魔王軍大運動大会


 アランやニーナと楽しく過ごす毎日は、いつも笑顔に溢れていた。


 冬場は戦争がないの言うのも相まって、魔王国はとても平和であり常に笑顔が絶えない日常を作り出す。


 大抵毎日何かしらの問題や騒ぎは起こるものの、そのほとんどは笑えるものであった。


 偶に笑えない問題が起きたりするんだけどね。ブロンズが狙っていた女性に振られてガチ泣きしながら皆に慰められていた時とかは、あまりにも可哀想で流石に笑えなかったし。


 そんなこんなで年も開け、そろそろ冬場が終わりそうな頃。


 魔王軍では楽しい楽しいイベントが開かれようとしていた。


「毎年恒例軍対抗大運動大会ねぇ........この平和な時期に毎年行われる運動会か。第四魔王軍みんなで力を合わせて戦うってことだよね?」

「100m走にリレー、更には模擬戦大会などなど。本当に国を上げた一大イベントだな。戦時中だからこそ、人々を安心させるイベントが必要なんだろうけど何故に運動会。普通にお祭りとかでいいじゃん」

「あの魔王様の事だから“軍同士で戦わせたら面白くね?”とか思ってるんじゃない?で、毎年そのノリで開催してたら恒例行事になったとか」


 流石はアラン。だいたい正解である。


 魔王城に行くなり渡された運動会の紙を眺めながら、俺はこのゲームで最も人気のあったサブストーリーを思い出していた。


“魔王軍大運動大会”


 年が明けて少しすると毎年必ず始まるイベントであり、プレイヤーの誰もが楽しむ素晴らしいイベント。


 過去に運営が“好きなイベントは何ですか?”と言うアンケートを取った際に、圧倒的な投票数を得て一位になったのがこのイベントである。


 様々なミニゲームが用意されているこのイベントでは、自分の好きな軍を選んでキャラを操作しながらスコアを稼いで優勝させるのが主な内容なのだが、普段見られない魔王軍のキャラ達を沢山見られるということでとにかく人気が高かった。


 単純にストーリーも面白いと言うのも評価ポイントであり、それぞれ選んだ軍のストーリーが用意されている。


 ぶっちゃけ、これだけでもう一本ゲームができるぐらいには完成度が高く、ユーザー達からの熱い希望でミニゲームだけに焦点を置いたDLCが販売されたぐらいだ。


 ストーリーモードとスコアアタックモードが用意されており、スコアアタックモードでは魔王軍以外のアランや人間側のキャラまで使える。


 俺もスコアアタックは滅茶苦茶やり込んだが、最高で3位が限界だったな。


 ちなみに、その時に使っていたキャラはアランだ。こいつ、マジで全てのスペックが高くてなんでも出来るから、ほぼ全ての競技の最適解みたいな所があって上位層はアランで埋めつくされていたっけ。


 ひとつの競技だけに絞るなら、色々なキャラに日の目が当たるんだけどね。


 模擬戦に関してだけ言えば、魔王が最適解だったし。


 あれはあれで化け物なんよ。模擬戦の癖に、メインストーリーの最終奥義を使ってくるからね。


 まぁ、そんな訳で、普段使えないキャラたちを使って楽しめる上に特殊な技術や知識を要求されないミニゲームはとにかく人気が高かった。


 余談だが、何故かシスターマリアまで使える上に、パン食い競走だと最適解とか言う謎スペックをしている。


 ちょっとシュールなんだよな。パンを食べながら走るシスターマリアを使うのは。


 1部界隈ではそのMADが流行ってたっけ。


「もうこんな季節になったんだな。全く、時の流れは早いぜ」

「ブロンズ。おはよう」

「おうおはよう。姫様、アラン。今年の大会は荒れるだろうな。何せ、姫様とアランと言う馬鹿げた強さをした2人がいるんだし。今年は俺の出番は無さそうで良かったぜ」


 二人で紙を見ていると、ひょっこりとブロンズが現れて会話に入ってくる。


 毎度思うが、魔王軍のみんなはコミュ強過ぎないか?レオナ以外にコミュ障を見た事がないぞ。


「ブロンズは出ないの?」

「多分出ることになるだろうが、正直出たくないと言うのか本音だな。何せ、この大会はみんなマジでやるんだよ。少しでもミスしたら、これでもかってほど罵声を浴びせられるぞ」

「それはブロンズだからじゃないの?ほら、ブロンズは弄りやすいし」

「アランと言う通り、それはあるよな。ブロンズはみんな雑に弄っていいって感じがするよ」

「かー!!酷い言われようだが、実際そんな節はあるからな。俺、一応大隊長なんだけどね?魔王軍の中では4番目に偉い地位にいるんだけどね?」

「魔王様を頂点として、幹部の軍団長。その補佐の代理軍団長、その下に大隊長だもんね。確かにブロンズは上から四番目に偉いのか。全然そんな感じしないけど」

「あはは。みんなブロンズの事を弄り倒すからね。僕もノリでそんな感じに扱う時はあるし」


 そういえばブロンズって大隊長だったな。


 女の人に振られてガチ凹みしてた記憶しかないから、全然そんな風に見えないよ。


 あの魔王ですら“う、うむ。まだまだ先は長いのでな!!そう落ち込むでは無い!!お主の良さは妾が分かっておるぞ!!”と気を使うほどには落ち込んでいた。


 魔王が気を使うって相当だぞ。人が嫌がることをする事に命をかけていると言っても過言では無いあの魔王が、滅茶苦茶気を使って言葉を選んで話している姿を見た時は幻覚かと自分の目を疑ったものだ。


 あそこまで言葉につまる魔王も珍しいし、ちゃんと人の心はあるんだなと安心したものだ。


 あそこで煽ってたらマジで殺されてそう。


「ガハハ!!ま、俺はそういうキャラでやってるからな!!魔王軍で上に立つやつはみんなキャラを付けないとやっていけないのさ!!と言うか、魔王様に無理やりにでもキャラ付けされる。軍団長達は素であんな感じなんだけど、大隊長達は大体自分達でキャラを作ってるぞ」

「そんな話聞きたくないんだけど。裏での苦労とか話されても困るよブロンズ」

「ミャル代理軍団長も“にゃ”を使ってキャラ付けしてるし、魔王軍で出世すると大変だね。僕は一兵卒でいいや」


 俺もそう思うよ。


 魔王にキャラ付けされた日には俺が本当に姫様キャラになって........なって........あれ?もう既にキャラ付けされてないか?


 もしかして、俺お姫様キャラとして定着されてないか?


 気づきたくない真実にたどり着いてしまった俺。


 その様子を見ていたブロンズがニヤニヤしながら小さな声で言う。


「姫様も知らん間にキャラ付けされてただろう?俺達もそんな感じでキャラを付けられたのさ。ミャル代理軍団長は別だがな」

「ブロンズ........お互い大変だな。と言うか、ミャル代理軍団長は自分で考えたのかよ」

「なんだったかな。確か、妹に言われたからやってみたら引くに引けなくなったって言ってたな。妹好きもあそこまで行くと最早病気だ。毎年ミャルの応援をしに大会に来るから、きっと見られるぞ」


 へぇ、ミャルが溺愛する妹を見ることが出来るのか。


 ゲームの中では、そもそも妹の存在は明かされていてもビジュアルは出てきて無かったのでそれはちょっと楽しみである。


 ミャルのように“にゃ”をつけて話すのか。それとも、割と普通の子なのか。


 ミャルに紹介してもらおうかな。是非とも見てみたい。


「さて、そんな今年の台風の目の2人には、今日から大会の特訓が待ってるだろうぜ。見ろよ。あのミャルやみんなの顔。マジでやる気満々だろ?手を抜いたりしたら本気で殺されかねないから頑張るんだぞー」

「お、おう。頑張るよ。それこそ死ぬ気で」

「あ、あはは。目がマジだよあれ」


 こうして、俺とアランは大会1週間前に第四魔王軍のみんなにみっちりと特訓をさせられる事になるのであった。

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