因果の捻れ

猫さんノア君


 ブロンズがミャルにシバかれたり、アランがレベリング中に泣き出したりとありながらも無事に(?)ダンジョン合宿は終わりを迎えた。


 ニーナに構ってやれなかった分甘えてくるニーナを可愛がったり、いつものように仕事の手伝いをしながら徳を稼いで乱数の女神様に媚びを売ったりと色々とありながらも楽しく毎日を過ごす日常へと戻っていく中、俺はアランとの約束を果たす時が来てしまった。


 そう。レベリングの時に少しスイッチが入ってしまって、アランを泣かせてしまったお詫びとして俺が一日猫さんをやると言う地獄のような日が。


 合宿が終わって1週間。


 どうやらアランは割とマジめに俺に猫さんをやって欲しかったらしく、あの魔王にバレないように倉庫にしまわれていた猫の服やら何やらを用意してきっちり有給まで取ってきたのである。


 というか、有給の制度があることすらも俺知らなかったんだけど。適当すぎやしないか?この軍隊。


「........で、なんでこれ三つも服があるの?」

「あはは。最初はノアだけにやらせようかと思ったんだけど、どうせなら僕もニーナもやろうかなって。ほら、ニーナを除け者にした時が本当に怖いし........」

「あの魔王様ですら本気で焦るぐらいには怒った時のニーナは怖いからな。全く、魔王にも勇者にも恐れられる少女に成長するとは、とんでもない子だよ」


 俺も強制的に有給を取らされ、いつも3人で寝ている部屋に並べられた服を見て俺は苦笑いをうかべる。


 本当に魔王城の倉庫から盗み出してきやがったぞコイツ。どんだけ俺に猫さんをやって欲しいんだよ。


 暴走する勇者は止められない。何せ、神に愛された超ハイスペック主人公なのだから、その気になれば魔王の目すらも欺けるだろう。


 しかし、妹分の目は欺けない。


 何かと勘が鋭く怒ると怖いニーナ。


 アランと言えどニーナをマジギレさせる訳には行かないと言うことで、三人で猫さんをやることになったとはちょっと予想外である。


 尚、有給の理由については“休みたいので休みます”で通った。


 ホワイト軍隊というか、ここまで来ると絶対適当だよな。急に“有給取ります”って言って“いいよ”と言われるとか、現代日本ではまず有り得ない。


 レオナ軍団長に有給の紙は出したのだが、あの人普通に“そうか。ゆっくり休め”としか言わなかったからな。


 恐らく冬で戦争もない時期と言うのも関係していそうであはるが、だとしてもゆるゆるだ。


「にぃに、来た。何するの?」

「カァ?」


 部屋でやりたくないなぁと思っていると、ニーナもやってくる。


 ちゃんとお世話をして命の大切さを学ばせてくれている鳥を肩に乗せて、可愛らしく首を傾げていた。


「ニーナ、今から三人で猫さんをやるんだよ。ニーナもやる?」

「やる。楽しそう。にぃにもやるんでしょう?」

「残念ながらな。と言うか、祭りの時はあんなに嫌そうだったのに随分と乗り気じゃないか。今回も嫌そうな顔をすると思っていだのに、驚きだよ」

「あれは不特定多数に見られるのが嫌だっただけ。3人だけならまだ大丈夫」


 不特定多数って子供が使う言葉じゃないよなぁ........変な本ばかり読んでいるニーナだが、その分しっかりと言葉を話せるのはいいことなのかもしれない。


 いや、将来が心配なのは変わりないんだけどさ。


 俺はそう思いながら、全てを諦めて猫の服に腕を通す。


 今日はアランを泣かせたお詫びなのだ。友人の我儘に付き合ってやるとしよう。


「わぁ........!!やっぱりノアは猫さんが似合うね!!すごく可愛いよ!!」

「にぃに、可愛い。ね?トリ」

「カ?カァ」


 黒い猫の服を着ると、早速アランとニーナが目をキラキラと輝かせながら褒めてくる。


 可愛いと言われるのはもう慣れてしまったが、そんな目で見ないで欲しい。


 試しに鏡で自分の姿を見て見たが、正直そこまで可愛いとは思わなかった。


 うーん。アランとかニーナの方が可愛く見えるんだよな。やはり、自分だと認識していると分かりにくものなのだろうか。


 トリ君。動物から見た君の意見が知りたいよ。これ、可愛いのか?


「ねぇノア。その姿で“にゃ”をやってよ!!最初はちょっと嫌そうにしながらさ!!」

「みたい!!すごくみたい!!」

「えぇ........まぁいいけど。........に、にゃ」


 実際ちょっと嫌なので、普通に“にゃ”という。


 すると、その姿を見ていたアランとニーナはすごく嬉しそうにしながら俺に抱きついてきた。


 あ、また急に動いたニーナの慣性に負けてトリ君が振り落とされてる。君も大変だね。こんな思想の強い女の子の相手をさせられているなんて。


「にぃに可愛い!!すごく可愛い!!」

「可愛いよノア!!やっぱりノアは可愛いよ!!」

「はいはい。そうだね可愛いね(諦め)。2人も“にゃ”って言ってよ。そうだな........アランは限界まで媚びて、ニーナは心の底から嫌そうにやってみて」


 俺だけやらされるのは不公平という事で、俺も2人にリクエストをしてみる。


 すると、2人は俺に抱きついたままそれぞれのリクエスト通りに“にゃ”を言った。


「にゃ♡」

「........にゃ」


 上目遣いで目をうるうるとさせながら少し高い声で媚びてくるアランと、心の底から嫌そうな顔をしつつ低い声で鳴くニーナ。


 うーん。可愛い。


 アランは元々美少年という感じで、ちゃんと可愛いショタであった。


 俺の性癖が終わってたら手を出していたかもしれないな。流石にそんな犯罪者になるつもりは無いしが。


 ニーナもニーナで可愛い。


 そもそも普通にしていても可愛いニーナだ。嫌そうな顔をしていても可愛いものは可愛い。


 さすがは前回の祭りで死者を出した(死んでない)ニーナの“にゃ”。危ないおじさんが出てきても仕方がないと言ってしまいそうなほどに、可愛さで溢れている。


 やはり原作ストーリーはクソだ。こんなにも普通な少年少女を闇落ちさせてしまうのだから。


 リバース王国は潰すべきだな。特に王族貴族達をしっかりとぶっ殺して、民のことを考える王を立てなければならない。


 そういえば、エルベス君は元気にしているのだろうか?アランが消えてからも一応監視は続けているが、どうも最近動きがおかしい。


 下手をすると、5年後の未来が今来る可能性も有り得るな。


 勇者に見捨てられた国。


 エルベスはアランとの交流がそれなりにあっただけに、単純に魔王軍に誘拐されたとは思ってないだろう。


 おそらくは、見捨てられたと思っいるはずだ。もしかしたら、俺が知らない間にアランが何かしらの仕込みをしていた可能性だってある。


 あまりにも腐った果実は早めに処分した方がいい。腐りすぎた果実は確実に周囲へ害を撒き散らす。


 アランが強くなっていることは確認できたし、今後リバース王国がどう動くかはしっかりと見ておかないとダメだな。


 サンシタ王国とカマセ帝国も恐らく原作とは違う動きをしてくるだろう。


 そこら辺も、しっかりと対応できるようにしておかなければならない。


 やることがまだまだ山積みで大変だよ。


「ノア?」

「にぃに?」

「あぁ、ごめんごめん。アランもニーナも可愛くてちょっと固まってたよ」

「僕も可愛かった?えへへ。それはちょっと嬉しいな。ね、頭を撫でてよノア」

「にぃに、私の頭も撫でる」

「はいはい。分かったから抱きつく腕に力を加えないでくれ。マジで背骨が折れるから」


 こうして、俺はその日一日アランとニーナの面倒を見ながらも、なんやかんや自分も楽しむのであった。


 ところでアラン?“お手”は犬だろ。猫じゃない。




 後書き。

 ノアチャンカワイイヤッター‼︎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る