カマセ帝国vs魔王国1


 お互いの軍が川を挟んで展開されてから2日後。遂にその時は訪れた。


 この世界の戦争のやり方は何故か紳士的であり、お互いの代表者が顔を合わせて“今から戦争するからね”と言うのを宣言する。


 そんな事せずに殴り込めばいいのにとは思うが、国家として最低限守らなければならないラインと言うのが存在しているのだ。


 それを堂々と破るどこぞのクソッタレな国もあるのだが、それはそれこれはこれである。


 カマセ帝国の貴族とザリウスが対峙している様子が要塞から見える。


 俺は今回、第二魔王軍の傘下に入っている扱いなので好き勝手には動けないのが辛いところだ。


 その軍には軍のやり方がある。


 戦争が始まった瞬間にスケルトン大量召喚はできなさそうで悲しいよ。


「魔王様は常々こういう。“多少の犠牲を払ったとしても、国民全員が国を守るという意識を持たなければならない。たった一人の強者だけが暴れれば、その者が消えてしまった時に国が弱くなる。国民全員で戦う。それが魔王国のあり方だ”と。ノア。気持ちは分かるが勝手な行動はするなよ」

「わかっているよレオナ軍団長。俺も軍人だからね。多少は弁えているつもりさ」

「だから魔王様は1人で暴れたりしないんだね。“魔王様がいれば問題ない!!”って国民が思わないようにするために」

「民無くして王にあらず。王なくして国にあらず。昔、南部に位置するスデニマケ王国を私一人で殲滅した時に口うるさく言われた言葉だ。戦争に勝つことはもちろんだが、勝つだけでは意味が無いとその時に言われた。国とは民によって形成され、民が国を守るのだと。たった一人の英雄が国を救ってしまっては、国民の意識は落ちてしまうと」


 普段はおちゃらけている癖して、しっかりと自分なりの国の在り方を考えているんだな。あのロリ魔王も。


 問題は、勝つ前提の考え方と言うところだが。


 今まではそれでよかったのだろうが、メインストーリーが始まると俺の隣で戦場を眺めるイカれたチート野郎が出てくるのだ。


 魔王の国としての在り方を全て否定し、たった一人で全てを駆逐したアランはある種の皮肉だっただろう。


 事実、アランが消えたあとのリバース王国はとにかく弱かった。DLCで復讐編が始まり、リバース王国との戦争をしてえ時は兵士が弱かったもんな。


 その代わり、中ボスやボスがアホほど強かったが。


 魔王国は全体的に練度が高く強かったが、リバース王国はごく少数が圧倒的に強い。


 こんな所でも国としての差が出てきているんだなと思うと、国としてのあり方を指導する王の思想が見えてくる。


 魔王国は理想論をできる限り現実に落とし込み、リバース王国は自らの利益のために理想を唱える。


 アランというバランスブレイカーが産まれなかったら、魔王国はどうなっていたのだろうか?


 やっぱりアランが全部悪いよ。だってこいつ強すぎるんだもん。


 そんなことを思っていると、ザリウスが本陣へと戻ってくる。


 カマセ帝国側の代表者も自陣に戻ると、ほぼ同時に軍を動かした。


「突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「行くぞォォォォォォォ!!」


 要塞にいるからかなり離れているはずなのだが、お互いの声がよく聞こえる。


 大地を揺らす方向と共に、兵士たちは声を張り上げながらお互いに武器を構えた。


 カマセ帝国は魔王国軍を喰い殺そうとし、魔王国はカマセ帝国軍を逆に食おうとする。


 血で血を洗う戦争が、今この瞬間始まったのだ。


「始まったね。凄まじい剣幕だよ」

「何度観ても気分の悪い光景だ」

「........」


 初めて本気の殺し合いを見るアランと、その光景を見ながら顔を顰めるレオナ。


 そんな2人の傍らで、俺はずっとカマセ帝国の陣地の奥側を見ていた。


 いるなら要塞からも死角になるであろう、あの天幕の裏からその後ろにある林の中辺り。


 鳥を飛ばしても見つからないのを見るにかなり上手く隠れているか、そもそも居ないかのどちらかだ。


 1週間前から探してんのに見つからないとは........俺の思い過ごしだったのか?


 そんな考えが頭に過ぎった瞬間であった。


 遥遠くから目で追えるギリギリの速度で何かが空に放たれたのは。


 見間違うはずもない。あんなにも離れた場所から矢を放つのはたった一人。


「アラン!!レオナ軍団長!!行くぞ!!」

「え?え??何をしているのノア!!」

「........!!待て!!勝手な行動をするな!!」


 林の中に上手く紛れているのか正確な位置が分からないが、確実に彼女はそこにいる。俺は、この場に矢野雨が降って来ることを理解すると、走って第二魔王軍の魔道士達に強い言葉で命令した。


 何が何だか分からないアランとレオナは俺を止めようと後を追うが、足の速さで俺に敵うはずもない。


 2人は俺を黙らせることに失敗し、結果的にそれは功を奏す。


「防御魔法を張れ!!後衛陣地に満遍なく!!今すぐに!!」

「へ?姫様?どうしてここに........」

「早く!!今すぐに!!」


 屈強な肉体を持つ魔人族の中でも第二魔王軍はさらに近接に特化したものが多い。そんな中で、弓兵が狙うならどこなのか?


 俺なら後衛を狙う。


 第二魔王軍の中では数が少ないが、確実に進軍の邪魔をする彼らの始末から始めるのだ。


「早くしろって言ってんだろ!!死にてぇのか!!」

「は、はい!!全員!!後衛部隊に防御魔法を展開!!」


 普段とはあまりにも違う俺の姿に、“姫様命”と書かれた団扇を腰に指していた魔導師の1人が慌てて指示を出す。


 素早く張られる防御魔法。


 その数秒後、空から降り注ぐ矢の雨が要塞をまるまる飲み込みながら後衛部隊を襲う。


 ドドドドドドド!!と、地面に突き刺さる矢もあれば、素早く張られた防御魔法によって弾かれた矢もある。


 どうやら要塞の上から支援魔法をしていた舞台を狙っていたようで、俺達に降り注ぐ矢の量が圧倒的に多かった。


「これは........奴か。敗戦したというのに、またしても戦場に立つとは物好きだな」

「そういうことだレオナ軍団長。頼めますか?」

「任せろ。戦場を避けて大きく回る必要があるが、やつは必ず仕留めよう。射角からして、あの林の中だろ?」


 急に降り注ぐ矢の雨に軽く混乱する魔導師達と、その矢が誰のものなのかをすぐさま理解し顔つきが変わるレオナ。


 クソッタレが。やっぱり居るんじゃねぇか。


 俺が見落としていたのか、それともあまりにも人の数が多すぎて見つけられなかったのか。


 ともかく、カマセ帝国とサンシタ王国が手を組んで魔王国へ攻撃してきたのである。


「うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ドガーン!!


 矢の襲撃は何とか防いだが、戦争は休息を与えてくれない。


 大きな咆哮と共に要塞の壁が吹っ飛ばされると、そこには大きな盾を構えたスキンヘッドのオッサンが居た。


 なるほど。ザリウスがどうやって負けたのかようやく理解した。


 遠距離攻撃の要でもある後方部隊を先に殲滅され、擬似的な挟み撃ちをされたからか。


 ザリウスは自分も突っ込んで戦うスタイルであり、その中で指揮もしている。


 圧倒的な前衛がいるからこそなせる技だが、後衛がやられてしまえばどうしようもない。


「ノア、あれは──────」

「行ってください。レオナ軍団長。この小鳥を連れてね。コイツは、俺とアランで何とかします」

「僕の番だね。この人、強いよ。バカそうだけど」

「盾の勇者。カマセ帝国の切り札にして、猪突猛進の馬鹿野郎だ」


 ザリウスはも今頃気づいただろう。自分との正面戦闘を避けられ、後方部隊を狙われたと。


 しかし、戻ってくるのは難しい。今、ザリウスは戦場の中にいる。


 となると、俺達だけでこの脳筋野郎を何とかしないとな。


 俺はそう思うと、杖を構えて後方部隊の人達を逃がしつつ戦場に復帰させる方法を考えるのであった。

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