北部戦線


魔王軍は現在三つの戦線を抱えている。


1つはサンシタ王国と戦う西部戦線。もう1つはリバース王国と戦う東部戦線。そして、カマセ帝国と戦う北部戦線の3つだ。


サンシタ王国は去年、1週間だけ戦争をしようとしたら俺にボコされあっという間に敗走。


和睦を結んでいないため未だ戦争状態ではあるが、実質終戦していると言っても過言では無い。


そしてリバース王国は国内が荒れまくって戦争所ではない。


反乱を目論む公爵家や、アランが居なくなったことによる王家貴族への不信感による国民の非協力的な態度など。


経済的にも軍事的にもリバース王国は今戦争を行える状況では無いのだ。


となると、現在動いている戦線は北部戦線ただ1つ。


カマセ帝国との戦いだけが、こうして残っている。


「本当にレオナ軍団長が着いてきてよかったの?一応、サンシタ王国もまだ戦争中だよ?」

「私の軍が強いのは分かっているだろう?私一人がいない程度で崩れるほど、脆く育てた覚えはない。それに、私の部下がどこかに行くのであれば、着いていくのが上司の役目だ」

「あはは。頼もしいじゃないかノア。僕は嬉しいよ。レオナ軍団長と一緒に仕事ができるのはね」

「それは俺も同じだ」


ニーナに“ちょっと仕事で戦場に行ってくる”と告げ、少し........いや、かなり機嫌を損ねさせてしまいながらも、俺達は北部戦線へとやってきた。


歩いて大体一週間半。北部戦線は割と魔王城から近い場所に位置している。


だから、武闘派が多いザリウスの軍が国境を守っているんだよな。


ザリウスの下に着く者たちは、大抵力自慢や強い奴らが多くゲームでもそれなりに苦戦させられた記憶がある。


ただし、総合力が高いだけで何かに特化してる人は少ないので、魔王軍大運動大会では中々勝てないらしい。


その種目に強い選手が少ないらしいが、俺が来るまでは模擬戦争だけは毎年優秀していたんだとか。


「まだ始まっていないようだな。今年は雪解けが少し遅い」

「お陰で俺達も間に合ってよかったよ。全てが終わったあとだったら、困ってるところだった」

「........ノア、その言い方だとまるでザリウス達の軍が負けるような言い方だね?」

「負けるとは思ってないが、嫌な予感が拭えないんだよ。あるだろ?こう、漠然とした嫌な予感を持つ時とか」

「分からくはない。何度も戦いの中に身を置くと、その勘に頼ることもある。成長したな」


レオナはそう言うと、俺の頭を優しく撫でる。


ふぁぁぁぁぁ!!推しからのナデナデ!!やばい、鼻血が出そうだ。


最近、特に運動会が終わってからはレオナのコミュ障がかなり解決されたのかこうして普通に話せる機会が増えた。


毎日なるべく話そうと努力したかいがあったかもしれん。なんてったって、こうして頭をナデナデしてもらえるのだから。


半年以上、顔を合わせる度に“いい天気だな”と言われつづけた甲斐があったというものだ。


今のレオナは原作のように、ぬいぐるみ相手に会話の練習をするようなコミュ障こじらせ女では無いのである。


それに伴い、スキンシップも少しだけ増えた。


特にニーナは完全にレオナに懐いたようで、普通に頭を撫でさせている。


アランが大きなダメージを受けてガチ凹みしていたので、俺の頭を撫でさせてやろうか?とからかったら速攻で復帰したが。


アラン、そんなに俺の頭を撫でるのが好きだったのか?しょうがないな。偶には撫でさせてやるから、猫さんをやるのだけは勘弁してね。


「おうおう。随分と話すのが上手くなったじゃねぇか。昔なら“そうか”としか言わなかったくせによ」

「ザリウス。おはよう。今日もフサフサだね。触ってもいい?」

「おはようザリウスさん。フサフサモフモフ触っていい?」

「........余計なお世話。昔の話はどうでもいい」


レオナ達と共に北部戦線の要塞の中を歩いていると、ザリウスがひょっこりとやってくる。


朝からしっかりとご自慢の毛をケアしてきたのか、サラサラモフモフな毛がなだらかに揺れていた。


「おうよ。好きに触るといいさ。この調子だとあと一週間は問題なさそうだし、その間はのんびりしているといい。ウチの軍も姫様が応援しに来てくれたって喜んでたしな。その報酬とでも思ってくれ」

「........そんなに喜んでたの?」

「知らないのか?第三魔王軍の奴らの大半は姫様のファンだぜ。だけど、エルのファンも多くてな........お陰で毎日論争が起きてやがる。どっちも違ってどっちもいいでいいのにな」


本当にクソどうでもいい事で論争を巻き起こすんじゃないよ。


エルが可愛いか俺が可愛いかとか、どうでも良すぎてあくびが出る。


というか、俺は可愛くなんてない!!エルは可愛いけど。というか、男の中で一番可愛いのはアランだろ。


こいつ、イケメンの癖して結構乙女だからな。


この前なんて、ペンギンのぬいぐるみがどうしても欲しくて買いに行ったぐらいだし。


しかも、クソデカペンギンのぬいぐるみを。


メートル越えのぬいぐるみを買うやつは初めて見た。あの嬉しそうにペンギンのぬいぐるみを抱きしめていたアランは、めっちゃ可愛かったな。


尚、何故か俺の分とニーナの分まで買ってくれた。


お陰で引越し前に荷物が増えて困っているところである。


でもモフモフで気持ちよかったからヨシ!!その日から寝る時はペンギンさんが俺たちを見守っている。


「分かるよその気持ち。エルさんも可愛いけど、ノアの方が圧倒的に可愛いもんね。ザリウス。ちょっとそのエルさんのファンの人達の場所を教えてくれる?僕がお話洗脳してくるから」

「私も着いていこう。私の可愛い部下とあの腹黒を比べるとは何事だ。しっかりと話して分からせてやらんとな」

「お、おう。今の時間なら多分広場で言い争ってるはずだ........え、マジでいくの?」


おーい。二人までそっちに行くな。


ただでさえ火種が大きいのに、その中にガソリンをぶち撒けに行こうとしないでくれ。


しかし、あまりにも二人の目がマジすぎたのか、気圧されたザリウスが思わず場所を教えてしまう。


「ありがとうザリウス。ノア、ちょっと行っくるね」

「行くぞアラン。この要塞に来て初の仕事だ」

「ちょ、待てアラン。待てって!!........あぁ行っちまった」


にっこりと笑って(目の奥は欠片も笑ってない)姿を消すアラン。


俺が声を掛けたというのに、1度走り始めてしまった暴走勇者を止めるには至らなかった。


大丈夫?戦争する前に内戦が始まろうとしてない?クッソ下らねぇ事で内戦が起きて戦争に負けましたとか報告したら、魔王も頭を抱えるぞ。


「なんというか........姫様も大変だな。レオナとアランの相手を毎日させられるのは骨が折れそうだ」

「普段は普通なんだけどね。暴走すると俺が何言っても止まらないよ。それこそ、猫さんのコスプレをして“にゃ”とかしないと」

「もうコスプレを常備していた方がいいんじゃねぇか?そしたら世界は平和になるだろ」

「嫌だよ。俺も男だぞ?何が悲しくて猫のコスプレを常備してなきゃならんのだ」

「そういえば姫様は男だったな。最近女の子扱いされすぎててちょっと忘れてた」

「おい」


ザリウス。お前もか。


プルートもそうだったが、やはり俺を女の子と認識しているやつが多すぎるのでは?


1回魔王軍の人たちにアンケート取ってみたいよ。俺が男なのか女なのかどう認識しているのかを。


........いや、やめた方がいいか。多分全員悪ノリして女の子の方に票を入れそうで怖い。


俺は、このアンケートはパンドラの箱だと言う事で、今後二度と考えることはしないようにするのであった。

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