レッツダンジョン


 魔王がニーナに怒られる事が決定した後、俺達はニーナになんと言い訳したらいいかと泣きつく魔王を置いてダンジョンのある場所へとやってきた。


 場所は意外と近く、魔王城の聳える街から数時間歩いた程度の場所。


 半日でダンジョンを攻略出来れば日帰りで帰ってくることも出来るが、この世界はゲームの世界ではなく現実なので1週間ほどはどうやっても時間が掛かりそうだ。


 何より、今回の趣旨はレベル上げだからな。俺はともかく、アランにはここで最低でもレベル40ぐらいにまでなって欲しい。


 レベル40から習得できる魔法の中に、かなり便利な魔法が存在している。条件が諸々面倒ではあるが、アランの戦闘力を大幅に引き上げてくれることになるだろう。


「そう言えば、急に言われてそのまま来ちゃったけどなんの準備もしなくて良かったのかな?食料とか水も用意してないんだけど」

「ハッハッハ!!魔王様からの命令でな、今回のダンジョン攻略は二人のサバイバル訓練も兼ねているんだ。戦時中、味方とはぐれて1人で行動するなんてこともあるから、最低限のやり方を身につけるように言われている。本当なら新兵訓練の時にやるんだが........ほら、姫様もアランも少し特殊な入り方をしただろう?」

「そう言えば二人とも新兵訓練をしていなかったね。ノアくんは凄まじい戦果を上げているから、すっかり忘れていたよ」


 なんの準備もせずにやってきてしまったことに気づいたアランだったが、どうやら魔王はそれも込みで俺達にダンジョンに潜らせるつもりのようだ。


 ダンジョンでは、倒したモンスターの素材が勝手にドロップされ拾うことが出来る。


 その中には肉もあるし、ダンジョンの中では野菜が取れたりもする。なんなら川からは水が取れるから、サバイバルにはうってつけなのだろう。


 ちなみに、このゲームの料理はバフや回復効果が着いており、ダンジョン攻略時は得た食材で料理をして回復アイテムを補充するなんて事もあった。


 空腹や乾きという概念はないものの、料理をちゃんとゲームに組み込んでいるのは開発側の中に食べ物が好きな人がいたからかもしれない。


 現実的に考えて、食材を食べるだけで回復するとか頭おかしいけどな。そこはゲームだからで納得できるが、今回は生命に関わるのでしっかりとやらないと酷いことになりそうである。


「サバイバルかぁ........1度もやった事ないかも。ノアは?」

「俺も無いよ。野営はサンシタ王国と戦った時にやったけど、みんなの手際が良すぎて手伝うのが逆に邪魔になっていたな」

「そんな事は無い。頑張ってなれないことをするノアに癒される人も多かった」

「フォローになってないよレオナ軍団長。結局邪魔にはなってたってことじゃん........」

「........済まない」

「アッハッハッハッハッ!!あの骸の王とは言えど、初めての事を完璧には出来ないってことだな!!まぁ、最初は好きにやってみるといい。アドバイスはそのあと求めてくれよな」


 一瞬、なんとも言えない空気が漂ったが、ザリウスの笑い声が全てを吹きとばす。


 流石はムードメーカー。空気が重たくなる瞬間を見逃さず、しっかりと雰囲気を明るくしてくれた。


 俺も返し方が不味かったな。最近仲良くなれてきた気がして気軽に言葉を返したが、まだまだレオナ相手には言葉を選ばないと難しそうだ。


「分かったよ。俺とアランで頑張ってみる」

「もし怪我をすることがあれば僕が治すから、小さな傷でも言うんだよ。小さな怪我でも、バイ菌が入って傷が悪化するなんて事もあるからね」

「そうするよ。できる限り怪我をしないようには気をつけるけど」

「ハッハッハ!!少しでも傷跡が残ったら、シスターマリア辺りに怒られそうだしな!!マジで頼むぞ。この前遊びに行った時、丁度悪さをした子供を叱っていたんだが滅茶苦茶怖かったからな........」


 魔王軍幹部とは言えど、シスターマリアが怒った時の姿は怖いらしい。


 あのザリウスがあの魔王軍の中でも勇ましく強いザリウスが、尻尾を下に下げるぐらいにはシスターマリアは怖いそうだ。


 俺も一度叱られた事があったけど、マジで怖かったからな。


 でも、その後に優しく褒められたのは嬉しかったよ。さすがは人気投票第三位。


 メインストーリーでも最初の方しか出てこないキャラなのに、数多くのファンを抱えるシスターマリアの破壊力は凄まじい。


「あ、あはは。シスターマリアが子供を叱る時は本当に、本当に怖いからね。あの魔王様ですら心做しかシスターマリアは怒らせないようにしている感じがあるし........」

「あー、僕も見たなぁ。あれは本当に怖かったよ。いや本当に。なんか、見えちゃいけないオーラが見えてた。子供の頃にあんな叱られ方したら、二度と悪さはできないよね」

「........あれは怖い。私でも軽く恐怖を覚えた」

「なんならガルエルもエリスもグリードもシスターマリアが子供を叱っている時は近づこうとしないからな........あれ?シスターマリアって魔王国の中で1番最強なんじゃ........」


 ブルっと身体を震わせながら、両手で自分を抱きしめるザリウス。


 気づいてしまったか。シスターマリアは、魔王国でも最強クラスに怒らせると怖いのだよ。


 俺達の間では常識である。間違っても口には出さないが。


「ダンジョン攻略が終わったらシスターマリアに言っておくね。ザリウスがシスターマリアの事を“魔王国最強”って言ってたって」

「ちょー!!ちょちょちょちょっと待て姫様!!本人に言うのは違うだろ?俺が殺されちまう!!このモフモフの毛並みを全て刈り取られた後、丸焼きにされて食われちまう!!」

「なるほど。ザリウスはシスターマリアの事をそんなふうに見てるんだ。これも報告しておかないとね。いやー、ザリウスも言うねぇ」

「流石のシスターマリアでもそこまではしないと思うけどね。でも、言った方が面白そうだし言っちゃおうかな」

「今のはザリウスさんが悪いね。僕は何も言ってないしザリウス1人だけの罪だよ」

「........ザリウス。さようなら」

「待て待て待て!!よーし分かった。ノア、アラン。ダンジョン攻略が終わったら好きなもん買ってやるから、それだけは許してくれ!!俺はあの黒いオーラを纏ったシスターマリアの前に立ちたくない!!」


 手をパン!!と合わせながら、割と本気で俺とアランに懇願するザリウス。


 どんだけシスターマリアの事が怖いんだよ。まるでオオカミに睨まれた小動物のようだ。


 しかも、ノリでやっているにしては反応がガチ過ぎる。恐らく、本当にシスターマリアを恐れているのだろう。


「なら、道具屋で色々と買ってもらおうかな。俺にはアイテムがいくつか必要だし」

「なら僕は本でも買ってもらおうかな。ほら、この前ノアが言ってた魔法の本」

「........あれ、けっこう高かっただろ」

「えへへ。こういう時はがめつく行かないとね。ほら、僕達の給料も大半は引越しに消えるし」


 お前本当に勇者か?人の弱みを握ってものを買わせるとか、やっている事が悪のソレじゃねぇか。


 まぁ、最初に煽ったのは俺だから人のことは言えないんだけどね。ノリで言ったらアイテムがタダで手に入るぜ。


「あのザリウスが少年二人にいいようにされちゃってる。どんな教育をしてるのレオナさん」

「私が直々に鍛えている部下だ。このぐらいはやってくれないとな」

「えぇ........なんでそんなに嬉しそうなの。レオナさんも相変わらず変わってるなぁ」


 こうして、俺達はダンジョン攻略後の楽しみを手に入れてから青いゲートが入口のダンジョンへと入るのであった。

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