レベルを上げてこい‼︎


 第四魔王軍との模擬戦争に勝利したという話は、あっと言う間に魔王軍内に広まった。


 たった二人で6000もの人数に勝ち越し、更にはその勝者が11歳の少年二人なのだから驚かない訳もない。


 しかも、その二人が今話題の骸の王と勇者ともなれば話題に上がらない方が無理であった。


「にぃに、凄かった。いっぱい骸骨出てた」

「あはは。こう見えても一応魔王軍の戦士だからな。多少の強さは必要だよ。と言うか、ニーナも見てたのか?」

「うん。魔王様が“今から面白い事をやるから見に来い”って言って、無理やり連れてこられた。お仕事を途中で放棄するのは気が引けたけど、メリーが許可してくれたから良かった」

「メリーさんにも感謝しないとな。可愛い妹にかっこいいところを見せられたんだから」


 魔王城へと向かう道。今日も今日とてごみ拾いをしながら、俺は兄の事を褒めてくれるニーナの頭を優しく撫でる。


 ニーナが魔王軍で働き始めてから数ヶ月。既に魔王軍に馴染んでいたニーナは、大勢の人々を虜にしながら仕事を頑張っていた。


 いつの間にかペットの鳥ができていたり、ニーナの“にゃ”で死人が出たりとかしていたが、ここまで明るいニーナが見られるだけで俺は嬉しい。


 髪の色を変えることもなければ、人間に恨みを持つことも無い。


 優しくていい子に育ってくれているようで何よりだ。


「僕はどうだった?」

「........骸骨に紛れてよく見えなかった。アランにぃ、地味」

「ゴフッ........結構活躍していたと思ったのに、ニーナに地味と言われるとは思ってなかった。僕もかなり頑張ったんだよ?何千人もの魔王軍の中に1人で突っ込んで暴れたのに」

「アッハッハッハッハッ!!アランの金髪よりも、金色に輝く骸骨の方が目立ってたって事だ!!良かったじゃないか。ちゃんと暗殺者として気配を消せていたって事だぜ?」

「むぅ。それはそうだけど........そういえば、ニーナも職業は暗殺者だったっけ?」

「そう。私の職業は暗殺者。腐った王政を覆す時、必ず現れる影の活躍者。かっこいい」


 暗殺者と聞いて、“腐った王をぶっ殺す”というセリフが真っ先に出てくる辺り、普段読んでいる本の影響を受けすぎている。


 本当に心配になるな。この前読んでいた本なんか、思想が強めの本だったぞ。


 軽く見せてもらったが、プロレタリア思想におけるなんちゃらかんちゃら〜という話があって何が何だか訳が分からなかった。


 プロレタリア思想って確か“資本主義社会をぶっ潰して社会主義を立てるために国際的団結をしましょう”とかそういうのじゃなかったっけ。


 政治思想とかはよく分からないが、少なくともニーナの読んでいた本が教育に悪いことはよく分かる。


 いつの日か“共産主義万歳!!”とか言って革命家にならないか、お兄ちゃん心配だよ。


「それじゃぁ、将来は暗殺者として魔王軍に入るのかな?エリスさんとかそういうの得意そうだもんね」

「いや、ニーナは司書として頑張るんだよ。暗殺者がカッコイイとは言っても、絶対に大変だぞ。基本一人で行動しないといけないし、過酷な環境の中じっと標的の隙を伺い続けるだけの忍耐力だって必要だ。相手を殺す技術も必要だし、何よりニーナは可愛すぎて目立つ。想像してみろよアラン。ニーナが敵国の中で目立たずに民衆に紛れ込めると思うか?この可愛さで」

「........無理だね。ニーナの可愛さに釣られたおバカさん達が大量にやってきて、絶対に騒ぎになる未来が見えるよ」

「だろう?可愛いは正義だなんて言葉もあるが、暗殺に限って言えば可愛いは悪だよ」

「大丈夫にぃに。その時は娼婦として潜入して、寝首を搔くから」


 ダメに決まってんだろ。何を言い出すんだこのロリっ子は。


 7歳の子供が娼婦とか言ってはなりません!!せめて、この世界では大人として認識される15歳からそういう言葉は使いなさい。


 娼婦そのものが悪い訳では無いが、さすがに子供の教育に悪すぎる。シスターマリア、なぜ村の教会にはあんなにも思想が強い本を並べてあるのですか。


 やはり、1度ニーナの思想を変えてしまわねば。まだ“お兄ちゃん大好き!!”と言って包丁を見せてくるヤンデレ妹の方が安心できる。


 革命家妹とかいう新たなジャンルを開拓し始めないで。ニーナは可愛いままでいてくれ。


 妹がこのまま行くと過激派思想系妹とかいう未知のジャンルのキャラになってしまうと危機感を抱いていると、どこからともなく魔王がやってくる。


 気軽に使えるはずでは無い転移を使ってやってきたんだろうな。そして、こういう時は絶対に面倒事を押し付けられそうである。


「のぅ、今の会話を聞いておったがお主、妹にどんな教育をしておるのだ?」

「放任してたらこうなった。嫌われてもいいから、お気に入りの本とか隠すべきだったなと後悔してる」


 やってくるやいなや、俺の腕を引っ張ってニーナから離れると耳元で囁く魔王。


 やっぱり、魔王もニーナがヤバいという事に危機感を持ち始めたようだ。ヤバイよね。プロレタリア思想の本を読む子供とか聞いた事ないよね。


「妾、暗殺されたりせぬよな?このままいくと、“魔王は悪!!平等なる富の分配こそが正義!!”とか言って妾の首を刈り取りに来そうなんじゃが........」

「ま、まぁ、それは大丈夫なんじゃない?ほら、なんやかんやニーナは魔王様の事を尊敬してるし。後、この国以外から見たら魔王は悪だよ」

「かぁー!!目の前に魔王がおると言うのに失礼じゃのぉ!!しかし、そんな不敬も許すのが王というものよ。どうじゃ?少しはニーナの好感度が上がったかの?」


 いや、俺に言っても意味ないだろうが。


 やはりちょっとポンコツだよなこの魔王。


 そこが面白い所ではあるんだけど。


「本人に聞こえてなきゃ意味ないし、最後のセリフで台無しだよ。で、何をしに来たの?ニーナを真っ当な道に進む為の道標でも作ってくれるの?」

「いや、既にあれば出来上がっておるじゃろ。どう足掻いてももう無理だと思うぞ?ノアには嫌われたくないだろうから大人しくはしていると思うがの。間違っても“王様暗殺者!!革命バンザイ!!”とか言うでないぞ。あのニーナ嬢ならやりかねん」

「やらないよ。当たり前でしょ。俺が魔王様の事が嫌いなわけじゃないんだよ」

「ん?ということは........」


 その言葉の先を期待する魔王。


 確かに魔王のことは好きだが、それは親愛なる好きでも異性としての好きでもない。


 ゲームキャラとしての好きだ。


 そして、この世界にいる魔王は好きよりも先に“ウザイ”が先に来る。


「好きでも無いよ?ただ、ウザイとは思ってる」

「泣くぞ?妾泣くぞ?魔王として君臨する妾が、みっともなく大声を上げながら泣きわめくぞ?」

「そういう所だよ。魔王様。で、話が進んでないけど?」

「おっとそうじゃった。先の模擬戦争で、お主達に足りないものが何かよく分かった事じゃろう。勝ってもなお、自らの問題点を探すその姿は流石じゃ」


 俺の問題点と言えば、やはり火力。しかし、これはキャラ性能の問題上解決できない話なので、別の手段が必要となる。


 装備条件とか無ければもう少し楽なんだけどなぁ........召喚したモンスターの性能を上げる装備が欲しいよ。


 アランの問題点と言えば、レベルが足りないことだろう。


 そして、魔王はそれを理解した上でこんな提案をしてきた。


「と、言うわけで強化合宿のコーナー!!最近出来たダンジョンにお主ら行ってこい!!もちろん、保護者付きでの!!」


 最近出来たダンジョン........保護者........あぁ、これ、サブストーリーにでてきた魔王軍ダンジョン攻略の奴か。時期的にも合うしな。


 メインストーリー君はお亡くなりになってしまったが、サブストーリー君は生きているんだな。


 俺はそう思いながら、アランのレベル上げイベントに少しだけワクワクするのであった。

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