模擬戦争(ほぼ雑談)


 短距離走はほぼ俺の勝ちで決まりだろう。ミニゲームでも“短距離走だけならノア”と言われていたほどに足が早い俺に勝てるやつはそうそういない。


 悲しいことに“短距離走だけ”は理論値と言うだけであって他はダメダメだったんだけどね。


 模擬戦争とかも強キャラばっかり出てくるし、相手を倒した速さもスコアに加算される形式だったので“必ず勝てるけどタイムは遅い”ノアくんは最適解には至らなかったし。


 あと単純に操作が忙しすぎる。


 ザコ敵相手に1時間ぐらいかかる時もあるのがノアなのだ。普通にやってたら日が暮れるよ。


 ザコ敵ばかりを相手にするならノアくん一択なんだろうけどね。現実とは非情である。


「リレーもいい成績を残せたね。ノアの足が早すぎてノアがバトンを受け取った瞬間には走らなきゃいけなかったよ」

「俺は足だけは早いからな。これでそこそこの点数は稼げただろ。でも、次が1番大事だぜ。この大運動大会の中でも注目度が高い模擬戦争。これに勝てるか勝てないかで、今後の勝敗が大きく揺らぐからな」


 リレーも無事に終え、遂にメインイベントと言える模擬戦争の時間がやってくる。


 サラッと模擬戦は勝ち越して優勝しているアランは、楽しそうに戦場となるバカ広い訓練場を眺めていた。


「確か、全軍纏めて戦うんだよね?時間短縮のために」

「そりゃ何万人もの人達が集う大会だからな。纏めてやった方が早いんだろ。この大会は二日間行われるけど、2日目は午前中に終わらせて午後はみんなで騒ぐらしいしな」

「そうなると、ほかの軍同士が手を組んでやってくる可能性もあるんだよね。下手をしたら5対1を強いられるかもしれないってことかー」

「まぁ、何とかなると思うぞ?数の不利はいくらでも覆せるしな」

「ノアの反則じみた召喚魔法があればそりゃね。6000対2を覆せるだけの実力があるんだから」

「しかも今回はミャル代理軍団長や大隊長まで味方になってくれている。やったなアラン。暗殺者の真似事をせずともいいぞ」

「あはは。あれはあれで楽しかったんだけどね」


 暗殺者の真似事が楽しかったのかよ。


 俺は勇者としてそれはどうなんだ?と思いつつも何も言わない。


 勇者のあり方も人それぞれ。見えない位置から狙撃してくるような勇者だっているのだから、暗殺を楽しむ勇者がいてもいいだろう。


 そんなことを思いながら出番を待っていると、第四魔王軍の名前が呼ばれる。


 さて、なぜか短距離走の勝者の名前が“姫様”になってたけど、ここらでもうひとつの名前を思い出させてやるとしよう。


「行くにゃるよ。ノアとアランは好きなように動くにゃる。多分それが一番最適にゃ」

「だな。俺達は上手く対応してやるから、頑張ってくれ」

「そうさせてもらうよ。骸の王と呼ばれたその力を見せてあげる。次いでに、この前新しく手にした力も試してみよっかな」

「ノアがどんどん手に負えなくなってる........最近は負け越すことも多くなったしなぁ........」

「ふふん。アランの考えることはお見通しよ!!遠距離からの攻撃手段を手に入れた俺に死角無し!!まぁ、当たり前のようにファイヤーボールが切り飛ばされるのは悲しいけどね。アラン、少しはやられてくれてもいいんだぞ?」


 アランとの模擬戦は最近勝ち越しの方が多いが、それでも苦戦させられる。


 おかしいんだよ。レーザービームのようにファイヤーボールを放っているのに、コイツ当たり前のように切るわ弾くはそもそも効かんわで困る。


 最近のファイヤーボールの使い方は、視界を奪って距離を稼ぐためにしか使ってないからな。


 それでもあるのと無いのとではかなり違うが、もっと........こう、無双したいよ。


『これより!!模擬戦争を始めます!!皆様、ルールに乗っ取り反則をしないよう気をつけてください!!では、始めぇ!!』


 そんなことを考えていると、模擬戦争の開始の合図が鳴り響く。


 俺は即座に全敵軍の陣地と周囲にスケルトンを召喚させて動きを封じると、剣の雨を降らせた。


「ん、結界魔法で防がれてるな。流石に対策してきているか」

「壊してこようか?」

「それもいいけど、あぁいう結界魔法は時間経過で魔力を消耗するんだ。それと、外部からの攻撃を受け時も魔力が消費される。つまり、対策しているようで出来てないんだよ。ブロンズ、ちょっと肩車して」

「へ?まぁいいけど、何をするんだ?」


 相手も俺の対策を考えてきたらしいが、守るだけでは俺には勝てない。


 物量勝負、魔力勝負となれば、俺の方が圧倒的に有利なのだ。


 という訳で、俺はブロンズに肩車をお願いする。


 何故かって?そりゃスケルトン達で埋まってしまった射線を確保するためさ。


『おぉっと!!第四魔王軍の新参にして、今大会いちばん注目されているノアこと姫様のお得意技だぁ!!あれ?なんか赤い光線まで放っているぞー?!』


 この模擬戦争、実況付きなのかよ。


 あと、“ノアこと姫様”じゃ俺の名前が姫様になっちゃうじゃないか。逆だよ逆!!言うなら“姫様ことノア”だよ!!


「うわぁ........もう相手が何も出来ないにゃる。しかも何がすごいって、全軍を1歩も動かさないように常に均等に攻撃を繰り返しているにゃる。守りに一度でも入ると、もうどうしようもないにゃるね」

「俺達は姫様との模擬戦でそれが分かってるから突っ込むんだが、他の奴らは“守り切れば行けるんじゃね?”って思っちまったんだろうな。そいつは調査不足だぜ。姫様と戦う時は、死ぬ気で突っ込むしかないんだよ」

「でも突っ込んでもあっという間に逃げられるんだよね。ノア、ずるいよ」


 圧倒的な数の暴力で相手に嫌がらせをしながら、突っ込んできたら持ち前の足の速さで逃げ回る。


 結構なクソゲーだよな。ノアの性能を敵が持っていたらキレそう。


 そして、そんなノアに運ゲーを仕掛けさせてくる魔王やレオナもまぁまぁおかしい。


 特に魔王はマジでイカれてるからな。最終形態に入る前の一撃とか、MAP全体攻撃だし。


 あれ、初見でガードできたやつとか居るのか?俺はアラン以外普通に死んで負けたよ。


『一方的!!あまりにも一方的だァ!!第四魔王軍を除いたその他全ての軍が何も出来ない!!これが我らが姫様のお力なのかァ?!』

「言われてるぞ姫様。これで全国民から姫様と呼ばれるようになるな」

「ふざけるなよ。俺の名前はノアだってのに........」

「あー、誰が実況しているのか思ったらミルーにゃ。アイツ、滅茶苦茶ノアのファンで毎日こっそり第四魔王軍の訓練を覗きに来るにゃ。そりゃテンションも上がるにゃるよね。ノア、どんまい」

「待って、俺その人の話聞いたことがないんだけど」

「ノアファンクラブの会長にゃるよ。きっと今頃ノアのすばらしさを布教するために、あることないこと言いふらすにゃる。ノア、強く生きるニャるよ」


 そんな誰かに肩入れする実況なんて今すぐに辞めさせろ。他の軍を応援している人達に怒られるぞ。


 ファンクラブがあるのは知っていたが、その会長の名前までは知らなかった。と言うか、怖くて知る気にならなかった。


 が、覚えておくぞミルー。お前、後でファイヤーボールで燃やしてやるからな。


「人気者だねノア」

「やめろアランまで。これ以上何か言われる前に終わらせるぞ。サッサと行ってこい!!」

「はいはーい。それじゃ、ルートはノアに任せるよ。全部殺して終わらせてきてあげる」


 アランはそう言うと、ウッキウキで戦場の中をかけていく。


「ちなみに、アランはミルーと滅茶苦茶仲良しだぞ」

「よし、アランも焼くか」


 サラッと告げ口してきたブロンズ。ブロンズ、今日ほどお前に感謝した日は無いかもしれん。


 肩車しているけど。

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