


 ノアのことをよく知るこの2人ならば、ノアがどのような事をしたら喜ぶのかを知っているだろう。


 そして、レオナとの交流も深いので今回のそうだ役にはピッタリである。


 少々ノアへの愛が思い二人だが、彼らの向ける愛は恋愛の愛ではない。


 親愛の愛と恋愛の愛はまた違った“愛”であり、明らかにノアを異性としてみているレオナと衝突することは無いと魔王は判断したのだ。


「実はの。レオナがノアとデートをしたいそうじゃ。で、妾達はその相談を受けて今こうして緊急会議を開いておる。ちなみに、レオナは正気じゃなかったので帰らせたぞ!!」

「ごめん魔王様。ノアがレオナ軍団長とデートしたがっているってことでいいの?」

「違うぞ!!レオナが、ノアと、デートしたがっておるのだ!!正確には食事に誘いたいそうだが、本人はデートのつもりじゃの!!」

「なら、なぜ本人が居ない?レオナ、最も重要な人物」

「くははははははっ!!頭の中がノアのことでいっぱいらしい!!全く会議にも参加出来ず、上の空だったので帰らせた!!今頃は家に戻って正気を取り戻し、自らの過ちを悔いているだろうな!!後でからかいに行ってやろう!!」


 レオナがノアとデートしたがっているということを聞いて自分の耳を疑うアランと、今のレオナならやりかねないと思いつつレオナが居ないことを少し寂しく思うニーナ。


 二人とも魔王の見立て通り、レオナと衝突することはなさそうで魔王は一安心していた。


 一歩間違えれば本気の殺し合いが始まってしまっていただろう。レオナは何気にノアを手にするための必要最低限の条件を整えていたのである。


 親友と妹を手懐けて、先に外堀を埋めていたのだ。


 魔王は心の中で“中々やるではないか”とレオナをほめつつ、魔王城の街の地図を円卓に広げる。


「アランよ。ノアの好みはなんじゃ?」

「食べ物の話?基本的にノアは好き嫌いしないよ。あ、でも唯一パセリだけが食べられないらしいよ。なんでも苦くて嫌いなんだって。可愛いよね」

「にぃに、孤児院でご飯がでてた時、こっそり私のところにパセリだけは置いてた。私はその事をシスターマリアに言うぞって脅して、良く我儘を通してたっけ」


 サラッと明かされるニーナのやばさ。


 こいつ、ノアに構ってもらう為ならば手段を選ばないのかと、魔王は心の中で戦慄しつつもパセリが出る料理店にバツ印をつけていく。


 魔王にとって、国は庭。


 どこ料理店にどのような料理が出るのかは全て把握していた。新商品が出来れば、我先にと食べに行き素直な感想を述べて金を落とす。


 王が自ら足を運んで食べる為、民も王を身近に感じられて親しみを持ちやすいのだ。


 もちろん、これは計算してやっている。魔王はお飾りの王ではないのだ。悪ノリがすぎるが。


「ふむ。今度ノアにはパセリを無理やり食わせてやろう。きっと泣いてくれるぞ!!そしたらその泣き顔を絵画に収めて売りさばくのじゃ!!」

「殺すよ?魔王様。ノアを泣かせたらその首切り裂くからね?」

「にぃにの敵。排除する」

「くははははははっ!!マジで嫌われそうな事はせぬよ!!冗談じゃ。して、好き嫌いの無いノアがその中でも好んで食べる物とかはあるかの?」


 魔王に対してさっきを向けるアランとニーナ。


 魔王とて冗談で済まされるラインと許されないラインの区別は着いている。もちろん、全くやる気はなかった。


 魔王の冗談を真に受けたアランは剣を抜き、ニーナは持っていた本の角を武器にしようとしていたが。


 1歩間違えれば本当に死にそうである。


「んー、強いて言えばシチューかな。冬場に食べるシチューは美味いって昔から言ったし、シスターマリアがシチューを作ってくれた時は、少しだけノアのテンションが高かった気がする」

「確かににぃにはシチュー好き。この前ご飯に行った時も頼んでた」

「ほう。となると、この三件かの。メニューにシチューがあるのはこの三つしかない。エリス、この三件のうち、1番身を潜めて様子を伺える店はどれかの?」


 今回の目的は、レオナとノアのデートプランや誘い文句を考えつつ自分達もそれを見て楽しむこと。


 会話の内容が聞こえずとも、せめて姿が見える場所に誘き出す必要がある。


 魔王は魔王よりも街に詳しいエリスに聞くと、エリスは少し考えた後一件の店を指さした。


「この大通り沿いにある店ですね。それなりにお手ごろな値段で多くのものが食べられるので、食べ盛りのノアくんにもピッタリかと。監視をするのであれば、この地点がオススメです。窓があって店の中を見通せます」

「となると、店主に伝えてここに通してもらうように言っておくかの!!妾もよく行く店じゃし、あそこの店主はノリがわかるやつじゃ!!」


 こういう時、普段の魔王の行いが功を奏する。


 ウザがられたり何かと騒がれる魔王だが、普段から街におりては国民と交流を深めるだけあってその人望は厚い。


 多少のお願い事ならば、国民の誰もが聞いてくれるのだ。それが、デートの覗き見となれば更にノリノリで乗ってくれる。


 魔王国の国民は魔王によって訓練され、誰もがその場でノリを合わせられるだけの適応力がある。


“みんなが笑って暮らせる国を”魔王が理想とする国家の片鱗が見える瞬間であった。


「しかし、食事をするだけでは楽しくないの。他にも色々な事をするのがデートじゃろ?」

「観光でもしますか?ですが、ぶっちゃけこの街に観光地とかありませんよ」

「かぁー!!作っておくべきじゃっな!!今から作っても間に合わんだろうし、誰かいい案を出せ!!」

「んな無茶な。今から考えろって言われてポンと出てきたら苦労しないぞ」

「そうですな。私は建国以前からいますが、そんな観光地とかありませんよ」

「魔王様の職務怠慢が招いた結果だな。反省してくれ」

「ファー!!使えぬ部下じゃの!!同僚のためにその無い頭から捻り出さんか!!妾も頑張って考えるからの!!」


 魔王とその幹部たちは、そう言うと腕を組みながら良さそうな場所が無いか考え始める。


 魔王国と言えば魔王城。しかし、軍人であるノアとレオナは見飽きている。


 となれば、ほかの観光地を進めるべきなのだが、そんな場所はない。


 魔王は初めて、自分の国に足りないものを理解した。


「レオナ軍団長、大変そうだね。これ、みんなに見られるんでしょ?」

「アランにぃは見に行かないの?」

「え?もちろん行くよ。ニーナも行くでしょ?」

「ん。行く」


 こうして、レオナデート大作戦は日が沈むまで計画を練られるのであった。


 本人が居ないところで。




後書き。

覗き?もちろんしますよ。

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