急展開


 長く濃密な冬もそろそろ終わりが近づき、平穏な世界が終わりを迎え始めた頃。


 俺はこの1ヶ月間日課としていたリバース王国内の監視を続けていた。


 元々はアランの様子を見るために構築した情報網であるが、せっかく作ったのだから今後も活用したいと思うのが人の性。


 特に、それが生死を分ける可能性すらあるとなれば、怠ることは出来ない。


 アランの学友にして公爵家の息子で買ったエルベス君を中心に、様々な所を監視していると徐々にリバース王国の現状が見えてくる。


 アランを連れ去られたリバース王国は、新たに仮の勇者を立てたもののどこからか情報が漏れて今や“勇者から見捨てられた国”となっている。


 国王は“勇者が魔人族に攫われた”と発表しているが、それよりも早くとある噂を流したものが存在する。


 それがエルベス君の家である公爵家だ。このリバース王国の中でも数少ないまともな貴族にして、5年後に反乱を起こしアランに制圧された公爵家が先手を打って民に王家への不信感を与えたのである。


 勇者に逃げられたと噂されるようになり、王家や王家派閥に属する貴族たちの立場はかなり危うい。


 1歩間違えればクーデターが起きるすんぜであり、公爵家はこの機会に反乱を起こして王家を打破するつもりに見えた。


「早い。あまりにも早すぎる。かなり不味いぞこれは。リバース王国での反乱は相当後の話だし、それと連動して他の国も動くと面倒になる。ここでストーリーをねじ曲げたツケが回ってきたか」


 本来であれば、5年後に始まるはずであった王家への反乱。


 しかしそれはゲームの話であり、原作をぶっ壊してしまった今となっては何がどうなってもおかしくない状況だ。


 国内でクーデターが起こりそれに成功すればいいが、失敗す可能性の方が圧倒的に高い。


 特に俺と鬼ごっこをした騎士団長をどうにかできなければ、反乱軍に勝ち目は無いだろう。


 魔王に言って手を貸すか?いや、それだと魔王軍の唆された悪の反乱になりかねない。


 恩を売り付けて上手く事を納めたいが、今の状況では手が出せないな。


「エルベスもかなり面倒な立ち位置にいるな。アランが消えてからは上手くコネクションを作ってはいるが、王家派閥の連中が邪魔になっている。助けてやりたいけど、今は無理か」


 アランと仲の良かったエルベスだが、学園内では彼のせいでアランが消えたような噂が流れており、かなり孤立してしまっていた。


 しかし、本人は全く気にせず堂々とし、元々性格がいい為か上手く立ち回ってはいる。


 親父が反乱計画をしているのは薄々察しているだろうが、人質にされる可能性もあるだろうから上手く逃げられるといいが。


「リバース王国内部では貴族派閥と王家派閥の対立が激化し始めているな。で、その陰に隠れてコソコソと王家打倒を目指しているんだから逞しいもんだ。内戦イベントが始まるのも早いかもしれん」


 それと、他にも問題はある。


 あと一週間程でカマセ帝国との戦争が始まるが、この内戦イベント時の情勢はかなり魔王軍に不利なものであった。


 サンシタ王国とカマセ帝国の同盟による二正面戦争を強いられ、何とか耐えている時に内線を終えたアランが突っ込んでくる。


 アレは魔王軍側からすれば笑えない冗談だろう。サンシタ王国の勇者とカマセ帝国の勇者のコンビはかなりの強者であり、その際にザリウスがかなり大きな傷を負って帰ってきたとナレーションで書かれていた。


 ザリウスの負傷により、北部戦線が崩壊。その後何とか押し返して2人の勇者を倒すが、疲弊しきった魔王国にアランを倒すだけの力は残ってなかった。


 いや、アランが規格外でなければ倒せたんだろうけど、アランは化け物じみてるからな。多分、疲弊してなくても勝てないよ。だってあいつゲームシステムの外にいるんだし。


「どうしたもんかねぇ........もし同盟を組んでいるならかなり不味い。ザリウスが傷つくのは見たかないが、俺は動けないしな。一応第四魔王軍の管理下にいる兵士だし、自由には動けない。魔王に直談判するか?」

「ほう?この妾に直談判とな?」

「........へ?うわぁぁぁ!!」


 自分の部屋で今後の動きをどうしようかと考えていると、ふと後ろから声がかけられる。


 振り返れば、そこには何故か魔王がいた。


 人の部屋に勝手に入ってくるんじゃねぇ。アランとニーナに殺されるぞ。


「くははははははっ!!ドッキリ大成功!!何を思い詰めた顔をしておるのだ?」

「........なぜ当たり前のように人の部屋に上がり込んでるんですかねぇ。アランとニーナは?」

「ん?知らんぞ。何せ、転移でやってきたからの!!三人とも驚かせてやろうと思ったが、どうやらノアしか居らんかったようじゃ!!」

「帰れ。いや、帰らなくていいからアランとニーナに殴られてこい」

「くははははははっ!!その時はまた逃げるから問題なし!!で、何を妾に直談判するのだ?........はっ?!もしやプロポーズかの?!」

「それは絶対にないから安心してくれ。魔王様にプロポーズする奴がいたら、俺の全てを持ってしても止めるぞ」


 めんどくせぇのが来たよ。しかも、来て欲しくないタイミングで。


 聞かれたくないタイミングで来るとか、実は狙ってるんじゃないだろうな?


「クハハ。酷すぎる扱いに、妾泣いてしまいそうじゃ。さて、それはそれとして大体お主の悩みはわかるぞ。さしずめ、戦争のことじゃろ。お主がそういう顔をする時は、大抵面倒事になると相場が決まっておる」


 少しだけ泣き真似をした魔王は、真面目モードに入ると静かに俺を見つめる。


 その目は、一国の王としての目であった。


 どうせはぐらかしてもしつこく聞かれるだろうし、魔王なら深くは聞いてこないだろう。


 この人、普段からウザイことしかして来ないが、空気はちゃんと読める統治者なのだ。


「........サンシタ王国とカマセ帝国が同盟を結んで北部戦線に来るんじゃないかと思って。そういう情報は?」

「入ってきておらぬな。そもそも、他国への諜報に行かせるのが難しい。妾達はこんな見た目じゃからのいやでも目立つ。だからエリスを重宝しておるのじゃ。あ、“諜報”と“重宝”をかけたわけじゃないぞ?」

「多分、手を組んでくる。何か対策はしておいた方がいい」


 俺の言っていることは確実では無い。しかし、その可能性は高かった。


 ほぼ全てのストーリーをすっ飛ばして、反乱イベントにがやってくる。


 そして、当時はサンシタ王国もかなり敗戦気味で今の状況とかなり重なる。


 メインストーリーめ。全てのイベントをすっ飛ばして、帳尻を合わせに来たな?死ねよ。お前がこの世界で生きる場所はないっての。サブストーリーちゃんは生きてて欲しいが。


 俺の曖昧な言葉に、魔王は静かに下を向いて考え事をすると1つの結論を出す。


「その予想が外れていた時が怖いの。軍を動かすのは難しそうじゃ」

「........そうか」


 やはり難しいか。


 どうしたものかと思った俺だったが、魔王は続けざまにこう言った。


「じゃが、兵士を数人動かすぐらいなら問題ないじゃろ。サンシタ王国はしばらく動けんし、もし来るとしても勇者と生き残り程度。となれば、こちらもその戦力を送るぐらいは良いかの。と、言うわけで、ノアよ。アランと共に北部戦線へ行ってこい」

「........!!いいのか?」

「お主の勘は当たりそうじゃしの。レオナは........あー多分着いて行くとか言い出しそうじゃの。面倒だしもうあヤツも行かせるか。3人で言ってこい。ニーナにはちゃんと言っておくのじゃぞ?じゃなと妾が殺される。いやマジで。本当に頼むぞ」

「わかってるわかってる。わかってるから、そんなに怖い顔しないで魔王様」


 流石は我らが魔王。話がわかる。


 一兵卒にもならない新兵の言葉を信じてくれるとは、器が広いよ。


 でも、ニーナは怖いんだな。あれ?実はニーナが魔王なんじゃね?俺はそう思いながらも、1週間後に向けて準備を始めるのであった。




 後書き。

 メインストーリー「やぁ」

 ノア「死ねよ」

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