幹部模擬戦


 翌日、祭りの熱は最高潮を迎え、誰も彼もが浮き足立って騒いでいる。


 戦争中だと言うのにこの明るさと賑やかさ。リバース王国が戦争中だった頃のあの暗い雰囲気を知っている俺からすれば、この明るさはあまりにも眩しすぎた。


 その中に本来はアランも入るはずだったんだけどな。今となっては俺の隣でニコニコしながら歩いているのだから、人生とは何があるのか分からない。


 いや、それで言えばこの世界に転生してきたのが一番意味が分からないか。きっと、この転生した理由は一生分からないんだろうな。


 神に飛ばされたり、邪な計画を持った者が呼び寄せたりと様々な転生理由があるものの、俺はなんとなくその真実を知ることは無いと思っている。


 知りたくもないし、知ったところで興味もない。アランやニーナ、魔王軍のみんなが楽しそうにしていればそれでいいのだ。


 ちなみに、昨日俺の事を“姫様”と呼んだ実況の人は呼び出してしっかりとクレームを入れて置いた。


 が、反省している雰囲気がないので来年も同じような事が起こるだろう。


 だって滅茶苦茶目が輝いてたもん。俺に怒られてちょっと嬉しそうにしてたもん。


 なんなら隣にいたアランが少し羨ましそうに見ていた気がするが、気の所為だと思いたい。アラン、あまりにも度が過ぎたら俺は怒らずに無視するからな。


「遂に最終種目だね。僕達は応援してあげるしかできないよ」

「レオナ軍団長次第だな。ところで、ミャル達はいつの間にあんな服を用意してたんだ?バカのか?アホなのか?第四魔王軍の旗と応援団の服があるなんて聞いてないぞ?」


 昨日模擬戦争が行われた場所は、いつの間にかコロッセオのような闘技場へと変わっていた。


 観客席も用意されているし、見やすいようにしっかりと階段上になっている。


 その中央にあるのが今回の舞台であり、俺たちが優勝できるかどうかが決まる決戦の地。


 そんな居るだけでちょっとテンションが上がってくるような場所で、うちの第四魔王軍の面々は黒い応援団用の服と“レオナ命”と書かれたハチマキをして整列していた。


 何してんの?と言うか、いつの間にそんなものを用意してたの?言ってよ。言ってくれたら俺達も用意したのに。


「お、今大会のMVP達が来たニャる。今日はレオナ軍団長の応援、よろしくニャル」

「何その格好。言ってよ。そしたら用意したのに」

「にゃはは。ノアとアランにはこんな暑苦しい格好は似合わないにゃ。それに、同調圧力でこの服を着せた日には、真面目にレオナ軍団長に怒られそうなので却下にゃ。どうしても混ざりたいのであれば、来年着てくるニャ」

「かっこいいねミャルさん。それで応援するの?」

「もちろんにゃ。レオナ軍団長の頑張り次第で勝ち負けが決まるし、ぶっちゃけ今年の大会はノアとアラン以外いい成績を残してないにゃ。なので、我々は死ぬ気で応援するにゃ。そうだろオメーら!!」

「「「「「「オッス!!」」」」」」


 まぁ、本人たちが楽しそうならそれでいいか。レオナ軍団長は今頃頭を抱えてそうだけど。


 部下のバカさ加減に。


 しかし、応援したい気持ちは嫌という程伝わるだろうしな。


「にぃに、始まる」

「お、そうだな。それじゃ、俺達は1番前の席で応援するよ。ミャル達も喉を壊さない程度に頑張ってね」

「もちろんにゃ!!行くぞオメーら!!我らがレオナ軍団長の勝利の為に、声を上げるにゃぁぁぁぁぁ!!」

「「「「「「「オォォォォォォォォォォ!!」」」」」」」


 うるせぇ。空気が、会場が揺れる程の気合いの声は、誰もがこちらを見るほどに大きい。


 そして、それに負けじと他の軍の応援団達も声を張り上げていた。


 もう応援合戦だな。と言うか、他の軍にも同じような応援団が存在するんかい。本当にこの国の人達はこういうの好きだよね。


『それでは!!この大会最後のイベント、幹部模擬戦を始めます!!選手の皆さん!!入場!!』


 耳を塞いで“うるさい”と小さく呟くニーナの頭を撫でていると、遂に選手たちが入場してくる。


 この国で下手をしたら魔王よりも人気の高い幹部達の入場。もちろん会場は大盛り上がりで、応援団の声援ももちろんファンや市民たちからの完成も大きく上がる。


 幹部たちはこれが興行であることは分かっているので、それなりにファンサービスとして手を振りながら歩いてくるのだが、その中で1人だけ異次元の圧を放つ人がいた。


「レオナ軍団長、相当気合いが入ってんな。見ろよ、集中しすぎてファンサービスすら忘れてるぞ」

「あはは。レオナ軍団長らしいけどね。多分全く歓声が耳に入ってないね。僕達の声も聞こえないかも」

「まぁ、それでも応援しなきゃな。俺達の頼れる上官様なんだ。ほら、ニーナも“頑張れ”って声をかけてやれ」

「ん、レオナー!!頑張れー!!」

「レオナ軍団長!!頑張ってください!!」

「レオナ軍団長!!勝ってきてくださいねー!!」


 凄まじい声援の中、俺達も負けじと声を上げてレオナを応援すると、俺たちの声だけには気づいたのかレオナがこちらを見て少しだけ表情が柔らかくなる。


 そして、俺達に向かって小さく手を振った。


「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あのレオナ軍団長が優しく微笑んで手を振ったニャ!!ちょ、誰か今の姿を描き起こすにゃ!!」

「レオナ軍団長が、レオナ軍団長が手を振った!!やばい、涙で前が見えなくなりそう........」

「グスッ、レオナ軍団長が手を振ってくれたぞ!!毎年俺たちの声援に反応すらしてくれないレオナ軍団長が!!俺、今日死んでもいい!!」


 うるせぇ(2回目)


 お前達はレオナの保護者か。初めて運動会に参加する子供を見守る親バカか。


 普段から威厳と優しさに溢れた上官が、珍しく反応してくれたのがよほど嬉しかったのか、感激のあまり泣き崩れる第四魔王軍応援団。


 多分タイミングと視線的に(布で覆われてて分からないけど)、俺達に向かって手を振ってくれたんだと思うんだけどなぁ........


 流石にレオナに手を振られて泣き優れる第四魔王軍の面々に言える雰囲気では無いし、空気が読めないわけでは無いので黙っておくけども。


「なにしてんのアイツら」

「あはは。普段レオナ軍団長が微笑むことなんてあまり無いからね。圧もすごいし。それだけ嬉しかったんだと思うよ」

「暑苦しい。それに、レオナ、私たちに向かって手を振ってた」

「ニーナ、真実は時として人を傷つけるものだ。いつも言ってるだろ?ハゲにハゲって言ったらダメなんだよ」

「ん?事実を述べることは罪じゃない」


 あぁうん。ニーナの教育を間違えたな。やはり今からでも道徳の教科書を読ませるべきかもしれん。


 このまま育ってしまえば、ニーナは道徳の教科書で焚き火をする子に育ってしまう。シスターマリア、子供の個性を尊重するのはいいけど、最低限の道徳は教えようよ。あなた仮にも聖職者でしょ。


 俺は今度ニーナの為に、倫理観や道徳に関する本を買って読ませようと心に誓う。


 そうしている間にも、幹部達は闘技場へと登り一人一人の紹介に移っていた。


 この時ばかりはみんな静かだ。マナーもしっかりしていると、さすがはま王国である。


『そして!!去年は惜しくも準優勝となってしまった第四魔王軍軍団長レオナ!!得意の剣による暴力は使えないが、この弱点をどのように克服するのかが見ものだァ!!』


 紹介されたレオナが1歩前に出て、静かに頭を下げると歓声が鳴り響く。


「レ・オ・ナ!!レ・オ・ナ!!」

「「「「「「レ・オ・ナ!!レ・オ・ナ!!」」」」」」


 ミャル達復活が早いな。もう応援団の仕事に戻ってやがる。


 俺は顔がマジすぎるレオナに向かって“がんばれー!!”と言いながら、この幹部模擬戦の行く末を見守るのであった。

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