残すは一つ
その日、魔王国は勝利した。
同盟を組んだカマセ帝国とサンシタ王国だったが、切り札である勇者の2人は戦死。
更に軍のほぼ全てを壊滅させられた挙句、敗戦による影響で国民からの支持が落ちればいやでも戦争を終結させなければならないだろう。
勇者が死した後、ザリウス率いる第二魔王軍がカマセ帝国軍を蹂躙し、多少の死者は出してしまったものの圧倒的な勝利で戦争を終えた。
その後、俺達は一旦魔王城に戻り念の為いつでも出られる準備だけはしていたがここでサンシタ王国とカマセ帝国が降伏。
どのような条約を結んだのかはよく知らないが、少なくとも魔王国にとって圧倒的に有利な条件で和平条約を結び魔王国が抱える戦線は1つとなったのだ。
原作では叶うことは無かった和平条約。俺は遂に、大きく世界を変えたのである。
「よくやってくれたノアよ。又してもお主に助けられたの」
「悪いね。魔王様の考えていた理念に基づいて行動できなくて」
「くははははははっ!!レオナ辺りから聞いたか?国民が一丸となって国を守るという意識を持たなければならないという事を。しかし、それで負けてしまっては意味が無い。難しいものだな。今回に関しては、妾の失態だ。感謝しておるぞ」
無事に和平条約も終え春先の暖かい風が流れる中、いつものようにごみ拾いをしていた俺は魔王に“話がある”と言われて魔王城のてっぺんに連れてこられた。
今回は割と真面目な話をしたかったのか、アランもニーナも連れてきておらず普段のおちゃらけた雰囲気もない。
いつもこんな感じなら、多少は尊敬の念も込められた事だろうに。
なんでこの人は毎回毎回問題事を起こすのやら。
「魔王様の考えも間違ってはいないと思うけどね。やる気のない人達が守るよりも、やる気のある人達が守る方が圧倒的に強い。その為には、多少の犠牲を持ってしてでも1人で暴れ回るのではなく皆と共に戦うと言うのは分からなくはないよ。理想論ではあるけど」
「クハハ。難しいところよな。理想を語る上で、現実的かどうかという点は必ず着いて回る。妾も昔は1人で暴れ回っていたのだがの。それで痛い失敗をしてからはこうして守りだけに注力しておるのじゃ」
「失敗?」
俺の知らない設定による過去か?
そんな事を思い、首を傾げるが魔王はこれ以上話すつもりはなかったようで首を横に振った。
「はるか昔の話しよ。この国を建てるはるか前の話じゃ。忘れてくれ」
「........そう言われると気になるけどね?」
「クハハ。それもそうだの。じゃが、話す気は無い。ま、ともかくご苦労であった。報酬金はたんまりと用意しておくぞ。もちろん、アランの分もの!!」
「それはありがたい。つい最近引っ越したばかりで、お金がかなり必要だからね。生きるには金がどうしても必要だし」
「くははははははっ!!数多の戦士を屠り、骸の王とまで名付けられた子と言えど、世界の仕組みには敵わぬと言うわけだ!!改めて、感謝する。ノアのお陰で、この国は救われた。今度お主とアランの功績を称え、銅像を作る予定だからよろしくの!!」
「は?そんなの要らな──────」
俺が“そんなの要らない”と言い終わる前に、魔王は俺を残して転移で消えてしまう。
全く。本当に好き勝手してくれるなあの魔王は。
どうせ魔王自身が勝手に決めて勝手に建てるつもりなのだろう。
銅像とか要らねぇよ。俺は正義のヒーローでもなければ、魔王を討伐する英雄でもないのだ。
「あー。疲れた」
俺は静かになった誰もいない魔王城のてっぺんで寝転がると、これまでのことを思い返す。
最初はアランの性格を矯正し、その後は魔王国に行くために色々と準備をして、戦争して、アランを連れ戻して、遊んで、笑って、楽しんで。
悪くない人生だ。
なんの因果でこの世界にやってきたのかは知らないが、俺はこの人生にかなり満足している。
原作ストーリーをぶっ壊し、魔王国に平和を齎すまであと少し。
サンシタ王国とカマセ帝国との戦争は犠牲こそあったものの、ほぼ完璧な勝利と言えたのだ。
残すは諸悪の根源にして、人類悪とまで言われるクソ国家。
「リバース王国。もうすぐお前らも潰してやるからな。アランを闇落ちさせ、シスターマリアや村のみんなを殺し、この魔王国を潰したお前らに慈悲はない」
残りは1つ。
後は全力でやりきるだけだ。
「さて、俺もアランとニーナの所に帰って──────ん?あれ?こっからどうやって降りるんだ?」
決意も固め、誰も見ていないところでちょっと格好をつけた俺は、アラン達の元に帰ろうとするものの、ここは魔王城の頂きであり降りるに降りられない。
あんのクソロリババァ。あんなにしんみりとした雰囲気の中で、俺がこの場所から降りられないと分かっていて置いていったな!!
マジで最後の最後まで滅茶苦茶してくれるな。覚えとけと。後でレオナに言いつけて、お仕置してもらうからな。
俺はどうしようと困ったものの、アランを呼べば全部解決じゃね?という事で魔王城の上からアランを大声で呼ぶ。
俺にベッタリくっつく勇者様は、俺の声ならばどんな距離でも聞き逃さないのだ。
「アラーン!!助けてくれー!!」
これでよし。後は魔王を締め上げるだけだな。俺が殴ってもダメージは入らないので、レオナとアランにお仕置ししてもらうぞ!!
少しの間待っていると、爆速で走ってくるアランが見える。
どうやってここに来てくれるんだろうかと思っていると、普通にジャンプでここまで一飛びしてきた。
すごいなおい。勇者ってこんな事も出来るんか。
俺を助けにやってきたアランは、爆速で走ってきたにも関わらず爽やかな笑顔を浮かべると寝転がっていた俺に手を差し伸べる。
太陽の眩い光に照らされ、金色に輝くその金髪がとても眩しかった。
「なんて場所にいるんだよノア」
「魔王様に連れてこられたのがここだったんだよ。そして、置いていかれた。ちょっと魔王様を探して反撃するぞ。何時もやられっぱなしとは行かないからな!!」
「言うていつもやり返しているけどね........ま、そういうことなら僕も手伝うよ。どうせレオナ軍団長当たりを巻き込むつもりでしょう?」
「バレた?最近結構話してくれるようになったレオナ軍団長も巻き込むぞ。あの人、俺達のお願いごとならなんでも聞いてくれるしな」
「物凄く僕達のことを可愛がってくれるもんね。特にノアに対してはベタベタだし。急に性格が変わったかのように、優しいよ」
「相変わらず圧はすごいけどな........」
毎日話しかけていたのがようやく功を奏したのか、レオナとの距離がこの戦争で一気に縮まった。
最近は俺達を見かける度に話しかけてくるし、弟を可愛がるように抱きついてきたりしてくる。
もう最高。死んでもいい。
推しからのスキンシップが多くなったおかげで、俺の心臓は限界である。
それが元コミュ障なら尚更だ。
「さ、行くか........で、どうやって降りるのこれ」
「僕がお姫様抱っこしてあげる。ほら、おいでノア」
見るもの全てを魅力するほどに少年らしい可愛い笑顔を浮かべ、アランは両手を広げる。
多分これ、断ったら俺を下ろさないつもりだ。
アランとの付き合いが長いからわかる。こいつは意外としたたかで、自分の都合のいい時は絶対に譲ってこないのだ。
俺はこの姿を見られたらまた“姫様”って言われるだろうなと思いながら、アランに大人しくお姫様抱っこをされると魔王城から飛び降りる。
「優しくおろしてくれよ?」
「もちろん。僕がノアを傷つけることなんて万に一つもないよ」
こうして、今日も過ぎ去っていく。
リバース王国。待ってろよ。
あと魔王、お前もだ。
後書き。
この章はこれにてお終いです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。
レオナ主人公回でした。もうレオナが主人公でいいよ。
何気にレオナの人気が上がって嬉しいです。ようやくヒロインの自覚が芽生えたか。
そして、次が最終章となります。リバース王国との決着をお楽しみに‼︎
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