サバイバル


 レベル上げとサバイバル訓練も兼ねて始まったダンジョン攻略。


 ぶっちゃけこのダンジョンはあんまり強いモンスターが出てこないので、苦戦することは滅多にない。


 小鳥を飛ばして周囲を探索し、オークが居たらそこへ行ってアランに狩らせる。


 ただそれだけの作業をするだけなので、正直緊張感などある訳もなかった。


 だって適当にやってればいいだけだしな。


 そして、外の世界と昼夜が連動しているダンジョンの中に夜が訪れる。


 適当に狩った魔物の素材は持てる分だけ持って、小鳥が見つけた川で一泊を過ごすことになった。


「軍から支給された道具の中に火を起こせるのがあって良かったな。じゃなきゃアランに頼む所だった。火属性魔法も使えるんだろう?」

「うん。使えないのは闇属性ぐらいかな。あれは光属性魔法を持っていると使えないから、仕方がないね。後はノアのような特殊な魔法も使えないよ。基本属性は大体使えるけど」


 軍から支給されているなんちゃってライターで火をつけながら、俺はそこら辺に落ちていた乾いた木の枝を追加して火を大きくしていく。


 魔王軍はこういう支給品もしっかりとしているから助かるな。魔王様の思いつきで突発的に色々なことが起こるから、必要最低限のものは常に持っておくべきとブロンズにアドバイスをされたのは正しかった。


 持ってなかったら、今頃アランの炎魔法(攻撃系)で辺り一面を吹き飛ばしながら火をつける羽目になっていただろう。


 ありがとうブロンズ。今度一回だけは“姫様”と呼ぶのを許してやる。


 そんなことを思いつつ、俺はこのダンジョンを歩く中で見つけた野菜や果物を取りだしつつオークの肉を焼き始める。


 もちろん、調理道具は無いのでキレイに洗った木の枝にぶっ刺して焚き火に当てるだけの簡単な調理方法だ。


 原始的過ぎて逆に料理しにくいが、これはこれでサバイバル感があって楽しいかもな。


「アランの剣技は綺麗だったな。レオナが教えているだけの事はあるぜ。あのオークがゴブリンみたいにスパスパと切られていく様は見ていて凄かったな」

「ノアくんもかなりえげつない戦い方をしていたよね。大量のスケルトンを召喚して道を塞いだ後、上から剣をドバドバ落として串刺しにするんだから。模擬戦争であの戦い方は見ていたけど、近くで見るとゾッとするよ。だって、戦時中どこからでも剣が降ってくるってことでしょ?寝ている時も剣を恐れなきゃいけないなんて、厄介すぎるね」

「........ノアもアランもよく頑張った。偉いぞ」


 今日1日の狩りを見てそれぞれ感想を述べる保護者たち。


 殆どアドバイスも何もしなかった三人だが、そもそもこの階層ではアドバイスのしようがないもんな。


 サバイバルに関しても少しだけ知識がある俺がいれば最低限の事はできるし、周辺地形の把握とかは召喚術士の仕事。


 川の発見から安全そうな場所の確保、更には周辺の警戒までなんでもごされだ。


 ちゃんと育てれば召喚術士は普通に強いし、こうした雑用も得意だから何かと重宝されるのがよく分かる。


 問題点はMP管理が滅茶苦茶難しいと言うことぐらいかな。上級者になれば、MPを切らさずに上手く立ち回れるし。


 そんな召喚術士の弱点すらも克服してしまったノアに死角無し。火力という点を除けば、召喚術士の中でも最強格。


 防御力も物理攻撃力もないし、なんなら初期魔法しか覚えられないからマジでネタキャラなのだが。


「こうしてスケルトンが周囲の警戒をしてくれるのも楽でいいね。スケルトンが壊されたら敵がいるってすぐに分かるし、かなり防衛に適した魔法だよ」

「普通の召喚術士って魔力があっという間に尽きるはずなんだがなぁ........魔王軍に所属する数少ない召喚術士にも聞いてみたが“数万のスケルトンを召喚して維持するのは無理”って言っていたぞ。しかも、あの馬鹿げた召喚速度はこの世界の中でもノアだけだって言い切るぐらいには早いらしい」

「ふふん。ノアは凄いんだよ。昔から色々なことを知っているし、何より僕よりも強いからね。魔王国に来てからの模擬戦の戦績も僕が負け越してるんだよ?中隊長クラスの人達には大体勝ち越せるのに........」

「いや、その年で中隊長クラスの奴らを相手に勝ち越してるのも大分おかしいからな?お前ら二人ともまだ11歳だろ」


 俺の事を褒められたのが嬉しいのか何故かドヤ顔で胸を張るアランと、アランもアランでおかしい事を指摘するザリウス。


 確かにアランも大分おかしい。


 中隊長クラスって最低でもレベル40無いと勝てないはずなんだけどね?たとえ本気の殺し合いをしている訳では無いとしても、なんでコイツは当たり前のように勝ち越しているんだ。


 アレか?この世界の難易度はイージーなのか?


 尽くアランに忖度をしているのかこの世界は。


 やはり主人公であるアラン中心に世界は回っているんだなと思いつつ、俺はいい感じに焼けてきた肉をとる。


 そして、これまたキレイに洗ったまな板(アランが木を切って作ってくれた)の上に乗せると、軍から支給されているナイフを使って肉がしっかりと焼けているかを確認してみる。


「あぁ、危ないぞノア。刃物はノアには危ないぞ........」

「お前はノアのオカンか。初めて料理をする息子を心配する母親みたいな声を出しやがって。姫様だって11歳の男なんだから、このぐらいはできるだろ。自分の部下が可愛いのは分かるが、過保護になりすぎるなよ?大体、本物の剣とか振り回してたじゃないか。なんで今更心配してんだよ」

「いや、剣はいい。だが、包丁やナイフは危ない」

「何言ってんだコイツ。普通剣の方が危なくないか?」

「あはは。レオナさんもそんな事を言うんだね。ちょっと意外かも。千尋の谷に人を突き落として“這い上がってこい”とか言いそうな雰囲気してるのに、これじゃノアくんとアランくんの保護者だよ」


 俺がナイフを使って肉を切る姿がそんなに心配なのか、あたふたしながら俺を見守るレオナ。


 え、可愛すぎるんだけど。こんなレオナゲームの中でも見た事ないって。


 やばい、意識がそっちに持っていかれそうで自分の手を斬りそう。気を付けないと俺が死ぬ。


「レオナ軍団長もあんな事言うんだね。ちょっと意外」

「だな。俺達は本格的にレオナ軍団長に保護するべき子供として見られているらしい。その癖して、模擬戦じゃ容赦ないんだから何を考えているのか分からんな」

「あはは。模擬戦の時のレオナ軍団長は本当に容赦ないもんね。何度痣が出来たか数え切れないよ」

「で、その後ミャル辺りに怒られてしゅんとするんだよな。見ていて本当に退屈しない人だよ。あ、アラン、この肉焼けてるからもう食えるぞ。そこの野菜と果物と一緒に食べると多分美味いから食ってみろ」

「本当?........あ、美味しい。ノアは本当になんでも知ってるんだね」

「適当に言っただけだ。味見をアランにさせたんだよ」


 嘘です。このレシピで作れる料理があるを知っていたから、一緒に食べても美味いんじゃね?と思っただけです。


 そこまで酷い味にはならない事は知ってたよ。


「よし、ここら辺も全部焼けてるっぽいな。ザリウス、エル、レオナ軍団長。子供に料理を任せて話し込んでないでサッサと食べに来てよ。まだまだお肉を焼かないといけないんだから」

「お、姫様の手料理を食えるのか。まぁ、料理っつっても焼いて乗せただけだがな!!」

「そんな事言うならザリウスさんの分は無くてもいいよね。普通そこはありがとうでしょ?」

「ザリウス。殺す」

「ちょー?なんでまた俺が標的になってんだ?あ、ちょっと待てレオナ。姫様に謝るから本気で怒らないで!!」


 本当に賑やかで五月蝿い人達だなぁ........


 俺はそう思いながら、自分で切った肉を口に運ぶのであった。


 お、滅茶苦茶美味しい。味付けがないのに美味いとか、すげぇなオーク。

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