懲りた(懲りてない)
まさか、アランのやつが俺に“にゃ”を言わせる為だけにここまで壮大な計画を立てて来るとは思わなかった。
俺の黒歴史の一つである“伝説のにゃ”事件。
レオナ軍団長の代わりを務めるミャルの溺愛する妹の病状が悪化した為に、俺が魔王の悪ノリに当てられてやったものではあるのだが........まさかアランが本気でこれを見たさに魔王城でバカでかいイベントを開くとは誰が予想出来ただろうか。
しかも、あのバカは魔王まで巻き込んで暴れたものだから逃げるに逃げられない。
もしもーしアランくん?君、俺の勇者になってあげるとか言いながら、護衛対象を困らせてどうするんだよ。
普段は凛としてイケメンなアランなのだが、どうも性格が変わった事による影響で1度暴走を始めると燃料が切れるまで走り続けてしまうらしい。
そこに巨大な壁があったとしても、アランはその壁をぶち壊して進むのだ。
結果、“第2回、猫型の魔人族の気持ちを知ろう!!”の回が開かれ、そのメインイベントとしてどれだけ破壊力のある“にゃ”を言えるのかを競う大会が開かれてしまったのである。
馬鹿かな?
たった一人の男に“にゃ”を言わせる為だけにここまで大掛かりなことをされてしまっては、俺だってやらざるを得ない。
しかも、街を丸ごと巻き込んでのお祭り騒ぎだったので街のみんなにも俺の“にゃ”を見られてしまっていたとなれば自殺するしかない。
ニーナの嫌々やっていた“にゃ”を見れたのは素晴らしかったが。
原作で“性癖クラッシャー”と言われていたエルも参加し、かなりの人な性癖をぶち壊していたのはもちろん、魔王軍幹部の者達も強制的に参加させられていたのは面白かった。
レオナの“にゃ”とか可愛すぎて尊死しそうだったね。
んで、何故か大トリを任せられる俺。
その後、無事(無事では無い)優勝を果たした俺は、その日一日アランに口を聞かなかった。
何を話しかけてきても全部シカト。
半泣きになりながら“ごめぇんのあぁ........”と言ってくるアランは、友人との距離を間違えてしまった少年のようで可愛かった。が、反省させるためにその日はニーナに構いっぱなし。
ニーナも流石にアランの事が不憫に思ったのか、珍しくアランにも優しかったね。
「ふふっ、ノアくんがあんなに多くの人達を虜にできるとは思いませんでした。村の皆さんも、普段見られないノアくんの一面に興奮していましたよ」
「本当に辞めて。シスターマリア。昨日の記憶は永久に消し去りたいから」
「ふふふっ、ノアくんも恥ずかしがってかおが赤くなる事があるんですね。普段は大人びている分、とても新鮮で楽しいですよ。昔から真面目な子でしたから、こうして元気なノアくんが見られて私は嬉しいです」
辞めてと言っているのにナチュラルに人の傷をエグってくるシスターマリア。
街を巻き込んでのイベントだったので、もちろんシスターマリアや村の皆も俺が大会に出た(強制参加)ことは知っているし見ている。
村にいた頃の俺の真面目なイメージはどこへやら。今となっては、ただの少年として大人達に可愛がられていた。
「ハッハッハ!!あのノアがあそこまでノリノリでやるなんてな。俺も魔王軍に入ったらあんな事をやらされるのか?ちょっと入隊するかどうか悩むぞ」
「是非入ろうブラット兄さん。暖かくて楽しい職場だよ」
「お前が言うと道連れが欲しいだけに聞こえるが、俺の気の所為か?」
「気の所為だよ!!決してブラット兄さんも恥ずかしい目にあってくれないかなとか思ってないから」
「ハッハッハ!!コノヤロー、兄貴分に向かって生意気だぞ?」
そう言いながら、俺の頭をグリグリとするブラット兄さん。
しかし、全く力は入れていないので痛くない。
ただ、単純に俺とじゃれているだけであった。
ブラット兄さんはこの冬が開けたら魔王軍に入る。聞いた話では新兵は魔王に振り回されるらしいので、是非とも俺と同じ目に会って欲しい。
そして、俺と同じ苦しみを味わうのだ!!
「おはよう。にぃに。起きるの早い。いつの間に抜け出したの?」
「おはようニーナ。毎日2人に抱き枕代わりにされるからな。嫌でも抜け出す術は身に付くさ」
「むぅ、今度からもっとしっかり抱きしめる。そうすれば逃げられない」
「カァ」
「アハハ。勘弁してくれよニーナ。夜中にトイレに行きたくても行けなくなっちまう」
可愛らしく頬を膨らましながら俺のトイレを邪魔する宣言をするニーナの頭を優しく撫でると、ニーナは目を細めながら嬉しそうに顔を綻ばせる。
昨日の“にゃ”をしていた時はくそ嫌そうな顔をしていたが、どうやらご機嫌が戻ったようだ。
隣で羽をバサバサとしながら“おはよう”と表現してくるトリちゃん(君かもしれない)も、元気そうでなによりである。
「アランは?」
「アランにぃは昨日の事を思い出してニヤニヤしてた。普通に気持ち悪い」
「それは気持ち悪いな。今日から一緒に寝るのは辞めるか」
「ちょ、ニーナ?サラッと嘘をつくのは辞めて欲しいかな。一緒に起きてきたって言ってよ」
ニーナのデマを本気で信じそうになっていた俺を見て、口を挟んでくるアラン。
どうやら昨日口を聞かなかったのがかなり効いていたのか、少しだけ気まづそうであった。
全く、そんなに反省しているなら最初からやるなよ。
まぁ、“やれるもんならやってみな”と煽った俺も悪いっちゃ悪いんだけどさ。
「お、おはようノア」
「おはようアラン。少しは反省したか?」
今日ももしかしたら口を聞いてくれないと思っていたのか、俺の返事を聞いたアランはパァと顔を輝かせると俺に抱きつく。
しかも、半泣きで。
これが世界を救う主人公の姿か?完全に喧嘩した友人と仲直り出来て感極まるただの少年だ。
魔王が“愚者に成り上がる”と言った意味がよく分かる。アランは人々の期待を背負う勇者から少年に戻ったのだ。
俺は胸の中で涙を浮かべるアランに呆れながら頭を撫でてやる。
「はぁ、これに懲りたらもう馬鹿なマネはやるなよ?今度やったら本当に口を聞いてやらないからな」
「懲りた。けど、ノアの可愛い姿は見たい」
懲りてねぇぞこいつ。
次やったら本当に口を聞かないと言っているのに、時と場合によってはまだやると言っている。
守るべきものを困らせる英雄とか救いようがないな。
「ハッハッハ!!あのアランがノアにベッタリだな!!ニーナが2人に増えたみたいだぜ」
「私はアランにぃみたいに、にぃにを困らせたりしない」
「いや、普通に困らせてただろ........一緒に寝たいとか遊びたいとか我儘を言ってな。子供だから甘えるのはいいが、限度はあるぜ?適度にやらないとノアに嫌われちまうぞ」
「む........それは困る」
「まぁ、なんやかんやノアはニーナとアランには激甘だから、何をやっても許してくれそうではあるがな........そうだ。ニーナも魔王様に頼んでみたらどうだ?アランと同じ事をやってもノアなら行けるだろ」
ブラット兄さん?ニーナになんて事を吹き込んでんだ。
そんなことを言ったら........
「........それは名案!!私も魔王様にお願いしてくる!!行こう!!トリ!!」
「カァ!!」
ほら、ニーナが暴走し始めた。
ニーナもアランも意外とこういう所が似てるんだよ。
「おいコラまてニーナ。もしやったら、アランと同じように口を聞いてやらないからな。シスターマリアも見てないで何か言ってくださいよ」
「ふふっ、みんな仲良しでいいですね。私が夢見た世界ですよ」
「シスターマリア?貴方までそっち側に行かないでよ!!」
おかしい。なんで俺がツッコミ側に回っているのだ。
俺は、忙しい朝を過ごしながらもこんな日が続くことを願うのであった。
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