模擬戦争


 ブラット兄さんやシスターマリアに“アランとニーナには激甘”と言う評価をされてしまった俺は、日課のごみ拾いをしながら魔王城へと向かう。


 その道中で“姫様姫様”と呼ばれるのはいつもの事なので気にしていないが、たまに“にゃ”を弄ってくる人が現れるのは勘弁して欲しかった。


 二度とやらねぇからな。今度は空気とか読まずに絶対に拒否してやる。


 そんなことを思いながら第四魔王軍の訓練場へとやってくると、早速ミャルが泣きそうな顔で俺に駆け寄ってきた。


 うわぁ、絶対面倒な話を持ってきたよこれ。もう帰っていいかな?


「にゃぁぁぁぁぁぁぁ!!ノア!!お前、やっぱり私からキャラを奪うつもりにゃろ!!」

「だから、そんなつもりは無いって」

「だって!!だってぇ!!皆が“無理してキャラとか作らなくていいよ”とか“ミャル代理軍団長、今までお疲れ様でした”とか言ってくるにゃるよ!!酷くない?!私、あんなに頑張ってキャラを定着させていたのに、みんな酷くない?!」


 俺のところに来るなり、ポカポカと俺を殴りながら(痛くない)泣き出すミャル。


 うーん。デジャブ。


 以前も俺が“にゃ”をやったら同じような事になってミャルが泣いていた気がする。


 あの時はそこまでミャルに何か言う人はいなかったが、今回は第四魔王軍の面々がミャルに色々と言ってしまっているようだ。


「アラン。お前のせいだぞ何とかしろ」

「あ、あはは。流石にミャル代理軍団長の事は考えてなかったね。どうしよう」

「ぐすん。正直年齢的にキツイかなと思いながらも頑張ってるのにぃ........!!どうして毎回、私だけこんな不条理を味合わされなければならないのにゃ!!」


 ついにはガチ泣きし始めるミャルに、苦笑いを浮かべることしか出来ない俺とアラン。


 俺はどちらかと言えば巻き込まれた側なのだが、アランはガッツリ今回のイベントを企画した側の人間だ。


 アランも“これはやってしまったかも”という顔をしながら、どう対応したらいいか分からず困ってしまっている。


「お?朝から鳴き声が聞こえると思ったら、ミャル代理軍団長が号泣してるな。何があったんだ?」

「あー、昨日のイベントで俺にキャラを奪われたって嘆いてる」

「あぁ、いつもの事か」


 ミャルの泣き声に釣られてやってきたのか、ブロンズが顔を出す。


 俺の説明で大体のことを察したのか、ブロンズはニッと笑うとミャル背中を撫でながらアランを指さした。


「全ての元凶は可愛いお姫様の隣で苦笑いを浮かべている勇者様のせいだ。ミャル代理軍団長。あんな悪しき勇者は我々魔王軍の者達で倒してしまいましょう!!次いでに、なんかノアも悪そうだからノアも倒してしまいましょう!!」

「は?なんで俺まで巻き込んでんだ──────」


 何しれっと俺までアランと同じ側に立たせてんだと思い抗議しようとするよりも早く、この現場を見ていた第四魔王軍の兵士のひとりが野次を飛ばす。


 しかも、滅茶苦茶棒読みで。


「そうだそうだー(棒)姫様が可愛すぎるのが行けないんだー(棒)」

「「「「「そうだそうだー(棒)」」」」」


 全く感情が篭っていない抗議。


 読み聞かせが下手な子供ですらもう少し感情の籠った声を上げるだろう。


 しかし、冷静な判断ができないミャルは魔の手に陥りブロンズの言葉を真に受けてしまう。


 普段は賢く頼もしい代理軍団長なのだが、彼女はメンタルが弱くなると信じたいものを一方的に信じる癖があった。


「そ、そうにゃるな!!ノアとアランが悪いにゃる!!第四魔王軍の諸君!!この私から大事なアイデンティティを持ち去ろうとする悪を許していいにゃるか?!」

「「「「「........否!!」」」」」

「私がガチ凹みして号泣しててもいいにゃるか?!」

「「「「「い........否!!」」」」」

「私だって可愛いにゃるよね?!」


 ん?なんか最後の違うくね?


「「「「「否!!」」」」」


 そしてこういう時だけ即答をする第四魔王軍。


 迷いなく“否”と言い切った仲間たちを見て、ついにミャルはブチ切れた。


「おいコラ、ノリで適当言ってんじゃねぇぞ!!このクソバカどもがぁぁぁぁぁ!!」

「やべ、ミャル代理軍団長が怒った!!みんな逃げるぞ!!」


 最も近くで“否”と答えたブロンズが背中を向けて全力で走り始めると、それを追う形でミャルも走り始める。


 本当に朝から騒がしい連中だ。まだ午前10時半ですよ?今どきの小学生だってもう少し大人しいよ。


 追いかけっこが始まった訓練場。余りにも五月蝿すぎて思わず耳を塞いでしまいたく思っていると、さらに面倒なやつがやって来る。


「くははははははっ!!中々面白いことになっているではないか!!一体何があったのだ?」

「見ての通り、ミャル代理軍団長が部下達をシバいている」

「いや、その過程のことを聞いておったのだが........まぁ良い。大体の事は聞こえておったしの!!なんでも、第四魔王軍相手に姫と勇者が戦うのだとか?」

「仕事のし過ぎで幻聴が聞こえるようになったんだな。今日は休んで下さい魔王様」

「いやいや、妾はこの耳ではっきりと聞いたぞ?のぅ?アランよ」


 アランはどう答えようか少し悩み、ちらりと俺を見る。


 正直に言ったら怒るぞという意味を込めて軽く首を横に振ると、アランは俺の味方をしてくれた。


「魔王様、昨日のイベントの主催で疲れているんですよ。そんな事誰も言っていませんよ」

「勇者ともあろうものが買収された........!!妾たちの友情はどうしたのじゃ?!」

「ノアの方が大事なので」

「かぁー!!姫に唆された勇者は使い物にならぬのぉ!!ま、それはさて置き、今さっき面白いことが聞こえたのでな。妾がその話を実現させてやろうではないか。のう?レオナ。隠れてないで出てこい」

「........隠れているつもりは無い」


 いつから居たのか、魔王に呼ばれたレオナが物陰から姿を表す。


 多分、話しかけるタイミングを見計らっていたんだろうなぁ........そして、最初の話題は間違いなく天気だ。


「いい天気だな。ノア、アラン」


 ほらね。


 会話の始まりはいつも天気の話。もう少し会話の引き出しを多くしてもらいたいが、これはこれでレオナらしさが出ているので俺は何も言わない。


 俺もアランもレオナに挨拶を返すと、魔王が本題に戻る。


「ノアよ。お主が第四魔王軍と戦い、どこまで行けるか見て見たくはないか?アランと一緒ならば、連携を磨く必要もあるじゃろ?」

「........つまり、アランと俺で第四魔王軍と戦って、連携力を身につける訓練をしてみたらどうだって事?」

「くはは。簡単に言えばそうじゃの。年に1、2回程度、軍同士の戦いをやることがあるのじゃ。ノアはどう考えてもバランスブレイカーなのじゃから、こんぐらいのハンデの中で戦ってみるのも悪くなかろう。レオナ、お主はどう思う?」

「悪くない提案。ノアとアランがどこまで戦えるのかを知ることで、戦術の幅は増える」

「という訳じゃ。単純に面白そうだからと言うのもあるが、自分たちの今の力を試してみてはどうじゃ?ミャルのストレス発散にもなるじゃろうしのぉ」


 一見ふざけているように見えて、真面目に物事を考えている。


 恐らく半分ぐらいは“自分が見て見たいから”と言う理由なのだろうが、それでも俺とアランがどこまで戦えるのかは試してみたかった。


「どうするアラン?」

「やってみようよノア。僕達の力がどこまで通用するのか、どこまで行けるのか試すいい機会だよ」

「ならやって見るか。最近“姫様”呼びしかしてくれない第四魔王軍の連中に、王の名前を思い出させてやろう」


 俺はそう言うと、アランと共に第四魔王軍と模擬の戦争をすることとなったのであった。

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