短距離走


 ニーナをメリーさんに預け、いつものように第四魔王軍の訓練場に行くとそこには既にメラメラと闘志を燃やした第四魔王軍の面々が整列していた。


 俺達が1番最後らしいな。一応集合15分前には来てるんだけど。


「遅いぞ2人とも!!気合いが足りてないにゃ!!」

「そういうミャルは気合いが入りすぎだよ。大会が始まる前にガス欠になっちゃうよ?」

「いやそんなことは無いにゃ!!何故ならば命がかかっているからにゃ!!」


 いや、戦争の方が命がかかってるでしょ。この運動会はそこまで命を賭けるほどのもんじゃない。


 レオナが本当に怖かったんだろうな。普段おふざけ集団と化していた第四魔王軍がちゃんと軍隊している。


 大丈夫かなレオナ。多分上手くコミュニケーション取れてなくて、ぬいぐるみ相手に泣いてると思うんだけど。


 今日中に何とか話してケアしてあげるか。コミュ障のポンコツ上官は、部下が頑張って励ましてあげないとね。


「........来るのが早くないか?」


 そんなことを思っていると、レオナが訓練場へとやってくる。


 既に整列し、普段とは違いすぎる雰囲気を纏う部下達を見てレオナも少しだけ困惑していた。


 勝ちたいけど、ここまでされるとちょっと困っちゃうよね。しょうがないよね。


「第四魔王軍!!既に整列済みでありますにゃ!!今日はこの身が滅びようとも勝ってみせます!!」

「あ、いや、身が滅びるまでは........ごほん。頑張れ。やるからには勝て」

「「「「「ハッ!!」」」」」


 ミャルの言葉を訂正しようとしていたが、ミャル達の圧が強すぎてそれっぽく振る舞わざるを得ないレオナ。


 魔王軍幹部って大変だな。魔王に振り回され、暴走した部下に振り回される。


 幹部という名を持ってはいるが、その実は中間管理職なのかもね。


 しかもその中間管理職の人はコミュ障と来た。魔王軍じゃなきゃやっていけてないかもしれん。


「レオナ軍団長も大変だね。魔王様に振り回されて僕たちに振り回されて」

「それが幹部としての仕事なんだろうな。国王のご機嫌取りと部下の管理を同時にやるんだから大変だよ。少なくとも、俺達は迷惑をかけないようにしないとな」

「あはは。そうだね」


 部下が想像以上にやる気にやっていることに困惑するレオナを見ながら話していると、魔王国に一つの声が鳴り響く。


 このおちゃらけた声は我らが問題児魔王の声だ。


『くははははははっ!!皆の者!!今年もこの時が来たの!!長ったらしい話はどうせ誰も聞かんので、サッサと開催宣言をするぞ!!第........えー何回目だったっけ?258?9?9か。第259回、魔王軍大運動大会の開催をここに宣言する!!皆の衆!!怪我のないように程々に楽しむのじゃぞー』


 ほんとうに締まらん挨拶だなぁ........魔王らしいと言えばらしいが、祭りの時ぐらいピシッと決めてくれよ。


「いよいよだねノア。一緒にやるのは模擬戦争とリレーかな?」

「そうだ。特に模擬戦争は得点が高いから必ず取りに行くぞ。俺達が最強だと言うことを見せつけてやろう」

「もちろん!!僕は全部勝つつもりだよ。ニーナに本を買ってあげたらも少し好かれるはず........!!」


 いや、多分どれだけ物で釣ろうとニーナはアランに懐かないぞ。


 俺はそう言いたい気持ちをぐっとこらえながら、最初の種目が行われる会場へと向かうのであった。




【魔王軍大運動大会】

 要は運動会。魔王が暇つぶしに初めて見たところ好評で徐々に規模が大きくなり、今となっては国を上げて騒ぐお祭りへとなった。ゲームでは好きなキャラクター(30体以上)を操ることが出来る上に、特別な段階を踏むと隠しストーリーが出てきたりしていたので人気が高い。

 後にDLC版も販売され、数多くのミニゲームが収録され評価が高かった為かこのミニゲームをやるために本編を買う人が続出。そして、試しに本編をやって絶望の縁へと叩き落とされるのであった。




 俺がやってきたのは第一魔王軍の訓練場だ。ここではリレーや短距離走等の走る系の競技が行われている。


 凄まじい人混みの中を歩いていき、受付に顔を出すとそこには見知った顔があった。


「グリードおじいさん。受付やってるの?」

「おや、ノアくんでは無いですか。ノアくんはどの競技に?」

「俺はリレーと短距離走に出るからね。暫くここにいるよ。それで、なぜに受付に?」

「いやはや。こう見えても私は事務仕事やこう言う受付業務が得意でしてね。昔は外交官もやっていたんですよ」


 そいえば、魔王国建国当時はグリードが外交官をやっていたという設定があったな。


 俺はそんなキャラ設定を思い出しながらも、選手出場者の手続きを済ませてサッサと会場へと行く。


 グリードおじいさんからは“頑張って下さい”と言われ、優しく頭を撫でられた。


 グリードおじいさん、孫がいつ出来てもいいようにと俺やアランで孫を甘やかす練習をしているんだよな........まずアンタが相手にするのは赤子でしょうに。


 そんな孫ボケなおじいさんからのエールを貰いつつ、会場でぽけーっと自分の番を待つ。


 これだけ大きい運動会だと、待ち時間も多い。国境警備をする魔王軍の人達はざんねんながら参加出来ないのだが、それでも何万という単位の人達が競うのだ。


 そして、それを応援する人たちも数多くいる。


 これを滞りなく管理するのは本当に大変そうだな。手伝ってあげたいが、下手に手を出すと逆に邪魔になってしまいそうだ。


「第四魔王軍所属、ノアくーん!!出番ですよー!!」

「はいはい。いるよー」


 しばらく待っていると、自分の出番がやってくる。この短距離走は1番タイムが速い人が勝ちという分かりやすいルールだ。


 しかも一発勝負。走る人の数がかなり多いので、仕方がないと言えば仕方がない。


 俺がレーンに並ぶと、隣でチーターのような姿をした魔人族の兄ちゃんがニッと笑いながら話しかけてくる。


 彼は........あー確か第六魔王軍の人だったかな。エリスがこんな人がいた話をしていた気がする。


「姫様と走れるとは光栄だ。だが、勝つのはこの俺チートーだぜ?」

「姫様言うな。それと、俺も負ける気は無いよ。数少ないアイデンティティなんでね」

「いや、みんな“姫様がんばえ〜!!”って応援してるけどいいのか........?」

「いいかチートー。魔王様に無理やりキャラ付けされた俺から1つ言葉を送ろう。“認めたら負けだ”」

「お、おう。まぁ、そのなんだ。頑張ろうなノアくん」


 あまりにもガチなトーンで話す俺に軽く引くチートーくん。


 そんな事をしていると、“位置について”という声が聞こえた。


 それでは見せてやりますか。理論上最強がなぜ最強と言われているのかを。


 全キャラの中でもトップクラスに高い俊敏性を誇るこのノアに、魔王軍の誰もが勝てないことを思い知らせてやる。


 後、勝たないとまじでミャル辺りに怒られそなので、本気で勝たせてもらいます。


「よーい!!」


 パァン!!という破裂音と同時に、俺は本気で走り始める。


 この短距離走の距離は100メートル。


 以前より少しだけ成長したノアにとって、これだけの距離があれば誰であろうが突き放せるだけの余裕がある。


 人類の限界を超えたこの俺に勝てると思うなよ!!


「─────っ!!はっや!!」

「ゴール!!タイム2.15秒!!現在トップは我らが姫様ノアくんでーす!!」

「ょぉぉぉぉぉぉし!!勝った!!」


 スタートダッシュもほぼ完璧。以前走った時よりも少しだけ早くゴールした俺は順調な滑り出してこの大会を始めるのであった。




 後書き。

 ノアくんは足がクソ早い。代わりに可愛い。

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