一発ギャグ
原作ストーリーを捻じ曲げた影響と言うのは、俺が想像していたよりも大きいらしい。
俺は話の流れが読めなくなる程度しか考えてなかったが、まさかレオナしか使えない【無限戦舞】の一部を己のものにするとは思っていなかった。
あまりにも規格外すぎる。
ゲームシステムにすら抗い、さも当然の権利のようにポンポンと新たな技を習得するとかどうなってんだこいつ。
その姿はまさしく主人公。最早、何をやっても世界がアランを祝福している。
元々普通に強かった癖に、なんでここまで強くなってんだこの勇者。
やばい。次の模擬戦からこの技を当たり前のように使ってこられたら大変だぞ。
もしかしたら俺も新たな力を手にすることが出来るかもしれないという希望をアランは俺に与えてくれたが、悲しいことにステータスの問題で力を手にしたとしても大した攻撃力は持たない。
だって物理攻撃は全くのダメだし、魔法攻撃も正直使い物にはならないからね。
召喚したモンスターの攻撃力は術者依存ではなく、そのモンスターを基盤に作られるのだから。
となると俺が覚えるべきは新たな召喚魔法なのだが........覚えられるのか?
やれるのかノアよ。ネタキャラとして君臨しながらも、極めればガチキャラであったお前は新たな力を習得出来るのか?!
そんな期待を胸にしながら、俺達は2週間近くのダンジョン滞在を終えて魔王国に帰ってきた。
今日は疲れたし、明日、ちょっと召喚術士の先輩に色々と教わってみるとしよう。
もしかしたら、さらなる力を得られる可能性もあるんだしな。
「くははははははっ!!そろそろ帰ってくる頃だと思ったぞ!!おかえり諸君!!元気そうでなによりだ!!」
「ただいま魔王様。魔王様の後ろにいる人達は全く元気そうじゃないんだけど?」
「ただいま魔王様。ミャル代理軍団長とかブロンズの顔が死んでるね。何があったのこれ?」
「どうせ魔王様がなんか無茶ぶりでもさせたんだろ。ほら、模擬戦争に負けた方は罰ゲームとか言い出しそうだしな」
「あー、確かに有り得そうだね。魔王様の悪い癖だし。だから皆から嫌がられるんだよ。自覚してないのかなぁ?」
「........何があった?」
帰ってくるなり大声で笑いながら出迎えてくれる魔王と、第四魔王軍の面々。
しかし、その表情は天と地ほどの差がある。
魔王はニッコニコの笑顔だが、第四魔王軍の殆どは死んだ顔をしていた。
一体何があったんだ?
そう思っていると、魔王の横を爆速で駆け抜けて俺にタックルをしてくる少女が1人。
ピンクの髪を揺らしながら、肩に乗る鳥の事など考えずに俺の胸に飛び込んできたのは、我らが妹ニーナであった。
ごめんな、鳥くん。勢いよく飛び込んできたニーナの肩に乗っていたが為に吹っ飛ばされちゃって。
ニーナには俺から言っておくよ。
「にぃに!!おかえり!!」
「ただいまニーナ。悪かったな。そこで大笑いする魔王様が勝手にダンジョンに行けと命令したせいで、構ってやれなくて。文句は魔王様に言ってくれ」
「もう言った。今までに見た事がない程慌ててた」
「くははははははっ!!魔王たる妾を本気で殺さんとする程の殺気だったのでの!!マジで怖かったぞ!!全く、魔王を脅す少女がどこの世界におると言うのだ!!」
「あ、あはは。魔王様と言えど、ニーナに怒られると何も出来ないんだね。もうニーナがこの国の王様でいいんじゃない?」
「その方が有難いな。なぁ魔王様。もうそろそろその席を譲ってやったらどうだ?」
「うんうん。その方がいいよ。魔王様に王の席は荷が重いよ」
アランの冗談に、ここぞとばかりに乗ってくるザリウスとエル。
レオナはコミュ障を発揮していたのか、無言で頷くだけであった。
「おいおーい。酷すぎないか?妾、そんなに王として頼りないかの?いい加減本当に泣くぞ?毎回そう言っては泣いてないけどそろそろ妾も泣くぞ?良いのか?」
「おう泣けよ。みっともなく鼻水垂らしながらワンワンとな」
「そうだね。泣いてよ魔王様」
「うわーん!!妾の部下たち辛辣すぎる!!」
“泣けよ”と言われ、本当に泣き出す魔王。
ここは人通りの多い大通りで、そのど真ん中で泣きわめくとなれば人目を集める。
何だ何だと人々がよってきては、“あぁ、何だ魔王様が泣いてるだけか”といつもの事のように受け流していた。
ここまで来ると逆に凄いな。誰も魔王様を慰めようとしない。
ある意味人望の塊だよ魔王様。ここまで雑に扱われる王というのも珍しい。
「なんで誰も妾を慰めてくれぬのじゃー!!妾、泣いておるのだぞー!!」
「いやぁ........ニーナちゃんのご機嫌を取るために私達に次から次へと一発ギャグをさせる魔王様にかける慈悲はないにゃる。自業自得にゃるよ........」
「何がつらいって、ニーナが全く笑ってくれないんだよなぁ........“それ、面白いと思ってやってるの?”って真顔で聞かれた時は心にヒビが入った音がしたぜ」
そんなことしてたんかい。
どうやら魔王は模擬戦争で負けた第四魔王軍達に、プリプリと怒る(そんな可愛いものでは無い)ニーナのご機嫌を取らせようと一発ギャグ大会をしていたらしい。
やべぇ、ちょっと見てみたかったなそれ。
俺もお願いしたら見せてくれないかな。すごく気になるんだけど。
そして、彼らの顔が暗い理由は、ネタにマジレスしてくるニーナに心を折られたからなのだろう。
ニーナ、そういう所は容赦ないからな。俺はニーナの前で一発ギャグとかしたくないもん。
「ちなみにどんなギャグをしてたんだ?」
「俺はミャル代理軍団長のモノマネを........そしたら、心をへし折られた........」
「ブロンズ酷いにゃるよ?!私のモノマネをするのは百歩譲っていいとして、それで滑るとか最悪にゃる!!あの時の空気は本当に地獄だったにゃるよ!!しかも、滑ったことによって生まれた静寂に笑いが起きるとか言う1番しょーもない笑いだったにゃる!!」
「ちょっとブロンズやってくれない?見てみたいなぁ........」
悪ノリで俺がそう言うと、ブロンズは物凄く嫌そうな顔をしつつも声の調整を始める。
いや、やるんかい。凄いなそのメンタル。
「........“にゃが多いミャル代理軍団長”........にゃにゃめにゃにゃじゅうにやにゃど!!(斜め七十七度)」
「「「「「........」」」」」
静寂がその場を支配する。
先程まで泣き喚いていた魔王ですら黙ってしまっている。
なんか聞いた事あるなそれ。化け物のの物語に出てくる猫に言わせてなかったか?斜め七十七度の並びで泣く泣くいななくナナハン七とか言うセリフを“にゃ”に変換するやつ。
そして、どうすんねんこの空気。
泣く子も黙るよ。こんなに面白くないギャグ。
案の定滑りまくったブロンズのギャグ。
風の音すら聞こえない静寂の中、その静寂を破ったのはネタにされたミャルであった。
「だーかーらー!!私をネタして滑ってんじゃねぇぞ!!この四流芸人がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「いや、ちょっと待て!!今のは俺悪くないよな?!姫様がやれって言ったじゃん!!」
「やってんのはお前だろうが!!ぶっ殺してやるからこっちに来いやぁ!!」
「今のはブロンズが悪いの。妾、助けてやれぬわ」
「ガハハ!!ブロンズが悪ぃな!!大人しく殴られとけ」
「そんなぁ!!レオナ軍団長!!助けてくださいよ!!」
「頑張れブロンズ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ミャルに捕まり、ボコボコにされていくブロンズ。
皆が“今のはしゃーない”となる中で俺の後ろにいたエルがボソッと呟いた声が聞こえた。
「正直、ちょっと面白かったなぁ........」
マジか。エル、笑いのセンスが終わってるよ。
後書き。
こんな終わり方ですが、これにてこの章はおしまいです。
今回はノアとアランが魔王国を楽しむだけの回でした。戦争?もういいんじゃないかな。書くの面倒だよ(職務放棄)。
リバースとか三下とか噛ませとか、もうどうでもいいよ。どうせ負けるんだから(メタイネタバレ)。
というわけで、次は戦争回になるはずです。
お楽しみに‼︎
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