保護者(過剰戦力)
ヘルオブエデンというゲームには、アランが主人公となって鬱な展開を進むメインストーリーと様々なキャラクターが主役となって物語を作るサブストーリーが存在する。
メインストーリーがクソすぎて何かと評価が低いこのゲームだが、サブストーリーの完成度は高くプレイヤーから“別のシナリオライターを雇った”と言われる程には人気が高いものとなっている。
中には“サブストーリーこそがメイン”と言う者まで現れており、事実メインストーリーよりもサブストーリーの方がしっかりとしていて誰でも楽しめる内容になっていた。
お陰で、サブストーリーの主役である魔王軍は人気が高いのだ。主人公サイドのサブストーリーも割と完成度が高くそれだけは結構人気があったりする。
そんな数多くあるサブストーリーの中には、魔王国に出現したダンジョンを攻略するというストーリーが用意されており、プレイヤーが普段は使えない魔王幹部を操作できるイベントも存在していた。
このゲームのダンジョンは、無限に湧き出てくるモンスターを倒して進む一種のローグライク形式のゲームとなっており、その力の入りようからダンジョンだけを永遠に周回する狂人が現れるほど。
○○のダンジョンRTAと言う攻略動画まで上がっており、その人気は凄まじい。
ちなみに余談だが、俺が今まで見てきた中で一番イカレていたRTAは“ノア上級単騎攻略RTA”だ。
あれはどう考えても頭がおかしい。運ゲーさせられる部分も多く、何回乱数の女神様に微笑んでもらえるかとか言う勝負をしているのだから。
最後の魔王戦まで世界記録レベルで走っていても、運が悪いと何回も一撃で殺されてタイムを大幅にロスする。
そんな運ゲー全開のRTAをやるとか、正気の沙汰では無い。
しかも何がやべぇって、1回走り切るのに最低6時間(世界記録)は掛かるんだぞ?ニートでもこんな苦行はやらねぇよ。
と、少し話が逸れたがこの世界のダンジョンは急にポンと現れて国に資源を搾り取られる可哀想な存在なのだ。
そして、今回もポンと急に街の近くにダンジョンが現れたので、レベルが足りていない俺達にレベリングをしてこいと魔王に言われたのである。
「ダンジョンか。僕は授業で潜ったことがあるけど、ノアはあるの?」
「無いな。魔王国に来てからずっと軍人としての訓練をしてきたし、俺はあまりにモンスターを倒す旨味がないんだよ。ほら、モンスターを何体か倒すと急に力が沸きあがる時があるだろ?俺はその力の沸き上がり方が低くて全然力が出ないんだ」
「あはは。だからノアは可愛いままなんだね。ほら、毎日筋トレとかしているのを見てるけど、全く筋肉が付いてないし」
「結構真面目に頑張ってるんだけどな........でも、成果はちゃんと出てたぞ。この前パンチの威力を測ったら、2から3に上がってたからな!!」
「凄いじゃん!!その調子で頑張れば、二桁は行けそうだね!!」
ドヤッと胸を張ると、アランは素直になれ俺の事を褒めてくれる。
いいね。魔王だったら“それでも弱いの。少女以下じゃ”って煽ってきてたよ。
友人のパンチ力が僅かに上がったことを純粋に褒めてくれるなんて、アランは良い奴だな。これぞ、光属性の勇者様である。
どこぞの闇属性のロリ魔王は分かってない。
「ちなみにアランの数値は幾つなんだ?昨日辺りにも測ってただろ」
「ん?僕は350ぐらいだったかな?まだまだ魔王軍の人達には遠く及ばないね。もっと強くならなきゃ。僕がノアを守るつもりだったのに、昨日の模擬戦もノアに守られながら戦っちゃったからね」
........うん。嫌味で言っている訳では無いのは分かっているが、煽りに聞こえるな。
自分で聞いておいてなんだが、この勇者様に人の心とかないんか?
100倍以上もの差があるとか、そりゃ毎回力比べをしたら押し倒される訳だよ。寝る前にじゃれている時とか、勝った試しがない。
なんなら、ココ最近はニーナにも負けそうになっている。
フィジカルよわよわなノアのステータス的に仕方が無いのだが、なんか悲しくなるな。
理論状レベル1でも魔王を倒せるネタキャラ故に、レベルを上げても大して強くならない。
悲しいことに、現実は非情である。
「くははははははっ!!何をそんなにしょんぼりとしておるのだ?妾が保護者を連れてきたと言うのに、暗い顔をしているではないか!!」
「魔王様には一生分からない悲しみに打ちひしがれているのさ........で、保護者を連れてきたのはいいけどあまりにも過剰戦力過ぎない?魔王軍幹部が三人も来てるじゃん」
「くははははははっ!!さっき、魔王軍幹部を集めて“保護者をやりたい人”と聞いたら、全員が手を挙げての。仕方がないからジャンケンをさせて勝った3人を連れてきたのじゃ。まぁ、過剰戦力と言えば過剰戦力じゃが、ダンジョンでは何があるのか分からんからの。一応念の為じゃ」
保護者として魔王が連れてきたのは、レオナとエルとザリウスの三人。
ぶっちゃけレオナ1人でも過剰戦力なのだが、それにプラスして二人も魔王軍幹部が来るとか暇なのか?
冬の間は平和とは聞いていたけど、暇すぎやろ。もっと真面目に働け。
「私は2人の上官。部下がダンジョンに行くなら、私も着いていく義務がある」
「なんか勝っちゃったので来たよ。よろしくねノア君、アラン君」
「ハッハッハ!!たった二人で6000もの軍勢を相手に勝ち越した期待の新人に三人は多すぎたな!!でも、いいんじゃないか?人が多ければ多いほど、楽しくなるじゃないか!!」
“上官だから”というのを強調して言うレオナと、勝つ気は無かったけど勝ってしまったので来たと言った感じのエル。そして“なんか楽しそうだから”というノリで来ているザリウス。
頼もしいが、頼もしすぎて緊張感が無くなるな。
たった一人でもダンジョンを攻略出来そうなメンツの中に放り込まれた俺達は、顔を見合わせると肩を竦める。
アランも魔王国で過ごす内に何となく魔王の性格はわかっている。
今ここで何か言ったとしても絶対に無駄だと分かっているのだ。
「という訳で、この三人がお主らの保護者としてダンジョンに一緒に潜ってもらう。ちゃんと言うことを聞くのだぞ?特にノアなんかは何をやらかすのかわかったものでは無いからの!!」
「魔王様にだけは言われたくないね。毎回毎回あちこちでイタズラしまくって、民に迷惑をかける王よりは俺はマシだと思っているよ。魔王様、もしかして自覚がないの?」
「もちろんある!!が、妾歯この国で一番偉いからの!!何をやっても許されるのじゃ!!」
一番タチの悪い王様が来ちゃったよ。
堂々と権力最高!!と遠回しに言う王とか最悪だな。
それでも彼女の後ろには人が並ぶ。それだけ、魔王という存在は大きく絶対的な象徴なのだろう。
でなければ、まず間違いなく反乱が起きている。毎日人々が笑顔で過ごせているのは、この魔王の手腕が凄いからなのは間違いない。
普段の言動を見ていると、絶対に認めたくないが。
「では言ってこい!!お主らの母には話を通しておくのでな!!二週間ぐらいミッチリと己を磨いてくるのだ!!」
「あー、魔王様。多分ニーナに物凄く嫌われるだろうから頑張ってね。じゃ、行ってきます」
「あ、確かに急に居なくなるからニーナは拗ねるだろうね。魔王様、ニーナの機嫌が滅茶苦茶悪くなったら魔王様のせいだよ」
「マジかよ魔王様最低だな。まだまだ兄貴に甘えたい年頃の少女から引き離すとか、悪魔の所業じゃねぇか」
「ニーナちゃん、確かに拗ねそうだね........」
「では、ご達者で」
「ファッ?!それは考えておらんかった!!ど、どうしたらニーナ嬢に怒られずに済むと思う?!」
自分で考えてどうぞ。
俺は、ニーナのケアを怠った魔王に背を向けると、渡された地図にを見ながらダンジョンへと向かうのであった。
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