作戦会議


 ミャルの悲痛な叫びから始まった第四魔王軍vs俺とアランの模擬戦争。


“自分が見て見たいから”“面白そうだから”と言う理由で開かれることとなったこの模擬戦争ではあるが、俺とアランがどこまで戦えるのかを確かめるいい機会になるのは間違いなかった。


 魔王め。微妙に断りづらい提案をしてきやがって。


 レオナも結構乗り気であり、参加こそしないものの審判役として見守るという事で落ち着いた。


 流石にレオナ軍団長が参加してしまっては、あっという間に戦いが終わってしまう。


 特に俺とアランチームに組ませても絶対暴れるし、第四魔王軍側に組ませても暴れてしまう。


 魔王軍幹部として軍を纏めるレオナの力は半端ではない。あの復讐に燃えていた頃のアランパーティーすらも、壊滅状態に追いやる程のゴリゴリの武闘派なのだから。


「全く。アランのせいで更に面倒事になっちまったな。見ろよ。ミャル代理軍団長のあの顔。マジでやる気だぞ」

「あはは........相当気合いが入っているね。これは僕も本気でやらないと不味そうだよ」

「間違っても殺すなよ?」

「分かってる。あくまでも模擬戦だからね。そこら辺は弁えているよ。とは言えど、怪我人は出てきちゃうだろうけどね」


 ここは魔王城の中でも最も大きな訓練場。


 軍の連携や陣形を確かめるために使われる場所であり、年に数回程このような軍の模擬戦争に使われる。


 この訓練場も円卓会議場と同じく、基本的にイベントの時に使われることの方が多いのだが、今回はまともな使われ方をしているな。


 あまりに広すぎるがために魔王城からかなり離れた場所の訓練場なのだが、一応魔王城の敷地内という扱いをされている。


 ちなみに、昨日開催された“第二回、猫型の魔人族の気持ちを知ろう!!”のイベントはここで行われていた。


 たった一日で全ての設備を回収して普段通りの訓練場に戻せるとか、相変わらず手際が良すぎる。


 イベント事になるとどうして魔王国は行動が早くなるのだろうか。


 俺が戦争で活躍した時も、たった数時間で滅茶苦茶綺麗な飾り付けとか施されていたしな。


「くははははははっ!!ミャルはやる気満々のようだの!!これはかなり本気で来るとみた!!あまり油断していると、一気に勝負を着けられるぞ?何せ、我が国を守ってきた精鋭達だ。模擬とは言えど、戦場に立てば凄まじい戦士へと彼らは姿を変えるのでな!!」

「元々油断する気なんてないよ。ミャル代理軍団長の顔がマジ過ぎて、誰もふざけられるような状況じゃないだろうしね。と言うか、ミャル代理軍団長に皆軽く怯えてそうだよ」

「くはは!!全くじゃの!!何せ、可愛い妹の為ならば、妾にも暴言を吐きかける様なやつじゃ。自分のアイデンティティの為ならば、どんな手を使ってでも勝ちに来ると思うぞ?」

「レオナ軍団長が居てくれたら、一瞬で終わるんだろうけどなぁ........アランもまだまだ弱いから、今回はかなりの激戦になりそうだ」

「む、僕が弱いだなんて失礼な。僕はノアを守る勇者だよ?何がなんでも守ってあげるよ“姫様”」

「言ってろポンコツ勇者。興奮しすぎて1人で突っ込むなよ?俺の召喚似合わせて動け。あとは自由に暴れろ。いいな?」

「もちろん。僕はノアの手となり足となってあげる。だから、必ず勝つよ」


 スッと目からハイライトが消えるアラン。


 普段は“ノアノア”と言って少年のように綺麗な目をしているが、こいつは昔から本気で負けたくない勝負をする時は目からハイライトが消える。


 いいねぇ。やる気満々だ。


 相手は精鋭の第四魔王軍。俺も殺す気でやらせてもらうとしよう。


 俺は鼻から大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出して体をリラックスさせる。


 必要な情報以外はシャットアウト。隣でロリ魔王が何か言ってようが聞こえなくなるぐらいまで集中力を高める。


「くはは。良き目をするのぉ。お主らは一端の戦士じゃ。応援しておるから、頑張るのじゃぞ」

「俺の戦い方は向こうを分かっているはず。掻き乱すぞアラン」

「了解。僕とノアの本気を見せてあげよう」

「くはは。全く聞こえておらぬ。凄まじい集中力じゃの」


 模擬とは言え、何気に魔王軍そのものと戦うのは初めてだな。


 ゲームの中では苦戦させられた魔王軍とのガチ戦闘。俺は、巻き上がる興奮を抑えながら、静かに開始の合図を待つのであった。




【大規模訓練場】

 各軍に与えられた訓練場の何倍もある滅茶苦茶広い訓練場。規範的に軍同士の模擬戦などに使われる目的で作られたが、なんやかんやイベント会場になることの方が圧倒的に多い。大規模訓練場くんは怒ってもいい。




 ノアとアランが本気になった姿を見た魔王は、次に第四魔王軍の方へと足を運んだ。


 あの二人はかなり似ている。性格云々の話ではなく、2人とも本気になると目から光が消えて一切の油断もなく極限の集中状態へと入るのだ。


 その姿を見ただけで、ノアとアランがいかに優れた兵士だということが分かるだろう。


 適度な集中力を保ち続けて戦うのではなく、常に限界維持し続けるその根性。


 魔王からすれば、かなり好ましい戦士の姿であった。


「んで、こっちはこっちで面白いことになっておるのぉ........」


 第四魔王軍側の陣営にやってくると、そこではガチガチの会議が始まっていた。


 長いこと軍人として生活してきた彼らは、規則正しく動く歯車。


 相手の行動を的確に把握しつつ、その弱点を探って相手に致命的な一撃を食らわせに行く。


 全てをアドリブで戦うつもりのノア達とはあまりにも対照的だ。


「ノアは間違いなく最初にスケルトン達を展開してくるにゃる。となれば、広く広がるよりも一点突破の方が効率的にゃるな」

「だな。先陣は俺たちの部隊が行こう。突破力並ば俺たちの横に並ぶものはレオナ軍団長を除いて存在しない」

「さらに、突破する時には魔法部隊による援護も必要にゃ。無限に湧き出てくるスケルトンを広範囲の遠距離攻撃で爆撃していくにゃ」

「了解。アランはどうする?」

「アランは間違いなく突撃してくる私達の頭を抑えに来るにゃ。ブロンズはアランがほかの戦場に行けないように釘付けにしつつ、ほかの舞台は横に展開して突き進むのにゃ」

「あれ?それは俺が生贄になるのでは?」

「生贄になってこい。でないと、本当にあることないこと吹き込むにゃるからな?」

「はいはい。分かりましたよ」


 ブロンズは肩を竦めて返事をすると、駒を動かす。


 ノアのスケルトン軍に見たてられた兵士ポーンが倒れ、アランに見立てたキングの駒の前に置いた。


「ノアは確かに強いにゃるけれども、全体的な練度で言えば私たちの方が上にゃる。強引にねじ伏せつつ、纏まった戦力で動けばノアは対処に困るはずにゃ。空から降ってくる剣に関しては、皆が注意しながら戦うにゃる。狙撃部隊は、隙を見ながらノアを打ち取る機会を狙うのと同時に、アランも叩き潰すにゃ」

「了解。所詮はスケルトンが相手だからな。それ自体は何とかなると思うぜ」

「俺達は奇襲部隊として動くから、援護ができないものだと考えてくれよ?」

「分かっているにゃる。後は、囲んでタコ殴りにして終わりにゃ。もし、何らかのトラブルがあった場合は即時報告をするにゃる。その場で私が指示を出して対応するにゃる。本陣には常に防御力を張っておくことも忘れないようににゃ」


 どのように攻めていくのかを話し合ったミャルたちは、ここでようやく魔王の存在に気づく。


 ちょっと放置されて寂しかった魔王は“ようやく話せる”と胸を張って第四魔王軍を鼓舞した。


「うむ。実に良い作戦会議であった。それでは、健闘を祈るぞ」

「ありがとうございます魔王様」

「ちなみに負けた方には罰ゲームさせるつもりじゃから、本気で頑張るのじゃぞー」


 魔王はそう言うと、この模擬戦争の行く末を楽しみに見守るのであった。

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