勇者がおかしいだけ
アランとニーナと猫さん遊びをして再びリバース王国ってクソだなと思い直したりもありつつ、俺は魔王城でとある人を探していた。
ノアはそのキャラの性質上、初期に獲得している魔法意外に習得することが出来ない。
それがネタキャラと言われている所以の一つであるのだが、それはあくまでもゲームの話。
アランが本来習得できないはずの武技を取得しているのを見るに、俺も習得できるんじゃね?という希望が生まれたのだ。
今の今まで試した事がなかったからね。ゲームのシステムが適応されている不可思議な世界だから、てっきり習得は不可能だと思っていたし。
しかし、ここは限りなくゲームに近い現実世界。ゲームのシステムが必ずしも適応される訳では無いのだ。
「んー、どこにいるんだろうか?」
「おや?骸の王ではないですか。なにかお探しですか?」
目的の人を探していると、後ろからダンディーな優しい声をかけられる。
この城の中で俺の事を“骸の王”と呼ぶのは一人しかいない。
絶対キレたら怖いんだろうなぁと思われる声に振り返ると、そこにはくっそ渋いイケおじであるヴァンダーおじさんが居た。
ライオンのような鬣を彷彿とさせる白髪の髪とあごひげ。実際、彼はライオンがモデルとなっている魔人族だ。
キセルとか吸ってたら似合いそう。
悲しいことに、こんなにもいいキャラをしている彼はモブで1度もゲームの中で見たことがない。
「ヴァンダーおじさん。探してたよ」
「おや?私をですか?骸の王ことノアくんに?」
「そうそう。同じ召喚術士として色々と聞きたいことがあってさ」
俺がヴァンダーおじさんを探していた理由。それは、彼が熟練の召喚術士だからである。
明らかに鍛え上げられた肉体と好戦的な笑みを浮かべる事もある彼だが、こんな如何にも“近接職です”という見た目をしているのに彼は召喚術士なのだ。
しかも、普通に体術も強いというオマケ付き。
なんでこの人、召喚術士と言う職を貰ってんだ?
「ふむ。私が教えられることは無いかと思いますがね。何せ、ノアくんはあの第四魔王軍を相手にほぼ完封できる程の力を持っているでは無いですか。私も見ましたよ?アランくんと共に戦う君の勇姿を........あれ?そう言えばアランくんが見えませんね。普段見ると一緒にいますが........」
「アランなら今第四魔王軍の皆に模擬戦を頼まれてるよ。人気者は大変だね」
正確には、アランに模擬戦を全部押し付けてきたんだけど。
俺達に敗北した第四魔王軍。魔王の罰ゲームが余程こたえたのか、次同じようなことが起こっても絶対に負けない様にと死ぬ気で訓練している。
そして、その対戦相手に俺達が選ばれる訳だが、俺達の体力だって無尽蔵ではない。
特に、逃げ回って集中力を切らさない事が大切な俺は連戦が疲れる。
逆にアランはピンピンしていることが多いので“じゃ、あとは頼んだ”とだけ言って逃げてきたのだ。
家に帰ったら文句を言われそうだな。
ヴァンダーおじさんも何となく俺がアランに面倒事を押し付けたのを察したのか、小さく笑いながら俺の頭を優しく撫でる。
同じ召喚術士として意外と話すことの多い頼れるおじさんの手は、暖かく優しかった。
「そうですね。人気者は大変だ。それで、何を聞きたいのですか?」
「召喚魔法と召喚したモンスターの強化魔法について。もしかしたら、俺も覚えられるんじゃないかと思ってね」
「........え、覚えてないんですか?召喚術士として必須の魔法でしょう?」
「いや、覚えてないよ。ほら、模擬戦争の時も使ってなかったでしょう?」
「あー、確かに言われてみれば使ってなかったかもしれませんね。骸の王が使う魔法はどれも職を授かったその時から使えるものばかりで、新たに自ら学習して覚えるものは使ってませんでしたね。なるほど。それを覚えたいというわけですか」
「もしかしたら覚えられないかもしれないけどね。まぁ、それはその時でって事で」
単純にアランが可笑しいだけの可能性もあるしな。ほかのキャラは、本来覚えている武技や魔法しか使ってないし。
あのぶっ壊れ勇者め。ゲームシステムまでぶち壊すとは流石だな。俺より滅茶苦茶やってるじゃん。
設定になんかあったっけなぁ........天才とは書かれていたけど、全ての技術を習得できるみたいな事は書いてなかったと記憶しているが。
「骸の王がそう仰るなら早速試してみましょうか。召喚術士として覚えなければならない基礎魔法を。そこまで難しいとは思いませんが........ノアくんはちょっといや、大分おかしいですからね。覚えられなくても落ち込まないで下さいね」
「大丈夫大丈夫。ダメで元々って考えてるから。無理なら今まで通り、ヒーヒー言いながら大量のスケルトンで押しつぶすよ」
「いや、普通の召喚術士はそんなこと出来ませんがね........」
ヴァンダーおじさんと話しながら、俺は小さな部屋へと案内される。
そこには、召喚術士として魔法を覚えるのに必要な本やアイテムが色々と散らばっていた。
「この水晶に手をかざして下さい。先ずは覚えられるだけの潜在能力があるのか試してみましょう。この水晶は少々特殊な魔道具でして、人の潜在能力が測れるのです」
「分かった」
俺はヴァンダーおじさんに言われた通り、水晶に手をかざす。
この水晶懐かしいな。確か、そのキャラが覚えられる魔法や武技を確認するための一種の攻略本のような役割を果たしていた水晶だ。
ちなみに、この水晶に名前はない。なのでプレイヤー達は“攻略本”と読んでいた記憶がある。
俺も初めてやった時はお世話になったわ。2週目、三週目辺りから普通にネットで調べてたけど。
そんなことを思いながらポケーっと待っていると、水晶が青く光り出す。
そして、ヴァンダーおじさんが推奨を覗き込むと目を見開いた。
「これは........!!」
「何か分かったの?」
「すごいですよノアくん。何一つ覚えられる魔法がありません。つまるところ、最初から全盛期、魔法を覚えようとするだけ無駄ですね」
「あぁ、やっぱり?」
ダメじゃん。ゲームシステム生きてんじゃん。
じゃぁ、なんでアランは当たり前のようにレオナの武技を覚えられてんの?アイツおかしすぎるやろ。
本当に主人公してるんだなアランは。実は原作を壊しているのは俺よりもアランの方なのかもしれない。
「初めて見ましたね。一切魔法が覚えられないなんて........ノアくんは職を授けられた時から全盛期という訳ですか。流石は骸の王です」
「それバカにしてるでしょ。ザリウスに言いつけるよ。ヴァンダーおじさんが虐めてくるって」
「あ、それはマジで困るやつなんでご勘弁を。ですが、そんなノアくんでも一つ覚えられる魔法がありますよ?」
「ん?」
ヴァンダーおじさんはガサゴソと部屋の隅から出してきたのは、1つの指輪であった。
赤い宝石が羽目られたその指輪には、見覚えがある。
これ、装備スキルが付与されているやつだ。確か、この赤い指輪は【ファイヤーボール】を使えたはずである。
なんだっけ。【魔法の指輪(赤)】だったかな。魔法を覚えられないキャラに無理やり魔法を覚えさせるために使う装備で、正直あまり強くはならない。
近接特化の職なら遠距離攻撃手段として持っておくのも悪くないが、詠唱時間が長いしなにより普通に弱いしで使い道がほとんど無かったっけ。割と不遇な扱いを受けていた装備の一つである。
でも、新たな攻撃手段のひとつとして持っておくのは悪くないかもな。
ちなみに、ノアのステータスを考えると、魔法の威力は本来の【ファイヤーボール】の十分の一ぐらいになるだろう。
「........ありがたく貰っておくよ。ありがとうヴァンダーおじさん」
「いえいえ。頑張ってくださいねノアくん」
俺はそう言うと、指輪を受け取って早速試し打ちしてみることにするのであった。
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