最強コンビ
ノアの大きな弱点と言えば、圧倒的な個に対して有効的な打撃が無いという事だ。
その弱点を圧倒的な物量によって強引に押し潰しながら、相手の移動速度を下げつつ気合いで逃げると言うのがノアの戦い方なのだが、その弱点を埋められる存在が出てくると途端にノアは強くなる。
ネタキャラだのなんだの言われているノアではあるが、理論上最強の名は伊達ではない。
相手の中に戦況をたった一人で覆せる化け物が存在しない限りは圧倒的な物量で全てをねじ伏せることができるし、化け物が現れたとしてもその化け物を倒せるだけの力を持った存在が味方にいれば基本負けない。
ノアの単騎性能に目が行きがちだが、強い存在と組み合わせることでノアの真価は発揮されるのだ。
「そこまでじゃ!!勝者、ノア、アラン!!」
考えもなしに突っ込んでくるブロンズの部隊から全力で逃げつつ、一時も召喚を休まずに続ける事小一時間。
魔王の宣言によって、この模擬戦争は俺とアランの勝利によって幕を閉じる。
いやー、流石に疲れた。
常にブロンズの位置を正確に把握し続け迫り来る攻撃から逃れつつ、アランの動きを監視して必要になれば召喚しながらサポートする。
逃げ足だけは早いノアと言えど、ここまでのマルチタスクをやっていれば精神的にも肉体的にも疲れ果てる。
戦争が終わると同時に、俺は召喚したスケルトン達を消すとその場に倒れ込んだ。
「やった!!僕達の勝ちだよノア!!」
「あぁ、勝ったな........勝ったけど疲れた。っておい!!突っ込んでくるな!!」
あれほど戦場で動き回っては敵を暗殺し続けたアランだが、一切の疲れを見せず地面に座り込む俺に目掛けて飛び込んでくる。
残念ながら友人のハグは攻撃判定に入らなかったのか、
抱きついてきたアランを無理やり剥がす。
今回の模擬戦争のMVPはアランだから多少のことは許してやるが、疲れている今はやめてくれ。
「全部ノアの作戦通りに進んだね。全く。一応勇者としての職を持つ僕に暗殺者の真似事をさせるなんて、ノアも悪いね」
「嬉々として突っ込んで行った癖によく言うよ。楽しそうに暴れ回りやがって。お陰で俺はヘトヘトだ。勇者様のお守りもしなきゃならなかったんだからな」
「あはは。後ろからの攻撃とかをノアが防いでくれなかったら、僕も退場させられていたかもね。僕はノアみたいに見えない攻撃を避ける術を持ってないし」
なんやかんや避けていたとは思うけどな。
俺はそう言いたくなるとをぐっと我慢する。
俺達の作戦は簡単だ。
先ずは開始の合図とともにスケルトンを大量に召喚して視界を潰しつつ、相手が空から攻めてこられないように剣の雨を降らせる。
この時、本陣に攻撃をしなかったのは正解であった。
どうせブロンズ辺りが突っ込んで来るだろ。という予想は見事的中し、予想通りブロンズの部隊が先陣を切って来たのだから。
そこにアランを当てて止めさせる方法もあったのだが、それでは勝てないのは分かりきっている。
なので、アランには暗殺者の真似事をしてもらうことにした。
地上にいる時はスケルトンが視界を塞いでくれるので、アランや俺の姿が見えない。
更には森羅万象の杖でバフをかけたスケルトンはキラキラと光り輝くので、そちらに目が言ってしまうのは仕方がないことだろう。
アランは気配を消して大きく回り込みながら本陣へと近づくと同時に、本陣にもスケルトンを召喚。
これで混戦になった本陣に、アランまで突っ込ませれば完璧である。
後のことはフィーリング。
ノリと勢いでアランと上手く行動を合わせ、俺がスケルトンで作った道にそって優先的に排除する敵をアランに倒してもらうだけだ。
そこら辺の打ち合わせはしていなかったが、長年俺の友人をやっているだけあって離れていても意思の疎通は完璧。
アランは俺の思いどおりに動き、次から次へと各個撃破を繰り返して本陣の機能を停止させてしまったのである。
やっぱり主人公はすげぇな。正直な話、ここまで上手くいくとは思ってなかったぞ。
勝利を喜ぶアランの相手をしていると、空から魔王とレオナが降りてくる。
その顔は、とても楽しそうで満面の笑みであった。
「くははははははっ!!たった二人で第四魔王軍を殲滅してしまうとは、妾の予想が久々に外れたわ!!凄まじい連携と戦略じゃったの!!」
「模擬戦争だから勝てたんだけどね。本当の戦争なら、急所への一撃を食らわせたとしても即死しなくて耐えられた後捕まって終わりだよ。これはあくまでも模擬だからできた事。練習と本番では違うだろうね」
「そうだね。僕が軽く傷をつけただけでみんな退場してくれたから勝てたけど、確かにノアの言う通り死ぬ気で止められてたらどうしようも無かったね。もっと強くならなきゃ」
「くははははははっ!!勝っても浮かれず謙虚な姿勢を見せるとは、とても11の子供には見えぬな!!のぅ?レオナよ」
「よく頑張った。それでこそ私の部下だ。偉いぞ」
レオナはそう言うと、俺とアランを纏めて抱きしめた。
あのコミュ障なレオナがしっかりと上官をしている........だと?
普通に褒めてくれるしなんならハグのご褒美までしてくれたレオナ。が、その裏でニヤニヤとその様子を見ていた魔王を見て何となく察する。
“あ、これ魔王に言われてやってるな”と。
しかし、今回ばかりは許してやろう。レオナにハグされたのはもちろん、ここまで嬉しそうなレオナを見られたので俺は満足である。
「ありがとうございますレオナ軍団長。少しは部下らしくなってきたかな?」
「もちろんだ。2人ともよく頑張った。誇らしいぞ」
「あはは。そう言って貰えると嬉しいね。やったねノア」
これはあくまでも模擬戦。実際の戦争であれば、アランのレベルが足らずにこちらが負けていた事だろう。
だが、勝ったことは事実。
俺はレオナに褒められた事もアランと一緒に勝てたことも嬉しかった。
画面越しでしか見られなかった世界。そのストーリーも何もかもねじ曲げてやってきたこの未来は、俺が想像していたよりも楽しく面白いものである。
しばらくの間俺とアランを抱きしめていたレオナは、満足したのか静かに離れるとそのまま後ろを振り返って退場してしまった第四魔王軍の方にも向かう。
俺とアランはレオナ直属の部下だが、第四魔王軍もレオナの部下。声を掛けてあげるのは上官としての役目だろう。
問題は、“何負けてんだゴラ”と言わんばかりの圧が見えてしまっている事だが。
あれ、大丈夫?第四魔王軍の皆が萎縮しちゃわない?
「ふむ。少々興奮のし過ぎじゃの。アレでは部下を怖がらせるぞ?全く手のかかるやつめ。また自分の家でメソメソされても困るし、妾も行ってくるかの。ノア、アラン。よく頑張ったの。素直にお主らには驚かされた。これからも精進するようにな」
「分かってるよ。俺もアランもまだまだ弱いからね」
「頑張るよ」
「くははははははっ!!真面目すぎて面白くないのぉ!!少しは慢心してくれてもいいのじゃぞ?」
魔王はそう言って笑いながらレオナの後を追う。
残された俺達は顔を見合わせると、ニッと笑った。
「やったな。俺たちの勝ちだ。だが、まだまだ足りないモノも多い。これからも頑張らないと行けないぞ」
「そうだね。ノアの言う通り、もっと強くならなきゃね。でも、今日ぐらいは勝ち喜んでもいいんじゃないかな?」
「だな。お疲れ様。アラン」
「おつかれノア」
俺とアランは拳をコツンと合わせると、そのまま地面に仰向けに寝転がって雲ひとつない青空を見つめるのであった。
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