祝勝会


 毎年恒例魔王軍大運動大会はレオナの活躍により第四魔王軍の優勝で幕を閉じた。


 閉会式を執り行い、第四魔王軍代表であるレオナは誇らしげに優勝旗を掲げると、誰もが嬉しそうに歓声を上げる。


 今回のMVPはレオナだな。強すぎぶっ壊れのキャラではあったがガルエルをも瞬殺するとは凄まじい。


 そして、閉会式が終わった後は打ち上げだ。


 俺達は既に予約していた(ミャルが予約してくれた)出張酒場の到着を待つと、第四魔王軍の訓練場で祝勝会をすることになった。


「えー、レオナ軍団長、そして新たに加わったノアとアランの活躍により、第四魔王軍の優勝にゃ!!という訳で、勝利にカンパーイ!!」

「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」


 ミャルの音頭により、その手に持った杯を掲げる俺たち。


 立食パーティーの様な形式で用意された串焼きや、様々な食べ物を食べながら第四魔王軍は勝利の美酒に酔いしれる。


 その中には、応援をしてくれた人々も混ざっていた。


 なるほど。軍人と市民の距離が近いのは毎年こう言う催しをする為なんだな。流石は魔王。普段はムカつくことしかしないくせに、優秀である。


「凄かったねレオナ軍団長。特に決勝戦は何もかもが掌の上だったよ」

「あんなんを模擬戦に使われた日には、どう足掻いても勝ち目がないな。疲れるまで逃げて、隙が出来たら叩くぐらいしか攻略法がないよ」

「レオナ、かっこよかった!!」


 ワイワイと騒ぐ訓練場の隅で、のんびりとアラン達と話しながら昼食代わりの串焼きを摘む俺。


 まさかスキルであり、レオナの強みでもある“目”を使うとは驚きだ。


 心理を見通す心眼ハートオブアイズ


 レオナのスキルであり、未来を見通す目。


 ありとあらゆる情報をその目で見通し、擬似的な未来すらも予測できるその心眼はゲームの中でも散々苦戦させられたっけ。


 あの綺麗な蒼眼に惚れて俺はレオナの事が好きになったまである。あの目は本当に好きだ。


 この世界では初めてレオナの目を見たが、正直興奮のあまり記憶が飛んでいる。


 隣にいたアランとニーナが軽く引くぐらいには、俺はレオナを応援(興奮)していたからな。


「ノアが今までに見た事がない程騒いでいたね。ちょっと面白かったよ」

「にぃに、うるさかった」

「ハハハ。悪かったなニーナ。普段全く見られないレオナ軍団長の目を見てはしゃぎ過ぎた。でも凄くかっこいい目だっただろ?」

「ん。かっこよかった」


 そうだよかっこいいんだよ!!普段はコミュ障で話しかけられると眉を不安げに潜めながら何とか会話を試みるレオナが、目隠しを取った時だけは静かな狩人となるその時が滅茶苦茶俺は好きなのだ。


 あの目を見られたのならもう死んでもいいかもしれん。そう思うぐらいには、目がタイプなのである。


 そんなことを話していると、車椅子に乗った猫耳の少女とミャルがこちらへやってきた。


 ミャルはその少女にベタベタとしながら気持ち悪い笑みを浮かべ、俺とアランはその少女が誰なのか察する。


 ミャルの妹さんだな。ミャルが重度のシスコンになった原因であり、自室に肖像画を飾るほどに可愛がる妹。


 確かに可愛いけども、妹さんちょっと嫌そうにしてない?


「ノア!!アラン!!ニーナ!!私の妹を紹介するにゃる!!」

「初めまして姫様。アラン様、ニーナ様。姉がいつもお世話になっております。シャルと申します」

「あ、どうも。第四魔王軍所属、ノアです。ミャル代理軍団長にはいつもお世話になっております」

「アランです。よろしくシャルさん」

「よろしく」

「私の妹にして、この世界にたった一人の天使!!可愛いでしょ?!可愛いでしょ?!」


 自分のキャラを忘れ、妹の可愛さを布教しようとするミャル。


 そのあまりにも凄まじい勢いに、俺達は首を縦に振るしか無かった。


 いや、まぁ、実際に可愛いんだけれども、そこまで圧をかけられると困るぞ。キャラ忘れちゃってるじゃん。語尾に“にゃ”をつけ忘れてるじゃん。


 後、シャルさん?サラッと俺の事を姫様と呼ばないでくれ。俺は男だし、名前はノアだよ!!


「姉さん、姫様達が困ってますのでやめてください。私も恥ずかしいです」

「え、でも──────」

「姉さん」


 何かを聞きかけたミャルだが、妹の圧力に負けたのかトボトボとシャルさんの車椅子の後ろに戻るミャル。


 妹も大変だな。こんなにも愛の重い姉に付きまとわれていたら、そりゃ体を壊すよ。


「すいません。姉さんはちょっと........そのー頭がアレでして」

「大丈夫大丈夫。キャラ付けのために語尾に“にゃ”をつけるような人なんだから、いちいち気にしてないよ」

「あはは。それはそうだね。いつも通りのミャルさんだよ」

「な!!2人とも失礼にゃるよ!!」

「姉さん、静かに」

「はいぃ........」


 口を挟んでシャルに怒られ、シュンとするミャル。


 尻尾も耳も下に下がり、本当に悲しそうであった。


 すると、今度はそんなミャルの後ろから誰が抱きつく。


 誰かと思ったら、ヤニカス姐さんのプルートであった。


「代理だんちょー!!何しょげてんだー!!ほらほら飲もうぜ!!」

「ちょ、お前またタバコ吸ってたにゃるな?!ヤニ臭いんだよ!!その手をどけろヤニカス!!」

「うはは!!やなこった!!ほらほら〜!!早くしないと臭いが移るぞー!!」

「マジで辞めろこのヤニカス女!!シャルに嫌われたらどうするんじゃゴラァ!!」


 酒に酔ったのか、ミャルにだる絡みするプルート。


 ミャルは本気で嫌そうにしながらプルートを振り払おうとするも、中々プルートも粘る。


 ふとプルートと目が合うと、彼女は俺にウィンクをした。


 あ、これ酔ってないわ。シャルさんとゆっくり話す機会を作るために、ワザと酔ったフリしてるわ。


 アンタかっけぇよプルート。今度から姉御って呼ぼう。ヤニカスの姉御!!かっこいいっす!!


「ふふふ、姉さん、楽しそう」

「あれを見て楽しそうだと思えるなら、いい趣味しているよ。シャルさんは体が弱いんだっけ?」

「はい。生まれつき体が弱く、姉さんには多くの苦労をかけました。魔王軍に入ると言った時の理由も、私の治療費を稼ぐためでしたから........」

「愛されてるんだね。家族愛があっていいと思うよ。僕らは生みの親の顔なんて見たことないし、兄弟もいないけどそれでも家族としても愛は暖かいものなんだ」

「ふふっその通りです。まぁ、行き過ぎた愛は困りものですけどね........ほら姉さん、私のことが好きすぎるので、誰かに紹介する時なんかはいつもこんな感じなんですよ」

「うん。まぁ、皆慣れてるから大丈夫だろ。シャルさんの話をする時は、皆顔が死んでるしな」

「何回も同じ話ばかりを聞かせてくるからね........」

「私も聞かされた。可愛いのは分かったけど、それ以外のことが分からない」


 マジでずっと可愛い可愛いしか言わないから、何が言いたいのか全くわからん。


 普段は真面目でムードメーカーなミャルだが、妹が絡んだ時だけポンコツになるのは本当に勘弁して欲しい限りだ。


「本当にすいません........姉さんには散々言っているのですけどね。私の話を外でするなって」

「無理だな。週に一度は絶対話すぞ。この前はおねしょの話をしていた。結局可愛いで終わるんだけどな」

「あーそんな話もしてたね。休憩時間中にずっと話されて休憩できなかったや」

「私もその話、聞いた。おねしょで世界地図を書いたって」


 この前話された時の事を思い出していると、ドス黒いオーラが顕現する。


 恐る恐るシャルさんの顔を見ると、にっこりと笑っているのに激怒しているのが丸わかりであった。


 しまった。流石に年頃の女の子におねしょの話はタブーだった。デリカシーに欠けるわ。


「........すいません。少し用事が出来ました。これで失礼しますね。今後とも、姉をよろしくお願いします」

「あ、はい。こちらこそ」


 ミャル、南無三........

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る