バグ勇者
アランを泣かせてしまった為、ご機嫌を取ろうとしたら猫さんをやる事になってしまった。
まぁ、俺が悪いので仕方がないのだが、正直やりたくは無いなぁ........
アラン、暴走しがちだし何より普通に恥ずかしい。
大衆の前でやる時はもう吹っ切れてノリノリでやるが、2人っきりでやらされるとなると恥ずかしさを覚えるのは仕方がないだろう。
俺にだって羞恥心はある。しかし、約束を守らない悪い子には乱数の女神様は微笑まないのでやるしかない。
アランを泣かせてしまった事で乱数の女神様に嫌われている可能性もあるが、もうそれは祈るしか無かった。
ごめんなさい。反省しているんで許してください。
そんなこんなありつつも、翌日。
俺達は遂にこのダンジョンをクリアするべく最後の階層へと降りていた。
ヘルオブエデンのダンジョンには幾つか種類があるが、このダンジョンは小さくオーソドックスである。
中ボスというものは出てこず、最後のボスがここで待ち受けているのだ。
ボスは確かランダムだったが、正直そこまで強くない。
アランの現在のレベルが大体40ぐらいのはずなので、死の危険を感じることは無いはずである。
「なんか今までとは違う雰囲気だね。闘技場みたいな見た目をしているかな?」
「このダンジョンの最下層に着いたな。ここでは強いモンスターが出てくる。今のアランなら問題無いとは思うけど、油断するなよ」
「もちろん。油断してノアに守られるなんてことが無いように頑張るよ。ノアを守ると決めたあの日から、ずっと守って貰ってばっかりだしね」
他の階層とは違う雰囲気を察し、警戒度をあげるアラン。
さて、どのモンスターが出てくるかな?一番弱いのが出てきてくれると楽なのだが、こういう時って大抵1番強いのが出てくるんだよね。
ほら、自己新記録を出している時に限って、最後の最後でクソ乱数引くみたいな。
そんな思い出したくない記憶を思い出しつつも、俺とアランはゆっくりと闘技場の真ん中へと歩いていく。
保護者組も万が一の為に着いてきてくれているが、余程のことが無い限りは手を出さないだろう。
「........来るぞ」
「うん。わかってる」
闘技場の真ん中辺りまで来ると、反対方向から魔物が現れる。
あぁ、下ブレ引いたな。こいつは一番面倒なのが来た。
ドシンドシンと、大きな足音を立てながらゆっくりとやってきたそのモンスターを見て、アランは困惑の声を上げる。
「なにあれ........大きいくて黒い亀?」
「ブラックトータス。防御力に優れたモンスターで、甲羅に篭られるとこちらからは手出ができない厄介なモンスターだ。甲羅をぶち抜けるだけの強さがあればいいが、俺には無理だな」
「僕なら行けるかな?」
「どうだろうな?俺はアランじゃないから、その辺は分からん。とは言えど、一筋縄じゃいかないのは間違いない。強いぞコイツは」
アランを泣かせた天罰か、どうやら一番来て欲しくないやつが来てしまった。
ブラックトータス。
真っ黒なバカでかいこの亀は、動きが鈍く攻撃手段もほとんど持たないのでまず負けることは無いのだが、とにかく頑丈でダメージが通らない。
殻に篭られると殆ど手出ができず、魔王軍幹部を使ってこのダンジョンを攻略していた時も魔法や武技を乱発しながら強引に押し切る戦法を取っていた。
尚、こいつが出てくると確定で40秒のロスが出る。RTA走者からすれば、最後の最後にこれほどにまで悪夢のような存在もそうはいないだろう。
マジでお前のことは嫌いだわ。何度も何度も自己ベストの邪魔をしてきやがって。
ちなみに、嫌いなモンスターランキングと言うランキングが公式から発表されたことがあるが、コイツは四位に入るほどプレイヤーから嫌われていた。
とにかく倒すのが面倒で、動きは遅いが高火力。
遠距離チクチクが最適解だが、時間が取られて面倒臭い。
回復しないのが唯一の良心だが、回復が使えるモンスターと組み合わせると難攻不落の要塞となる。
これで回復魔法とか使えてたら、マジでえげつないヘイトを買っていただろうな。
なんで存在してるの?死ねよ。
「なんかノア怒ってる?」
「気のせいだ。ほら、行くぞ」
昔の事を思い出して若干イラッとしていると、アランが心配そうにこちらを見てくるのでサッサと戦闘を始める。
俺は大量のスケルトンと剣を召喚し、足元を封じるためにスライムも出して本格的に狩りを始めた。
それに合わせてアランを動く。
俺が召喚したのと同時に動き始め、アランは俺の作ったモンスターの道を素早く駆け抜けた。
「喰らえ!!」
「ぶもぉー」
最初に攻撃を当てたのはアラン。しかし、その一撃は分厚い甲羅に阻まれて剣を弾く。
ガキン!!と言う音と共にアランは一旦引くと、続けて攻撃を再開する。
「硬いね」
「言っただろ。弱点は甲羅が覆われていない部分だが、やつは身の危険を感じると直ぐさま甲羅に入る。反応させずに上手く攻撃を当てないと厳しいぞ」
「なるほど。でも、僕は真正面から切り伏せるよ。今の一撃で何となく掴めたからね」
何が?
俺がそう問い正す前に、アランは再びスケルトンとスライムの中を疾走する。
そして、俺は自分の目を疑った。
「【無限戦舞】一刀。線撃」
「........は?........は???」
それは、レオナが扱う剣の武技。無数の剣を使うために作られた武技でありながら、一つの剣で行う絶対強者の一撃。
剣聖とまで言われた剣の頂きに立つ者のみが使う人智を越えた一撃が、いとも容易くブラックトータスを切り裂いた。
いや、いやいやいやいや!!
それはレオナ固有の武技だろ!!リバース剣術とは訳が違うんだぞ?!
え、なんでコイツ当たり前のようにレオナの技を使えてんの?システム上習得するのは不可能だろ!!
バグだ。バグ勇者がここにいる。
魔王軍幹部の武技を当たり前のように使うバグった存在がここにいるぞ。アランめ、俺と模擬戦をやっている時はこれを使わなかったのか。
ゲームの中では決して習得が不可能な技。しかし、レオナの部下となり、レオナに剣技を教えられているアランはその技を習得してしまったのだ。
しかも、どう見ても威力がおかしい。
一直線上に斬撃を飛ばすだけの攻撃で、どうやったらこのブラックトータスの防御を貫けるんだ。
........あれ?原作より強くなってね?難易度がイージーだったとしてもこれはおかしいだろ。
「ふふん。やっぱり驚いているねノア。どう?頑張ってレオナ軍団長の技を幾つか習得したんだ。ノアを驚かせようと思って、完璧に使えるようになるまで隠しておくつもりだったけど張り切っちゃったね」
「........驚きのあまり顎が外れそうだ。俺に隠れてコソコソと練習していたって事か?結構な時間一緒に居るはずなんだがな?」
「ふふん。気づかなかったでしょ?本当は模擬戦の時に使おうと思ってたんだけどね」
模擬戦の時に使われてたら、驚いた硬直で負けてたな。
なんだこの勇者。原作では使い手が一人しかいなかった武技を当たり前のように習得してるとは予想外なんだが?
威力もなんかおかしいし、もしかしたらアランにはこの剣術の方が合っているのかもしれない。
いや、だとしてもおかしい。
原作ストーリーをねじ曲げた事による影響が出てくるとは思っていたが、こんな形で出てくるとは思ってなかった。
........と言うか待てよ。アランがレオナの剣技を習得できたんなら、俺も頑張れば他の攻撃手段を得られるんじゃないか?
正直使い物にならないだろうが、それでもやって見る価値はある。ゲームのキャラクターだからと言う固定概念を、俺は未だに持っていたようだ。
「すげぇよアラン。頑張ったんだな」
「えへへ。ノアを守るためだからね。そりゃ頑張るよ」
ブラックトータスが消えて素材になっていく中、金色の髪を揺らして笑うアランはとても嬉しそうであった。
後書き。
ちょっとネタバレになるけど、ノアくんはノアくんなのでノアくんのままです。
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