第一回戦第二試合
今大会のメインイベントである幹部模擬戦。実はこのイベントはゲームでは無かったりする。
模擬戦と言う競技はあるのだが、幹部だけが使える模擬戦と言うのはないのだ。
そんなこの世界だけに用意されたイベント。
その中で1人際立つのは第四魔王軍軍団長レオナである。
第一回戦第1試合は既に終わり、去年の雪辱を果たしたザリウスがエルを倒した。
エルは泣きそうになるほど悔しがっていたが、その様子を見ていた第五魔王軍の面々はその可愛さに全員倒れてしまっている。
この世界の美少年は、世界を虜にしてしまうのであった。
そんなこともありつつやってきた第一回戦第二試合。
去年の総合順位三位の第四魔王軍と総合順位六位である第六魔王軍の戦いが、幕を開けようとしていた。
「今年は負けませんよ。皆様が頑張ってくれたおかげで現在四位につけていますからね。せめて来年のシード権だけでも獲得し、次に繋げさせてもらいます」
「........そうか」
何万人もの観客が見守る中で、レオナは静かに答えた。
エリスもやる気満々であるが、レオナのやる気はその日ではない。彼女はとにかく新しく出来た自分の部下にいい所を見せたいのである。
そして、その為にはこの幹部模擬戦で優秀しなければならない。
ゆっくりと剣を引き、左手の甲に剣の腹を乗せたレオナは“それ以上話すことは無い”と言わんばかりであった。
対するエリスも、糸を魔力で動かしながら構えを摂る。
「ノアくんとアランくんには悪いですが、私が勝ちます」
「先に謝っておく。加減を間違えるだろうが、頑張って耐えてくれ」
「ふふふっ、そう簡単に私がやられるとでも?」
「私が糸を切れないとでも?」
これはあくまでも模擬戦の為、殺し合いはご法度。木剣とただの糸を構える両者もそれは理解しているが、その中で相手を殺すという意思は崩さない。
『おぉ、既にお互いに構えを取った!!ならば紹介も抜きに始めてしまいましょう!!第一回戦第二試合!!第四魔王軍軍団長レオナvs第六魔王軍軍団長エリス!!試合、開始ぃ!!』
実況の開始の合図と同時に、両者が動く。
レオナは自身の剣の間合いへとエリスを引きずり込むために接近し、エリスはその間合いから逃れるように糸を駆使しながら後ろへと下がった。
レオナの周りに蜘蛛の糸のようにエリスの糸が絡みつく........が、しかしレオナの剣技はこの程度の攻撃に動じることは無い。
「フッ!!」
目に見えるか見えないかの細き糸を神速の剣で全て叩き切る。
この場でレオナの剣の動きを終えたものは極わずかだろう。同じ魔王軍幹部とどこぞのチートじみた勇者や魔王ぐらいが見えているぐらいだ。
他のものからすれば、レオナの剣は空を切っただけにしか見えない。
「ッチ!!なんでただの木の剣が糸を切れるんですか?!」
「研鑽の積み重ね。それだけ」
「断絶糸!!」
「【無限戦舞】一刀、破局」
糸を着られリーチを失ったエリスが武技を使用。それに合わせてレオナも武技で迎え撃つ。
剣の頂きに立つものは、例え木の剣であろうとも神剣と化す。
レオナの一刀は迫り来る糸を無惨にも切り捨て、その風圧によってエリスを吹き飛ばした。
「........っつ!!糸が」
エリスは確かに魔王軍の中でもトップクラスに強いが、彼女の強みは遠距離からの多彩な攻撃。
武器が無くともフィジカルでゴリ推してくるガルエルやザリウスとは違い、エリスは武器がなければその強さが半減してしまうのだ。
そして今、彼女は武器を失った。
それが示す結果は“敗北”の二文字である。
レオナはエリスの脳天に剣を叩き込もうとし、これが模擬戦だと言うことを思い出して肩で体当をする。
もしここで剣を振り下ろしていれば、空の上で何故かポップコーンとコーラを飲みながら観戦をしている幼女に試合を止められていた事だろう。
「ゴフッ!!」
「私の勝ち」
体がくの字に曲がりながら吹き飛ばされたエリスは、勢いよく壁に激突することでようやく止まる。
レオナは心の中で“少しやりすぎた”とも思いつつも、部下にいい所を少しでも見せられて満足そうであった。
『き、決まったぁぁぁぁぁぁ!!試合開始から僅か10秒にて決着!!エリス選手場外により、第四魔王軍軍団長レオナ選手の勝利だぁぁぁぁぁぁぁ!!』
わぁぁぁぁぁぁぁ!!湧き上がる会場。
レオナは直ぐさま自分の部下達の方に顔を向けると、彼らは嬉しそうに手を振って喜んでいた。
最近ようやく頭を撫でさせてくれるようになったニーナや、自分と同じレベルの強さを持つアラン。そして、不思議な雰囲気を纏うノア。
この3人が喜ぶ姿を見られて、レオナはすごく満足そうにしながらエリスの元へと駆け寄る。
「すまない。少々力が入りすぎた」
「いてて........いえ、大丈夫ですよ。そこまで大きな怪我ではありませんし。それにしてもレオナ。貴方、少し変わりましたね」
「........私が?」
「えぇ、昔のレオナならあんなに嬉しそうな顔をしていませんでしたよ。ふふっノアくん達のお陰ですかね?随分と顔の表情が豊かになりましたよ」
そう言われたレオナは自分の顔を触ってみるが、よく分からずに首を傾げる。
しかし、昔からレオナを知る者達からすれば、これほどまでに表情が豊かなレオナを見るのは初めてであった。
「私は寡黙な貴方よりも、今の方が好ましいですよ。いてて、手を貸して頂けますかね?ちょっと腰が痛くて........」
「無理をするな。ほら、医務室まで運んでやる」
「へ?ちょ、へぇ?!」
スっとお姫様抱っこをしたレオナと、まさかお姫様抱っこをされるとは思っておらず驚きのあまり固まってしまうエリス。
そして、2人の尊さに心を撃たれて倒れる観客。
今、この場は完全にレオナが支配していた。
「昔、まだエリスが小さい頃にこうして抱っこしてあげていたな。ほかの幹部達にもやってもらっていたのを覚えているぞ」
「あ、あれは魔王様が“お姫様抱っこ選手権”とか言う訳の分からない大会を開いたからです!!私がねだった訳ではありません!!」
「そうだったか?ハハッ、懐かしすぎてあまり覚えてないな」
「........」
珍しく笑ったレオナの顔を見て、再び固まるエリス。
どうやら、初めての直属の部下と言うのは、レオナにこれほどまでに大きな変化を齎したらしい。
僅か数ヶ月で人はここまで変われるものなんだなと、エリスは思った。
「ん?どうした」
「いえ、やはりレオナは変わりましたよ。昔なら“そうか”としか言いませんでしたもん。ノアくんたちとのコミュニケーションで、多少人との話し方が身についてなによりです。これで少しは誤解が解けると........あぁ、いや、第四魔王軍の皆様は大丈夫そうですね。なんか胸を抑えて倒れてますし」
「........何してるのあれ」
「バカがバカしているだけですよ。それはそうと、下ろしてください。恥ずかしいです」
「断る。このまま大人しくしていろ。怪我を甘く見ると痛い目を見るぞ」
機嫌のいいレオナはそう言うと、エリスを医務室まで連れていく。
結局、エリスはずっと恥ずかしそうにしながらもレオナの優しさを感じるのであった。
その後に行われた、第二回戦第二試合。去年の総合順位二位である第一魔王軍軍団長グリードもレオナは難なく勝ち越し、決勝戦へとコマを進める。
相手は去年も戦い、そして敗北した第二魔王軍軍団長ガルエル。
魔王軍の中でも一二を争う武闘派であり、去年の雪辱を果たす時が来たのである。
後書き。
グリード「え、私ダイジェスト⁈」
ノア「どんまい」
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