カマセ帝国vs魔王国3
ノアに送り出されたレオナは、戦場を大きく回って矢が放たれたであろう場所に向かって走っていた。
射角から大体どの位置から射撃してきているのかは分かっているので、後は気配を辿れば弓の勇者ジュナイダーが現れる事だろう。
レオナはノアから預かった鳥をポケットの中に入れて全力で走り続けると、林の中に入り込む。
敵軍はまだ見えないが、おそらく既に潜んでいるはず。
レオナは静かに神経を尖らせながらも、できる限り迅速にジュナイダーの位置を探った。
「ピピッ!!」
「ん?あっちに居るのか?」
「ピー!!」
ノアが召喚した鳥が反応を示す。
レオナはそれに従って動き──────その場から飛び退いた。
次の瞬間、レオナの居た場所に三本の矢が突き刺さる。
レオナは何十本とある腰に下げた剣を抜くと、反撃として素早く投げる。
手応えはない。おそらく、矢を放った瞬間には移動してその場から離れていたのだろう。
そして、ジュナイダーはレオナから見えない位置に足をつけるとレオナに語りかけた。
もちろん、居場所がバレないように全方位から声が聞こえる魔法を使って。
「........まさか貴様までここにいるとは予想外だ。我々の動きがどこかで漏れたか?」
「惨めに敗北してもなお抗うとは醜いな。潔く戦線から身を引けば良かったものを」
「ほう?今日は口が回るじゃないか。いつもは黙りこくって何も言わないくせに」
「今日がお前と話せる最後の機会だと思ってな。今回ばかりは逃がさんぞ」
「まるでいつもは見逃してきたような言い方だ。そういうのは、1度でも私を追い詰めてから言うものだぞ!!」
再び矢がレオナを襲う。が、レオナはずば抜けた反射神経でその矢を剣で叩ききった。
もう十年近い付き合いだ。毎年のように殺しあっていれば、お互いにお互いの考えていることはあらかた予想が着く。
ジュナイダーはレオナの武器を全て奪いさろうとし、レオナはどんな攻撃でもいいから一撃さえ当てられれば勝てる。
剣を奪い命を奪うか、傷を与えて命を奪うか。
どちらかが条件を達成したその時、勝者が決まるだろう。
「シッ!!」
「甘い。そこ!!」
宙を舞う矢と剣。
お互いに1歩も譲らない撃ち合い。
ジュナイダーは矢を放ち、レオナは剣を投げ続ける。
が、レオナはあまりにも剣を投げるスピードが早すぎた。
鞘に入れた剣が既に底を付き、それを察したジュナイダーが勝利を確信する。
「この冬の間に鈍ったか?!」
「いや。これでいいのさ。ここらの林は少々邪魔だ。私が伐採してやろう。【無限戦舞】絶剣“破壊斬”」
刹那、ジュナイダーのいた林は切り倒され、全てが伐採される。
「........は?うわわわわ!!」
長年レオナと戦ってきたジュナイダーも、この一撃を見たのは初めてであった。
無限戦舞絶剣“破壊斬”。
レオナの持つ武技の中でも圧倒的な威力と範囲を誇るが、その分デメリットも大きい技。
先ず周囲に剣をちりばめることから始まり、その位置を把握しなければならない。
そして、武技の発動には対象とした剣の破壊が不可欠となる。
武器を破壊し、強力な斬撃を生み出す。それが、レオナの持つ最大範囲攻撃技なのだ。
周囲を敵味方一切お構い無しに吹き飛ばすため、戦争のような混戦の中ではほぼ使えない。
が、ここは敵陣の後方やりもさらに後ろ。巻き込まれる味方も存在しなければ、吹き飛ばして困る建造物もない。
「クソッ!!自然は大切にしろと教わらなかったのか?!」
「........昔は木を相手に剣の修練をしていた」
「あぁそうか。一緒に修行してくれる友達がさぞ少なかったんだろうな!!」
何気に今までの攻撃の中で1番レオナに効く攻撃を繰り出したジュナイダーだが、本人がそれを知る由もない。
レオナは心の中で“い、今は友達いるもん!!”と反論はしていた。
ジュナイダーは見たこともないレオナの一撃に驚きこそしたものの、そのデメリットを素早く見抜くと再び勝ちを確信する。
無限剣聖と呼ばれる彼女から剣を取れば、例え素の状態が強くともジュナイダーの敵ではない。
彼女は弓を引き絞ると、ニッと笑う。
「だが、今の一撃で私を殺せなかった時点でお前の負けだ。その頭。貫かせてもらうぞ」
「剣が無いから勝ったとでも思っているのか?お前はこの10年間、私の何を見ていたというのだ。それに、私は剣を失ってなどいないぞ。私の剣は──────」
レオナが何も無い空間に手を伸ばすと、そこから1つの剣が
レオナはジュナイダーを殺すために林を切り開いたのではない。
レオナ直属の部下にして、レオナの剣。
無限に湧き出るその剣は、レオナにとって恵みの雨とも言える存在。
「────ここにある」
「っつ!!」
レオナは手に持った剣を直ぐさま投擲。
ジュナイダーは何とか剣を避けるが、彼女にとっての絶望の雨が降り注ぐ。
ドドドドドドド。
空から降ってきた無数の剣。無限剣聖の十八番にして絶対的なフィールドが一瞬にして完成したのだ。
ここまで来れば、ジュナイダーもレオナの剣が何を指しているのかは分かる。
冬が来る前の1週間。たった一人で四万もの軍勢を相手にし、圧勝した1人の子供。
「骸の王........!!ここに来ていたのか!!」
「そういう事だ。ノアがいる限り、私達がいる限り、敗北の二文字は魔王軍にない。精々足掻け。この目が貴様を逃がすとは思えんがな」
さらにレオナは青く光る目を見開く。
ジュナイダーもその目のことは知っている。細かいことは知らないが、目を態々見せた時のレオナに、矢は一本も当たった試しがない。
「っち!!」
「逃がさん」
無限剣聖に骸の王。
二つ名を持つ者達の中でもトップクラスに強い二人を相手に、ジュナイダーは勝てないと判断すると矢を放ち牽制しながら全力で逃げに徹する。
しかし、今回は昔のようには行かない。
骸の王がそれを許すはずもないからだ。
逃げ道を塞ぐように湧き出るスケルトンたち。彼は今回、あくまでも脇役に徹するつもりなのである。
「いい子だノア。後で褒めてやらんとな」
「クソがぁぁぁぁぁ!!」
ジュナイダーはヤケクソ気味に矢を連射するものの、未来視すら出来る目を使っているレオナに当たるはずもない。
そして、ギリギリまで接近されると、レオナは対単体要武技を使用し確実にジュナイダーを仕留めにかかる。
「【無限戦舞】絶剣“加法一”」
「ガッ!!」
剣を身体に打ち付け、ワザと切らないように打撃だけを与える。
そして、打ち付けた剣はそのまま肩に残し手放すと、近くにあった剣をとって再び切らずに撃ち込む。
「ニ」
「ゴフッ!!」
次は腹。
「三」
「ガハッ!!」
「四、五、六、七────」
次から次へと全身をくまなく打ち付け、剣が落ちないように器用に身体に組ませていく。
建設の骨組みのように絡み合った剣はジュナイダーを檻のように囲い、その数は33本にも及んだ。
そして、最後の一撃がやってくる。
「さらばだ」
レオナはジュナイダーの周りに打ち付けて組んだ剣の檻を、剣で叩いていく。
全ての剣を満遍なく、そして打撃を斬撃に変えるように。
「【無限戦舞】絶剣“乗法
「──────!!」
全ての剣が叩かれた瞬間、身体に纏わりついた剣が滑り落ちて斬撃となる。
全身の骨をへし折られ、肉を切り裂かれたジュナイダーは悲鳴も上げることが出来ずに多量の血を流して息絶えた。
「私の剣は強いだろう?自慢の剣だ」
レオナは長きに渡る戦いの幕引きに満足すると、死体となったジュナイダーを担ぎ上げて木に寄りかからせてから、カマセ帝国軍の後方部隊を襲撃しに行くのであった。
後書き。
レオナが主人公でいいよ。
訳「私のノアは強いだろ?自慢の部下だ」
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