え?え?


 イケおじことヴァンダーおじさんに【魔法の指輪(赤)】を貰った俺は、早速試し打ちをする為に魔王軍の人達ならば誰でも使える魔法訓練場に来ていた。


 ここには魔法耐性の強いカカシが幾つも立っており、魔法の練習をするには最適な場所である。


 勤勉な魔王軍の人々は、今日も多くの魔法使いがこの場で自分の技を磨いていた。


「ん?姫様じゃないか。珍しいなこっちに顔を出すなんて」

「やぁ、プルート。今日はアランと模擬戦をしなくていいのか?」

「魔法使いがタイマンであんな強い少年と戦えるわけないだろう?私は遠くからぺちぺち魔法を打つ方が性に合ってるんだ。一撃必殺!!どんどこどーん!!これぞ、魔法使いの醍醐味よな!!」


 そう言いながらアッハッハ!!と笑う彼女は、第四魔王軍第三大隊中隊長のプルート。


 第四魔王軍の魔道士をまとめる存在でありながら、一撃必殺の超高火力魔法を好んで使うちょっと頭のおかしい人である。


 真紅に燃える赤い髪が特徴的な人であり、ガルエルとはまた少し違った姉御肌という感じの人だ。


 目の下には常に隈があり、口にタバコを咥えながら話す。個性的な人が集まる魔王軍の中でもかなり郡を抜いて個性的だ。


 ちなみに、彼女もニーナに心をへし折られた1人であり、魔王の被害にあった悲しき魔道士である。


 この人は一体どんな一発ギャグをしたんだろうな。ちょっと気になるが、傷をエグって落ち込まれても困るので何も聞かないけど。


「おっと、子供の前でタバコはよかねぇわな。すまんすまん」

「いいよ気にしてないし」

「馬鹿言え。タバコなんていい事ないぞ?体に悪いし依存度も高い。吸ってる時は落ち着くが、タバコが切れるとイライラしてくる。金もかかるわで、利点が何一つないんだからな」

「じゃぁ、なんで吸ってるのさ。辞めればいいじゃん」

「馬鹿野郎。タバコは私の唯一の楽しみなんだぞ?そんなもの取り上げられたら本格的に頭が狂っちまうよ。流石に子供の前で吸ったりはしないけどな。レオナ軍団長に冗談抜きに殺されるし 」


 ヤニカスじゃん。


 子供に気を使えるヤニカスじゃん。


 いつもタバコ吸ってんなーとは思っていたが、こいつはかなり重度のヤニカスだ。


 多分一日一箱とか余裕で吸うタイプの。


 俺も前世ではタバコを何度か吸ってみたことがあるが、体が受け付けなくて吸わなかったんだよな。


 金もかかるし。とにかく臭いが染み付く。


 体に悪い事ばかりだし、本当にいい事がない。


「姫様はタバコなんて吸うんじゃねぇぞ?カッコイイから、様になるからで吸うと痛い目を見るからな。後、単純に姫様にタバコは似合わん。嫌だろ?ヤニ臭い姫なんて」

「いや、そもそも姫じゃないっていつも言ってるよね?なんでみんな俺の事を姫様扱いするんだよ」

「........ん?姫様は女の子だろ?一人称が“俺”の」

「........ンンン?俺は生物学的にちゃんと男よ?付いてるよ?」

「え?」

「え?」


 お互いに首を傾げる。


 え、その反応、マジで俺が女の子だと思ってたの?ちゃんと俺、男だっていつも言ってるよね?しかも、プルートとの付き合いは短いが、それなりにちゃんと話してたよね?


 なんでこの人本当に俺が女の子だと思ってんの?実はそのタバコ、違法薬物だったりしないよね?


 ネタで“姫様”と読んでいるのかと思ったら、マジめに“姫様”と呼ばれていた件について。


 これは1度俺のことを姫様と呼ぶ人達に確認しないと行けないぞ。もしかしたら、プルート以外にも俺のことを女の子だと認識して居る人がいるかもしれない。


「俺、何度も“男だ”って言ってたよね?プルートに直接言っては無いけど」

「あー?そうだったか?多分“タバコ吸いてぇなぁ”としか思ってなくて、あんま会話聞いてなかったわ。ごめんな?ちゃんと“にゃ♪”は覚えてんだけどなぁ........」

「いや、そっちは忘れてくれていいから。金輪際記憶から消し去ってくれていいから」

「そうか?可愛かったぞ?そっかァ........ノアちゃんじゃなくてノアくんだったのか。でも可愛ければどっちでも良くね?」


 良くない。


 俺は男なの!!女の子扱いされたい訳じゃないの!!


 なんで第四魔王軍の人達ってこんなにも適当なんだ?仕事の時以外はマジでノリと勢いで会話してるよな。


 頭を使ってないよ。IQ3だよ。


「良くない。今後間違えないようにね。次間違えたら、レオナ軍団長に“プルートが俺の前でタバコ吸ってた”って言うからね」

「ホント、それだけはご勘弁くださいノアくん。タバコが無くなったら私死んじゃう。精神的にも物理的にも」


 プルート、渾身の土下座。


 あまりにも早すぎる土下座に、一瞬何が起きたのか分からなかったぐらい早い土下座であった。


 そんなにタバコが大事なのかよ。ヤニカス極まってんねこの人。


 後、土下座は辞めて。すごい注目されてるから。良くない噂が流れちゃうから!!


「次から気をつければいいから、土下座はやめてね?俺の悪評が広まっちゃう」

「姫........じゃなくてノアくんなら、そんな事はしないってみんな分かってるさ。君は心優しい少女........じゃなくて少年なんだからな。ニーナお嬢ちゃんがいつも自慢してたぞ?“にぃには優しくてカッコイイ”ってな」

「........ねぇ、ニーナが“にぃに”って言ってるのに俺の事を女の子だと思ってたの?」

「へ?ノアくんがニーナ嬢ちゃんにそう呼ばせてるもんだとてっきり思ってた。ほら、ニーナ嬢ちゃん、ノアくん言うことならなんでも聞きそうじゃん?」

「いや、割と言う事聞かないぞ。特に読む本に関しては。この前なんて“サルでもわかる!!王の暗殺方法!!”とか言う頭の悪い本を読んでたぐらいだ。兄としては、白馬に乗った王子様が姫を助ける話とか、手に汗握る冒険譚を読んで欲しいんだけどね。教育に悪すぎるし」

「なんだその明らかにヤバそうな本は。というか、そんな本を魔王城に置いておくとか、魔王様も相変わらず変わってんな。自分が暗殺される可能性を考えてないのか?」


 ニーナの読んでいる本のタイトルを聞いて眉を顰めるプルート。


 だよね。やっぱりそういう反応になるよね。


 流石にこの本を読ませるのは不味いだろと思って、本を取り上げようとしたら全力で抵抗して逃げ回るニーナもヤバいが、その本を当たり前のように置いている事を許している魔王様もヤバい。


 あの人、至る所から恨みを買ってそうなんだけど、大丈夫なんだろうか?


「アランもアランでまぁまぁ頭が可笑しいし、ノアくんもノアくんで頭がおかしいし、ニーナお嬢ちゃんも大分頭がおかしい........君たちを育てた親御さんは一体何を教えているんだ?革命の仕方でも教えてたのか?」

「シスターマリアは基本的に子供の自由を尊重する人だからね。その悪い部分を煮詰めて出来たのが俺達なんじゃない?というか、サラッと俺を混ぜないでよ。俺はまともだよ」

「アッハッハッハッハッ!!まともじゃない奴ほど、自分のことをまともだと認識してるもんだ。私も自分の事は常識人でまともな人種だと思ってるからな!!」


 いや、アンタはどう考えても頭がおかしい。


 知ってるぞ、この前“スッキリしたいから”とかいう理由で馬鹿みたいに火力のある魔法を使って魔王城の壁の一部をぶっ壊したのを。


 それでレオナ軍団長に怒られてたよな?しかも、初犯じゃないらしい。


 変わり者しか集まらない魔王軍。その中にいる俺もまた変わり者なのだろうか?


 俺はそんなことを思いながら、ようやく新たに手に入れた魔法を試してみるのであった。

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