決勝戦


 魔王軍大運動大会も終わりを迎え、最終種目の決勝戦が始まろうとしていた。


 第四魔王軍軍団長レオナvs第二魔王軍軍団長ガルエル。


 去年と同じ顔ぶれである決勝の舞台で、レオナは静かに闘技場に立つ。


「去年ぶりだな。こうしてお前と戦うのは。今年も勝たせてもらうぞ?」

「悪いが、私が勝つ」

「へっ!!ノアとアランと言う新たな部下ができて嬉しそうだってな。さっきエリスが喜んでたぜ。レオナが随分と話せるようになったって聞いたぞ」

「........大事な部下だ。そうもなる」


 いつもなら“そうか”とだけ返すレオナが、しっかりと会話をしている。


 この会話をノアが聞いていたら感動のあまり涙を流すだろう。しかし、残念な事に遠く離れた観客席からはレオナの声は聞こえない。


 口の動きを見て“何か話してるな”ぐらいにしか思えなかった。


 ガルエルは普段よりも話せるレオナの成長を嬉しく思いつつも、それはそれとして部分が勝つことは譲らないつもりでいる。


 部下にいいところを見せたいのはレオナだけではない。全ての幹部が部下にいい所を見せたいのだ。


「ま、私の勝ちは譲らんよ」

「悪いがその勝利は訪れない。私の“目”を使うからな」


 レオナはそう言うと、普段から見えすぎているがために隠している目の布をとる。


 固有スキル“真理を見通す心眼ハートオブアイズ”。


 相手の魔力量やその筋力の動き果てには世界のほぼ全てを見通すことの出来る目。それがレオナの1番の強みであり、この状態のレオナは擬似的な未来視すらも使えるほどにまで至る。


 欠点としては、あまりにも世界が見えすぎるために情報の処理が多すぎて脳への負担が大きすぎること。


 短期決戦用のスキルであり、長い時間を戦うには向いていないのだ。


 真っ青な陰りのない瞳がガルエルを見据える。


 長年様々な強敵と戦ってきたガルエルですら、その身を震わせるほどの圧が静かに重くのしかかった。


「........なるほど。どうやら余程姫様にいいところを見せたいらしいな。普段の大会なら絶対使わないくせに」

「ルール違反ではなくとも公平性に欠ける部分もあったからな。だが、今年ばかりは違う。大会を盛り上げるとかそういうのはナシだ。言っただろう?“勝利は訪れない”と」


 両者が構え、闘技場に静寂が訪れる。


 ガルエルは自分の背丈ほどある巨大な木の剣を、レオナは普通の木の剣を構えるとその時が来るのを待った。


『まーたこの人達私の紹介をする前に構えてるよー!!私の紹介そんなに要らないの?!酷くない?!えぇい!!決勝戦、試合開始!!』


 サラッと紹介を流されて駄々を捏ねながらも、実況が試合開始の合図をする。


 ガルエルとレオナは全く同時に動き出すと、急速に間合いを詰めた。


 リーチの問題で先に攻撃を仕掛けたのはガルエル。その強靭な肉体から繰り出される一撃でレオナを叩き潰そうとするものの、レオナの足はかなり早い。


 紙一重でレオナはその攻撃を避けると、ガルエルに向かって剣を突き立てるフリだけをして素早く上に飛んだ。


 それと同時に振り下ろされたはずの大剣が、レオナがいた場所を通る。


 最初の一撃は囮。本命は振り下ろしたあとの横払いであったが、極限状態のレオナはその全てを見抜いていた。


「チッ!!やっぱり避けるか!!」

「そこ」

「オラァ!!」


 完全に無防備になったガルエルの脳天に向かって剣を振り下ろすレオナ。しかし、フィジカルモンスターのガルエルは素早く大剣を離すと拳を振りかざしてレオナの剣を迎え撃つ。


 いつもの大会であればここで衝突が起こっただろう。しかし、未来すら見えている今のレオナはガルエルにチャンスのひとつも与える気は無かった。


 レオナは本命に見せ掛けた一撃を囮に使い、剣を手放してガルエルの拳を避けると素早く懐に入り込む。


「げっ........」

「【無限戦舞】無刀、手断」


 ガラ空きの脇腹。レオナは怪我はしない程度に加減しながらもその中で出せる全力でガルエルの脇腹を手刀で叩き切った。


 大きな体格でかなりの重量があるガルエルの体が横に吹き飛ぶ。


「カハッ........」


 ガルエルは息をすることすらできなくなり、体も上手く動かなくなったがそれでも何とか場外は免れた。


 が、場外を免れたからと言ってレオナが攻撃の手を緩めるはずもない。


 場外に出ないとわかった瞬間レオナは素早くガルエルに近づくと、体制を立て直す前にガルエルの尻尾を掴んで思いっきり投げ捨てる。


 普段のレオナの力では絶対に出来ない芸当だが、“絶対に勝つ”という意思がガルエルの体を投げ飛ばしたのだ。


 幾らガルエルとは言えど、空を飛ぶ手段は持っていない。


 ガルエルは星の重力に従って下へと落ちていき、背中を強打して地面に倒れ込む。


「はぁはぁ........やはり、この目を使うと疲れる」

『決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!またしても早期決着!!僅か数秒の攻防を制し、この幹部模擬戦を制したのは、第四魔王軍軍団長!!レオナだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」


 湧き上がる歓声。


 誰もがその一瞬の攻防に目を奪われ、レオナの勝利に声を張り上げる。


 特に酷いのは第四魔王軍の面々であり、号泣しながら“レオナ!!レオナ!!”と叫んでいた。


「レオナ軍団長の勝ちだ!!やったー!!」

「レオナ軍団長!!バンザーイ!!」

「バンザーイ!!」


 その大歓声の中でか細くもレオナにしっかりと聞こえてきた言葉。


 初めての直属の部下であるノアとアラン。そして、何かと可愛がっていたニーナの声だけはハッキリと聞こえる。


(やったやった!!勝った!!ノアくんにもアランくんにもニーナちゃんにもいい所を見せられたよぉ!!)


 決して口には出さないが、内心では滅茶苦茶喜ぶレオナ。


 レオナはこれ以上の情報は自分へのダメージになると思い、再び目に布を巻いた後、悔しそうにしながらもどこから清々しそうなガルエルの元へと行く。


「負けたな。完敗だよ。今思えば、本気で戦ったことは無かったかもな」

「殺し合いなら結果は違ったかもしれないが、今回は私の勝ちだ」

「フハハハハ!!本当に変わったなレオナ。私もエリスもそっちの方が好きだぞ?」

「........そんなに変わったか?」

「違うね。断然違う。圧は相変わらずあるが、今のレオナは話していてすごく楽しいよ。あ、昔が楽しくなかった訳じゃないぞ?あれはあれで面白かったしな」


 エリスと同じことを言われ、首を傾げるレオナ。


 自分はそこまで変わったと思っていないが、他人から見たらそこまで違うものなのだろうか?


 今度魔王に聞いてみよう。そう思ったレオナは、ガルエルに手を差し出す。


「動けるか?」

「大丈夫大丈夫。体の頑丈さと力だけが取り柄だからな。でも痛てぇよ。あの手刀、本当に手で殴っただけなのか?私の体が吹っ飛ぶなんてとんでもないな」

「加減はしたよ。もう少し加減した方が良かったかも」

「嫌味かコノヤロー。部下ができてから楽しそうにしやがって」


 レオナの手を借りて起き上がったガルエルは、ニッと笑いながらレオナの肩に手を乗せるとうりうりと頭を撫でる。


 レオナは少しウザそうにしながらも、その手を拒むことは無かった。


「レオナ軍団長ぉぉぉぉぉぉ!!やったにゃ!!勝ったにゃ!!」

「ハッハッハ!!やっぱりうちの団長こそが世界一だぜ!!」

「レオナ軍団長最強!!レオナ軍団長最強!!」


 嬉しさが抑えきれなかったのか、ついには観客席から飛び出してくる第四魔王軍の面々。


「ほら、行ってこいよ。この声援は全部自分の手で掴み取ったものなんだ。手放すなよ」

「言われずとも」


 レオナは静かに笑うと、飛びついてくるミャルを受け止めるのであった。




後書き。

あれ?なんかレオナが主人公に見えてきた。

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