魔王軍ルート
反乱の兆し
カマセ帝国とサンシタ王国との和平条約が締結され、魔王国は戦勝ムードに包まれていた。
それも仕方がない。何せ、10年以上も戦い続けていた国々に勝ったのだから。
しかし、魔王はその戦勝ムードをぶち壊すかのように魔王国民全員に演説。
“我らの戦争はまだ終わりを迎えていない。リバース王国との戦争にも勝ってから祝杯をあげよ”と。
勝って兜の緒を締めよとは言うが、確かにその通りである。
勝ちを祝うこと自体が悪い訳では無い。だが、勝ったからと言って油断してはならない。
魔王国はふたつの大きな戦線に勝ったと言うだけであって、未だに戦争状態なのだ。
しかし、魔王はその後にこうも言っている“ま、それはそれとして今は勝利を祝おう!!カンパーイ!!”と。
シリアスなムードと陽気なムードの切り替えが早すぎて少し困惑したが、この国は生憎魔王に鍛え上げられている。
その日は魔王国内全てから“カンパーイ!!”という声が聞こえ、楽しいパーティーが繰り広げられていた。
そんなこんなありながら、俺は少しだけ平和になった魔王国で静かにリバース王国の動きを探っていた。
アランが失踪したことによる国民の不満と、それによる公爵家の動き。
上手く便乗すれば、邪魔な貴族と王族共を蹴散らして真の平和がやってくる。
「何をしているんだ?」
「レオナ軍団長。リバース王国の動きを探っているんだよ。ほら、俺の召喚魔法は色々なものを見通せるからね」
「........あぁ、あの大量の鳥とネズミを解き放っているのか。確かにこの子達は優秀だな。私も気に入っているよ」
魔王城にある第四魔王軍の訓練場。
戦争に勝利したとしても訓練を怠ることなく、毎日精進を続ける俺の隣に座ったレオナは共に戦場を駆け抜けた鳥の下顎を撫でて優しく微笑む。
レオナ、本当に変わったよな。いつもなら“いい天気だな”から入るのだが、今はこうしてかなり普通に会話ができる。
それでも素を見せないあたり、まだまだ好感度は低いのかもしれない。
「この鳥のおかげで助かった。私一人では、またあの勇者を取り逃していただろうからな」
「レオナ軍団長ならそんなことないと思うけどね。いつもはほかの兵士たちに遮られて逃していたらしいけど、あの時はタイマンだったし」
「ふふっ、買い被りすぎだ。私は思っているより強くないさ」
いや、強くなかったらアラン相手に模擬戦で勝つとかできないのよ。
ゲームの中でもかなりの強敵であったレオナだが、この世界では更に強さに磨きがかかるっている。
俺もよく模擬戦はするのだが、最近は乱数の女神様が微笑んでくれたとしても普通に負け越していた。
模擬戦なのに、当たり前のように真剣を使わないで欲しいんですけどね。しかも、レオナお得意の【無限戦舞】まで使われたらどうやっても勝ち目がない。
剣が宙を舞い、次から次へとスケルトンをなぎ倒し、火を切り裂き、スライムを切り裂く姿は最早芸術だ。
やり方次第では勝てないこともないのだが、それをする場合は滅茶苦茶離れた場所から攻撃を仕掛け続ける必要がある。
しかし、模擬戦となるとそうもいかない。この狭い訓練場(ノア基準)で戦うには、一工夫も二工夫も必要であった。
「リバース王国はエリスも調査している。が、かなりの混乱状態となっていて情報が錯綜としているらしい。ノアはどのような情報を得ているのだ?」
「王家に対する民衆の不満と、それによる弾圧によって
「........私が知っている限り、そのような報告は一つも上がっていないぞ。ノア、もう諜報部隊にでも入った方がいいんじゃないのか?」
正直それは俺も思う。
ノアの性能はかなりネタキャラなのだが、この世界だと召喚術士の性能がかなり諜報向きである。そのお陰で俺は好き勝手に他国の内部を覗き見ることができるし、あっという間に至る所から情報を抜き取れるのだ。
その気になれば司令の偽造までできそう。
ちなみに、やってはいないが覗きにも使える。思春期男子ならば誰もが思いつく痛々しい犯罪行為だが、11歳の俺はまだ男としての自覚はないみたいだ。
性欲とかあまり感じないんだよな。ガルエルやエリス、レオナのような美人に囲まれても何も思わない。
興奮はする。が、それは憧れていたキャラと会話ができて嬉しいという興奮だからね。
多分だが、俺は俺が思っている以上に皆のことを神聖視している。
この前俺を屋根の上に置き去りにしたどこぞのバカは、そもそも異性としてすら見れてない上にウザすぎて会話しても嬉しいとかそう言う感情すら浮かばないが。
あの後、ちゃんとお仕置しました。レオナも巻き込んで。
「取り敢えず今の言ったことは魔王様に伝えた方がいい。なんなら、私の権限で新たな諜報部隊を設立した方が良さそうだな........ノア一人になるだろうが」
「あはは!!またアランが“僕も入れろ”って言ってきそうだね。何気にレオナ軍団長直属の部隊って俺達しかいないし」
「そうだな。初めての部下がお前でよかったよノア。私はとても誇らしい」
レオナはそう言うと、まるで愛しい弟を撫でるかのように俺の頭を撫でる。
最近はこういうことが増えたな。レオナの手はとても暖かい。ニーナが心を許し、頭を撫でさせてやる理由がわかる気がする。
少しの間俺の頭を撫でて満足したのか、レオナは立ち上がると俺にも立つように手を差し伸べる。
俺が首を傾げると、レオナは静かに笑った。
「何をしているんだ?今から報告書を書きに行かなければな。ついでに事務仕事の体験でもしてみるとしよう」
「え、いいの?一応レオナ軍団長の仕事でしょ?それに、かなり重要な仕事なんじゃ........」
「安心しろ。こう見えても事務仕事は得意だ。それと、魔王軍の書類関係は割と適当でな。物資や金銭はしっかりとしているが、このような報告書はミミズがのたうち回ったかのような字で書かれていることが多い。そして、怒られん」
「えぇ........それでいいの?」
「いいのでは無いか?魔王様からは何も言われないしな」
なら書類の作成とかもやってみようかな。俺が書いた方が正確だし、この情報はかなり重要なものになるからしっかりとしなきゃ。
と言うか、魔王軍は相変わらず適当すぎる。物資や金銭は真面目らしいが、報告書は滅茶苦茶なんだ。
よくこれで組織が回っているな。魔王が凄いのか、それとも下も者達が優秀なのか。
俺はレオナの手を取ると立ち上がり、一旦リバース王国の感じを止める。
今すぐに反乱が起きる訳では無い。まだ魔王軍が動く時間の猶予が残されている。
それまでに何とか魔王を説得し、このクソッタレたストーリーを終わらせてやらないとな。
「それでだなノア........あー、そのー、報告書の作成が終わったら........わ、私と........」
「ん?どうしたの?」
「い、いや、やっぱりなんでもない。とにかく行こう。どうせなら、アランも連れていくか?」
「行く!!僕もノアが報告書を書いている姿を見たい!!」
「うをっ、いつの間に居たんだよアラン」
「ちょっと前からこっそり隠れてた。早くノアのところに行きたくて、ブロンズをぶっ飛ばしちゃったけど」
苦笑いをうかべるアランの奥では、地面に大の字になって死んでいるブロンズの姿が。
ブロンズ、毎回タイミングが悪いな。そんなんだから、彼女ができないんだぞ。
俺は心の中でブロンズに手を合わせると、報告書の作成をレオナの指導の元やってみるのであった。
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