主人公コンビvs第四魔王軍
お互いの準備が終わり、魔王国で最も大きな訓練場に2つの陣営が対峙する。
片方は軍の半数以上にあたる約6000もの軍勢が足並みを揃えており、もう片方はたった二人だけが戦場に立つ。
「では今より模擬戦争を始める。あくまでも模擬なので、ある程度の傷を負った者は退場。速やかに医療班の治療を受けて戦線を離脱するように。退場が厳しいものは救護班が駆けつけて無理やり戦線を離脱させる。熱くなりすぎて国民同士での殺し合いを行う様なことがあれば、妾が直々にお仕置してやるから覚悟するのじゃぞ」
魔王は簡単なルールを説明すると、ついさっき掻き集めた医療班と救護班に視線を送る。
模擬戦争とは言えど、やっていることは戦争だ。
怪我人が出るのは仕方が無いが、死人を出す様な真似をしてはならない。
そのため、多くの者がこの模擬戦争の時は外で待機をしている。万が一の為にこの時ばかりは魔王も真面目になるのだ。
ピリついた訓練場。この戦争をたった二人で戦う少年達は何を見せてくれるのか。
魔王はノアとアランの戦いを楽しみに思いながらも、戦争の狼煙をあげる。
「では、戦争を始めよ!!間違っても相手を殺すなどという愚行を犯すでは無いぞ!!」
魔王が戦争の始まりを告げたその瞬間。訓練場を埋め尽くすほどのスケルトンが出現する。
運営という神に弄ばれたネタキャラノアの圧倒的な召喚魔法により、第四魔王軍の人数差はあっと言う間にひっくり返った。
「くはっ!!相変わらず馬鹿げた召喚速度じゃのぉ。一体どうやってあれだけの数を瞬きをする間もなく召喚できるのだ?」
「私と模擬戦をする時も、どんなに素早く近づこうとしても必ずスケルトンの壁に阻まれる。召喚速度という点においては、魔王国でノアの右に出るものはいない」
「全くじゃな。ところでレオナよ。お主はどちらが勝つと思うのじゃ?」
「それはもちろん、私の部下が勝つ。毎日しっかりと鍛え上げているから」
いや、一応今回戦っているのはどちらもレオナの部下だろうに。
魔王はそう思いつつも、無粋なツッコミは入れなかった。
ちなみに、魔王の見立てでは第四魔王軍側が勝つのではないかと予想している。
幾らノアとアランが規格外の存在と言えど、経験してきた戦場の数が違う。
ノアは1度しか経験しておらず、アランに至っては戦争という物を知らない。
切り札ともなり得るこの二人にとって、今最も大切なものは経験だ。
魔王はそれを理解した上で、今回の模擬戦争の開催を決定していたのである。
もちろん、“面白そう”“楽しそう”と言う自分の欲望も混ざっていたが。
大量に召喚されたスケルトンは、更にノアの持つ“森羅万象の杖”の武器スキルによって強化を受ける。
光り輝くスケルトン達はその圧倒的な物量で第四魔王軍を飲み込もうとするものの、第四魔王軍はそれで倒れるほど甘くはない。
「突撃ぃぃぃぃぃぃ!!」
遠く離れた魔王の耳にまで届くその叫び。
第四魔王軍の中でもレオナに次ぐレベルの強者であるブロンズが声を張り上げると、強化されたスケルトン達をなぎ倒しながらノアのいる場所まで一直線に走り始める。
更には魔法部隊の火力支援。
魔王が聞いていた作戦通りにブロンズ達は動き始めたのだ。
「ふむ。所詮はスケルトンという所かの。面白いようにスケルトンが粉々にされておる」
「魔法部隊の支援も的確。流石の練度」
「さて、ノアはどうするつもりかの?勇者で受けるのか、それとも別の手を取るのか」
魔王がそういった矢先、ノアの次なる一手が繰り出される。
なんとノアはアランを使ってブロンズ達を止めるのではなく、逃げに徹する事にしたのだ。
魔法部隊に向かって空から剣の雨を降らせ、真っ直ぐ突っ込んでくるブロンズ達の死角に上手く入りながら右翼へと逃げる。
正面戦闘はできる限り避けながら、ノアは時間を稼ぐ一手を取ったのだ。
更には、ブロンズ達が突撃を始めた事により戦力が減った本陣にも大量のスケルトンを召喚。
第四魔王軍の頭脳であるミャルまでもを戦闘に巻き込むことで、戦場に更なる混乱を生み出させる。
「ほう。ノアは第四魔王軍の心臓がどこにあるのか理解しているようじゃの。あえて最初から本陣にも攻撃を加えるのではなく、少しでも戦力が減ってから攻撃を開始する。よく考えておるの」
「ノアはかなり真面目。暇な時間に第四魔王軍の基本陣形や作戦資料に一通り目を通していた。そして、その作戦のほとんどを指揮していたのはミャル。勉強の成果が出てる」
「そうじゃの。しかも、逃げに徹されるからやりづらい事この上ない。いやらしい戦い方じゃ」
一気に本陣が混戦と化す。が、第四魔王軍はそれでも冷静にスケルトンの対処を始めていた。
現場慣れをしている彼らにとって、本陣への奇襲は日常茶飯事。
無限に送られ続けるとは言えど、この程度の戦力であれば対処そのものはできるのだ。
そう。本陣に攻め込むのが
模擬戦争が始まったその瞬間から気配を消し、圧倒的なスケルトンの数によって相手の視界を奪い魔王の目すらも欺いたノアの最終兵器、アランがスケルトン立ちに紛れて直接本陣に乗り込んで来たのだ。
スケルトンの攻撃は弱くとも、勇者の一撃は鍛え上げられた魔人族の者でも手痛い。
圧倒的なレベル差があるにもかかわらず、奇襲による攻撃ボーナスを獲得していたアランは次々に第四魔王軍の面々に攻撃を加えて戦線を離脱させる。
これが本当の戦争ならば、第四魔王軍の面々もなんとしてでも食らいついただろう。
しかし、これはあくまでも模擬戦。
明らかな急所に軽く傷を付けられた時点で彼らは死人と化すのだ。
「はい。ミャル代理軍団長、始末完了」
「にゃ?!いつの間に居たんだにゃ?!」
ミャル、退場。
的確に指示を出して本陣に沸いたスケルトンに意識を向けすぎたミャルは、アランの接近に気づくことが出来なかった。
「あはは。僕を暗殺者として使うだなんて、ノアも面白いことを考えるね。本当の戦場ならこうも行かないだろうけど、模擬戦であればこれで相手は退場になるんだから」
「見つけたぞアラン!!好き勝手に暴れ回りやがって!!」
アランが暴れる中、その動きを止めようとスケルトン達をなぎ払いやってきたシャード。
レベル的にはシャードの方が圧倒的に有利であるが、主人公と理論上最強の組み合わせを前に立ち向かうのは少々無理があった。
短剣を振り下ろそうとするシャード。しかし、常にアランの動きを見ていたノアがアランのサポートをする。
近くにいたスケルトンの視界を通じて召喚されるは、スケルトン。
召喚されたスケルトンはアランの盾となり、更には攻撃に意識が向いたシャードへ近くにいたスケルトン達が攻撃を加える。
目の前にスケルトンを召喚されたシャードはスケルトンを素早く壊すが、その動き1つが大きな隙となる。
シャードはスケルトンに殴られ、目を一瞬離してしまい見失ったアランに急所である首筋に軽い傷を付けられた。
「これで死亡かな?」
「マジかよ........」
森羅万象の杖によって光り輝くスケルトン達は闇を生み出す。アランはその闇の中を素早く立ち回り、次から次へと第四魔王軍の面々を暗殺。
気づけば、その殆どがアランの手によって暗殺され、残ったもの達はスケルトンの物量に押しつぶされて退場していく。
「くはは。つくづく妾の予想を超える男じゃの。戦争を教えるつもりが、教えられるとは久々に出し抜かれたのぉ。兵の動かし方が上手すぎる」
「ノア、アラン。頑張れ!!」
小さな声で自分の部下を応援するレオナを見ながら、規格外にも程があるノアとアランに乾いた笑いを浮かべる魔王であった。
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