初日終了
今日のメインイベントである模擬戦争は俺たちの圧勝で幕を閉じた。
すまんな。俺が強すぎた。
“死ぬ気で守れば行けるんじゃね?”という思考に入ってしまった時点で、彼らに勝ち目はない。
しかも、その中にウッキウキで突っ込んでくる勇者まで投入されれば最早守る所の騒ぎでは無いのだ。
このゲームをやりすぎてマルチタスクを身につけた俺と、元々普通になんでも出来てしまう勇者が合わさったらたとえ魔王であろうとも勝てないのである。
いや、魔王なら普通に何とかしてきそうな気もするが、アランなら何とかしてくれるはず。
この世界の人達はプログラムで動く機械では無いので、本人の設定による性格などで強さが少々ゲームとは異なっている節がある。
今の魔王って原作よりも強そうに見えるんだよね。実際はどうなのか知らないけど。
魔王が戦っている姿を見ていないのでなんとも言えないのだが、普段俺達と遊んでいる時の魔王の性格がかなり悪い。
とにかく嫌がらせに特化しており、この調子で戦われた時は真面目に勝てそうでは無いのだ。
一度魔王の本気と戦ってみたい気もするが、多分負けてゴリゴリに煽られそうなのでやめておく。
あの魔王に煽られたら暗殺を決行する自信があるね。あのウザさは原作を超えている。
「得点が高い競技は軒並み一位だったけど、今の順位は2位だったね」
「第二魔王軍が本当に強いな。できる限り上位に食いついて高い得点をどの競技でも獲得している。俺達は配点の高い競技は軒並み一番を取っているけど、他がちょっと低いな。ミャル達がかなりしょんぼりしていたよ」
魔王軍大運動大会の一日目が終わり、暫定の順位が出た。
現在第四魔王軍は二位に着けており、1位の第二魔王軍との点差は3点。
これならば、明日の勝敗しだいでは全然勝ち目がある。
明日の種目はたった一つ。“幹部模擬戦”のみ。
魔王軍幹部たちによる模擬戦であり、これはかなり盛り上がる。
ルールは某ドラゴンなボールが出てくる天下一を決める大会とほとんど同じであり、場外もある為武闘派ではない幹部でも十分に勝ち目があるらしい。
武器の持ち込みは可能であるものの、真剣などはダメだとか。
普通に相手を殺してしまいそうだもんな。戦争中の安らぎのひと時の中で、怪我を負ったりするのは流石に馬鹿らしすぎる。
ウチの第四魔王軍の軍団長であるレオナはゴリゴリの武闘派。しかも、コミュ障という点を除けば相当強い部類の幹部なので、優勝できる可能性はかなり高かった。
懸念点は、ガルエルもゴリゴリの武闘派という事。
去年はガルエルに負けて二位だったらしいが(場外)、今年はどうなるんだろうか?
「全てはレオナ軍団長次第って事だな。頑張って応援するしかない」
「だね。ニーナも応援してあげてよ。きっとレオナ軍団長も張り切ると思うよ」
「もちろん応援する。レオナねぇ、不器用な中にも優しさがあって好き」
お?ニーナが珍しく“好き”と言ったぞ?
俺やシスターマリア以外には殆ど言わないと言うのに。
俺達が毎日訓練する中、レオナはニーナとの交流を深めていたんだな。やるじゃないか。
ニーナは結構ズバズバ言ってくれる方であるし、案外そういう方が話しやすいのかもしれない。
「レオナ軍団長はたしかに優しいな。圧がすごいけど」
「強者ゆえの圧だよね。ちょっと興奮するといつも凄まじい圧を放ってくるから困るってミャルたちが言ってたよ。悪い人ではないと分かっているけど、それでも怖いって」
「レオナ、そこまで怖くない。頭を撫でた時、とっても優しかった」
へぇ、レオナはニーナの頭を撫でた........ニーナの頭を撫でたァ?!?!
俺とシスターマリアとブラット兄さん以外に頭を撫でさせることがなかったニーナが、レオナに頭を許しただとぉ?!
あまりにも意外すぎる出来事に歩くことも忘れて固まっていると、アランが今にも泣きそうな顔でニーナの肩を掴む。
「れ、レオナ軍団長には頭を撫でさせて僕には撫でさせてくれないの?!」
「ん、アランにぃ、そういうところ」
「うわーん!!のあぁ!!ニーナが!!ニーナがァ!!」
「落ち着けアラン。ニーナにだって頭を撫でさせてあげる相手を選ぶ権利はあるんだ。仕方がないよ」
「うぅ........普通に悲しいんだけど........」
「そうだな。悲しいな」
アラン、ちょっと可哀想。
でも何故だろう。こう、アランの泣いている顔って可愛いんだよなぁ........
俺はそう思いつつ、割と本気で落ち込むアランを慰めてやるのであった。
【魔王軍大運動大会】
毎年年明けに開かれる運動会。元々は魔王の“暇だし運動会でもしてみね?”という提案から始まった。それが意外にも好評で、この月の給料が2倍ということもあり(ボーナスとは別支給)、今では戦争以上に勝つ気で皆大会に望んでいる。
一時期あまりにも熱がはいりすぎて戦争が疎かになり始めるとかいう前代未聞の事態が起こり、大会一週間前以外の練習禁止など様々なルールがあったりする。
ゲームの中ではミニゲームを遊ぶだけのコンテンツだったが、普段使えないキャラが使えたりとあまりの人気ぶりから専用のゲームが出るほど。今でも愛好家は多く、廃人達は日夜スコアを更新するためにポチポチしている。
無事に一日目が終了し、配下達を労う魔王がやってきたのはレオナの所であった。
毎年この時期になると嫌そうな顔をしながらも受付やら仕事をしてくれるレオナ。魔王はそんなレオナに声をかけようとして、固まる。
その理由は簡単で、レオナが今までに見たことがないほどの圧を放っていたからである。
(くはっ。妾ですら茶化す勇気がないほどに気合いが入っておるのぉ........つーか怖すぎて近づけん)
去年は惜しくも準優勝で終わってしまったレオナ。去年は今年ほど気合いが入っていなかったこともあり、第四魔王軍はそこまで高い順位ではなかったが、今年は違う。
新たに直属の配下ができたこともあり、レオナはとにかく部下にいいところを見せたいのである。
そして、口下手な彼女がそれを証明できる場がこの大会なのだ。
(相当ノアとアランのことを可愛がっておるし、いいところを見せたいんじゃろうなぁ。にしても気合いがはいりすぎてないかの?なんかあヤツが歩くと窓ガラスにヒビが入っている気がするんじゃが)
漫画でよく見る圧が物理現象をもたらす光景。
レオナの圧は、それ程にまで強かった。
それこそ、今この状態のレオナと戦ったら普通に負けそうと魔王が錯覚するぐらいには。
(声を掛けるか迷うのぉ。でも、労いの言葉は必要じゃし........うーむ、困った。こういう時ノアがいると楽なんじゃがのぉ。レオナ、アランにも甘いがノアには特に甘いし。もう好きじゃろあれ。絶対部下以上の感情を持ってるじゃろ。恋愛とは違うがの)
何か一つ、小さな歯車を嵌め込んだらレオナにも春が来るかもしれない。魔王は“今度そっち方面で茶化すのもありだな”と考えていると、レオナが静かに呟いた。
「魔王様。“目”、使っていい?」
「ん?ルール上は問題なかったと思うぞ?」
「そう。ならいい」
背中を向けていたはずなのに、魔王の方を一切見ていないはずなのに、レオナはさも当然の様に魔王の存在に気づいて話しかける。
そして、短いやり取りをした後レオナはどこかへと去っていた。
「クハハ。今年の勝者は決まったの。あのレオナに勝つのは不可能じゃ。後は、やり過ぎないようにしっかり見ておくかのぉ」
手間のかかる部下だ。魔王はそう思いながら、レオナに労いの言葉をかけるのを忘れて再び背中を追うのであった。
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