モンスタートラップ(レベリング用)


 レオナの可愛いところが見られて満足したり、またしてもザリウスが弄られたりとしながらも俺達は順調にダンジョンの攻略を進めて行った。


 第一階層はハッキリきって雑魚敵馬鹿りだったが、徐々に徐々にその敵は強くなっていき最終階層の一つ前第四階層ではそれなりに手応えのあるモンスターが出現し始めている。


 とは言えど、アランの前では無に等しく、名乗りをあげる前にあっという間に殺されてしまうのだが。


「第四階層は気味が悪いね。この墓地見たいな景色と薄暗い雰囲気の中で出てくるゾンビ達。僕はすごく嫌いかも」

「臭いも少しキツイしな。腐敗臭を撒き散らしながら寄ってくるのは勘弁願いたいね」


 第四階層は死者が支配する階層。


 様々な墓が景色を彩り、多くのゾンビやスケルトン、そしてゾンビナイトと呼ばれるモンスターが出現する。


 ゲームの中でもあまり強くない癖に体力が多く倒すのに少し時間がかかるという事であまり人気のあるモンスターではなかったのだが、現実になるともっと最悪だな。


 ゲームをやっていた時は感じられなかった腐敗臭が凄まじく、ゾンビ系のモンスターが出てくるとアランもできる限り近づかずに魔法でモンスターを処理していた。


 もちろん俺は、何時もやることは変わらない。


 圧倒的物量によるゴリ押しで全てを蹂躙し、体力が高いとかなんぼのもんじゃいと言わんばかりに殴りまくる。


 一つの事しかできないノアくんは、悲しい事にこれ以外に戦う手段が無いのだ。


 アンデッド系のモンスターって毒とか効かないから、純粋に殴り殺すしかないんだよな。


 全くもって大変である。


「お、ようやくこれで全部揃ったな。はい、ザリウスの分」

「お、俺も貰えるのか?姫様からの贈り物なんて言った日には、魔王国が血の海に染まりそうで怖いな。男からも女からも嫉妬されそうだ。いや、冗談抜きに」

「ノアくん、気をつけるんだよ。ノアくんはノアくんが思っている以上に可愛いから。昔僕もそれで大変な目にあったんだよ........」

「う、うん。気をつける」


 最後の経験値増加のブレスレットを獲得した俺がザリウスにそのブレスレットを渡すと、エルが今までに見た事がないほど真剣な顔で俺に忠告してくる。


 一体過去に何があったんだ。すごく知りたい気もするが、地雷臭が漂ってくるので俺は何も聞かない。


 触らぬ神に祟りなし。好き好んで自分を食らう虎の尾を踏む必要もなければ、地雷原でタップダンスを踊る趣味もない。


 これは触れちゃいけないやつなんだと自分を納得させると、なんやかんや嬉しそうにブレスレットをするザリウスを見て、微笑ましく思う。


 経験値増加のブレスレットは最初にアランが手にしたのだが、この主人公君はとんでもない豪運の持ち主であっという間に六個のブレスレットを揃えてしまったのだ。


 で、七個目が出た時にどうしようかと悩んでいたのだが、どうせなら保護者組にもあげるかと提案したところジャンケン大会が勃発。


 こういう時のジャンケンが滅茶苦茶強いレオナ軍団長が最初に勝ち、次にエル、そして最後にザリウスがブレスレットを受け取る順番になったのである。


 そんなに欲しいものか?保護者組は、もうレベル上げが必要ない程レベルが高いでしょうに。


 そして、9個目のブレスレットが出たので、無事に皆お揃いのブレスレットをしながらダンジョン攻略を続けることになったのだ。


 まぁ、本人たちが楽しそうならそれでいいか。


 ダンジョン攻略にも慣れてきて、ワイワイと話しながら出てくるモンスターを倒していくと遂に探していた場所が見つかる。


 ゾンビが出てくる階層で見つけるとは運がないが、こればかりは仕方がないな。


 我慢してくれよアラン。


「んー........あ、やっとあった。アラン、今から滅茶苦茶疲れるし嫌なことをするだろうけど、覚悟はあるか?」

「へ?どういう事?ノアに言われるならどんなことでもやるよ」

「そうか。なら、そこの開けた場所に向かうぞ。ちゃんと戦闘準備はしておくように」

「ん、わかった」


“戦闘準備”という言葉を聞いて、普段の優しいアランから静かな目になるアラン。


 いいね。その顔が嫌そうな顔にならない事を祈っておくよ。


 俺は、そう思いながら二人で一緒に墓場のない開けた場所に足を踏み入れる。


 保護者組はこの場所がなんなのかわかっているのか、広場には入らず俺達を見守るだけであった。


「あれ?なんでレオナ軍団長達はこっちに─────」

「ぐおぉぉぉぉぉ........」

「─────ゾンビか........え?」


 レオナ達が来ないことを疑問に思い後ろを振り返ったその瞬間、地中からゾンビが姿を現す。


 しかし一体だけではない。


 パッと見100体ほどのゾンビやスケルトンが地中から現れてきたのだ。


 うわぁ、さすがにちょっと気持ち悪いな。


 ダンジョン攻略をするにあたってのメリット。それは、無限湧きしてくるモンスターによるレベリングとお金稼ぎである。


 ダンジョンはモンスターが尽きることなく出てくるので、近作とレベル上げにはピッタリなのだ。そして、その中でも最も効率のいい方法が、モンスタートラップを踏むことである。


 モンスタートラップとは、今現在俺の視界に広がる世界を見てわかる通り、たくさんの魔物が一気に襲いかかってくる場所のこと。


 このゲームのダンジョンには必ずこういったトラップが1つは用意されており、モンスタートラップがある場所はレベル上げに使われるのである。


 運営側もそのような意図で作っている節が見られ、公式サイトの“効率のいいレベル上げ方法”ではモンスタートラップを踏むことについても書かれている程だ。


「うっ........臭い........」

「だから言っただろ?嫌な思いをするって。ほら、大量のモンスターが出てきてくれたんだから頑張って全部倒すぞ。アランがやらなきゃ行けないんだから、引け腰にならない!!」

「流石にこれは予想してないよ。ノアも手伝ってくれるの?」

「多少は手伝ってやる。が、アランがメインとなってモンスターを倒してくれないと意味が無いぞ。ほら、もうすぐそこまで来てるんだから頑張れ!!」

「うぅ........頑張る........」


 アランはそう言うと、光属性魔法を連発。


 範囲攻撃の魔法を使って無造作にゾンビたちを殲滅しつつ、倒しきれなかったゾンビ達は剣で切り飛ばした。


 もちろん、俺も多少は援護してやる。


 アランの取り残したモンスター達を囲んでタコ殴りにしつつ、できる限りアランがモンスターを倒すように仕向ける。


 ゾンビの中でも上位種のグールをあっさりと倒せる辺りアランは強いな。一応、こいつの適正討伐レベルは31なんだけどね。


 モンスターにもダメージが大きく入る攻撃と入らない攻撃が存在している。ゾンビ系は光と炎に弱いし、そう考えるとかなりいいレベリング場なのかもしれない。


 その腐った臭いに目を瞑れば。


「はぁ、これは最悪だね。凄い臭いだよ。ノアの匂いを嗅いで心を落ち着かせなきゃ........」

「やめろバカ。それと、これで終わりじゃないぞ。アランが強くなるまで延々にここで戦うぞー、ほら、もう一度だ」

「え?」


 俺に引っ付いてくるアランを無理やり剥がし、一度広場を出て再入場。


 レベリングのための場所なので、一度外に出て再入場するとあら不思議。またしても沢山のモンスターが現れるのだ。


 お陰で、このゲームのレベリングはそこまで難しくない。偉大なる先人達が開拓したレベルング指南に従えば、ゲームクリアできるだけのレベルに到達するのは結構容易いのである。


 問題は、それを現実でやろうとするとかなり地獄という事だが。


「の、ノア、ちょっと休ませ........」

「じゃ、次行くぞ。まだまだ先は長いんだし、この程度でへばってたらダメだぞアラン」

「いやぁ........もうゾンビいやぁ........」


 何言ってんだ。鼻も麻痺してきて調子が良くなってきた所だろ?


 もっとレベリングしないと強くなれないんだぞ。せっかくブレスレットも集めたんだから、限界まで経験値を稼がないと。


「なんというか、姫様って一度スイッチが入ると容赦ねぇな。今度から気を付けよう」

「そうだね。あの明るいアランくんがちょっと泣きそうだよ。止めなくていいの?」

「やばそうなら止めに入るけど、今止めたら姫様に殺されそうだからなぁ........俺たちに出来るのは手を合わせてアランの無事を祈るぐらいだ」

「だね........」


 こうして、アランの悲鳴と共に地獄のレベリングが始まるのであった。


 よーし、とりあえず準備運動として10周しようか。え?ゾンビやだ?そんな泣き言が言えるってことは、まだまだ余裕そうだな!!

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