勇者大暴走


 アランが魔王国に来てから三週間程の月日がたったある日。アランは、第四魔王軍の面々と上手く馴染みながら楽しい毎日を過ごしていた。


 どこぞのネタキャラに性格を変えられた主人公は、原作とは違い優しい口調でできる限り分かりやすく話す。


 ノアと共にいる時は悪戯心が出て少し口が悪くなってしまう事もあるが、普段のアランは相当な常識人なのだ。


「“にゃ”?その言葉、何度か聞いたけど結局なんの事なの?ノアに聞いても教えてくれないし、よく知らないや」

「そう言えば、アランが来る前の話だったもんな。ミャル代理軍団長が頑張ってキャラ作りしているのは知っているだろう?ほら、語尾に“にゃ”をつけて話すやつ。丁度戦争に行く前日に、ミャル代理団長の妹の体調が悪くなってな。魔王様がノアを一日代理団長にしてやろうと計画したのが始まりだったんだ」

「........話を聞く度に王様とは思えない言動をしているね。魔王様は」

「最近は少し大人しいがな。どうせイタズラに精を出し過ぎて、仕事が滞ってるんだろ。で、それを怒られて仕事に追われているんだろうな。いつもの事さ」


 それは一国の王としてどうなんだ?とアランは心の中で思うものの、全く問題視しない魔王軍の面々を見て“この国ではこれが通常運転なんだな”と無理やり自分を納得させる。


 事実、この時期になると魔王のイタズラは減る傾向にあった。


 後先考えずにイタズラをしては時間を潰してしまうため、その皺寄せが冬の時期にやってくるのである。


 今、魔王は執務室に閉じ込められて財政管理の者と仲良く公務をしている事だろう。


 最早恒例行事となってしまっているので、財政管理の者も何も言わない。


 それが、魔王の冬なのであった。


「で、魔王様の悪ノリでノアがミャル代理軍団長の真似をする事になったんだが........意外にもノアがノリノリでそれをやってな。最後の全身全霊の“にゃ”を聞いた俺達は次々に倒れ、気付けば誰も仕事が出来なくなっちまったんだよ。お陰で戦場に向かう日が一日伸びた」

「えぇ........何やってるのノアは。と言うか、僕も見たいんだけど。ノア、可愛かった?」

「男も女も魅了する程に可愛かったぞ。普段から姫様なんて呼ばれているが、アレは次元が違ったな。しばらくの間はノアに“にゃ”をしてくれと頼み込むやつが増えたぜ。アレはちょっと面白かった」

「へー」


 アランはその時、自分もノアの“にゃ”を見てみたいと思った。


 魔王軍を支配するほどのあざとい“にゃ”。そんな親友の一面を見られないだなんて、親友としての意味が無い。


 ノアならばきっと頼み込めばやってくれるはず!!


 ということで、アランは早速模擬戦をしていたノアにお願いしてみる事にした。


「お願いノア!!“伝説のにゃ”をやって!!」

「嫌だよ。アレは俺の中でもトップクラスの黒歴史だ。二度とやらないね」

「そこをなんとか........!!ほら、親友の好でね?」

「幾らアランの頼みだとしてもやらんもんはやらん。どうしても見たければ、そうせざるを得ない状況でも作るんだな。そしたら、やってやるよ」


 ノアはなんやかんやノリがいい。アランと遊んでいた時もかなりテンションを合わせてくれていたし、魔王軍の人達からノアの話を聞くとノリがいいことがよくわかる。


 ノアは基本的にその場の空気を壊すことはしない。昔からの付き合いでそれが分かっているアランは、ノアの挑発に即座に乗った。


「わかった。ノアがそうせざるを得ない状況を作ってくる!!」

「は?え、ちょ、アラン?冗談だったんだが........って、早っ!!」


 絶対に守るべき親友の可愛い姿。ノアに依存気味なアランにとって、その姿を見ない訳には行かない。


 普段は大人しく、勇者らしい行動を心掛けているアランであるが、彼はとても残念な事にノアが絡むと大暴走するのである。


 それこそ、魔王以上に。


 第四魔王軍の面々は何となくその雰囲気を察しており、アランが爆速で訓練場から消えて行く姿を見て“あぁ、これはスイッチが入ったな”と思いつつ生暖かい目でアランの背中を見送っていた。


 ........一部のノアファンからは応援の声が上がっていたが、ノアの耳に入ることは残念ながら無い。


 魔王城を駆け抜け、アランがやってきたのは魔王がヒーヒー言いながら公務をしている執務室。


 アランはノックもせずに扉を勢いよくバン!!と開くと、何事かと驚く魔王に突撃した。


「魔王様!!ノアに“にゃ”をやらせましょう!!」

「うん。ごめん。急すぎて妾ビックリじゃ。アランよ。急に何を言っておるのだ?」

「僕、聞いたんです!!ノアが可愛く“にゃ”と魔王軍を前に言ったという事を。で、僕だけ見てないなんて不公平じゃないですか!!」

「お、おう?なるほど?」

「なので、ノアがそうせざるを得ない状況を作り出して僕もノアの“にゃ”を見たいので、手伝ってください!!」


 目をキラキラと輝かせながら魔王の肩を掴むアラン。


 あの勇者がここまで錯乱するとは、ノアの奴は一体どんな洗脳をこの勇者に施したんだと魔王は心の中で思いつつアランに気圧される。


「と、とりあえず落ち着くのじゃ。そんな強く肩を握られたら痛みで何も考えれぬ。一旦冷静になるのじゃ」

「........む、分かりました」


 勇者に圧倒される魔王の言葉を聞いて、少しだけ冷静さを取り戻すアラン。


 しかし、その興奮が収まった訳では無いので僅かに顔が赤い。


 魔王は“こいつ本当に勇者の職を与えられた戦士なのか?”と自分の事は棚に上げつつも、情報を整理し始めた。


「まず、お主はノアの“にゃ”が見たいのじゃな?」

「見たいです。だってノアがすごく可愛かったらしいじゃないですか。そんなの僕の脳裏に焼き付けないと世界の不条理です」

「何言ってんだこいつ(小声)........ゴホン。で、その作戦を妾に求めてきたと?」

「そういうことです。聡明な魔王様ならばノアの可愛い姿を十全に発揮できると思うんです!!想像してください。流れに逆らえずノリノリでやってくれるノアの姿を!!」


 魔王は想像する。


 何かと煽り煽られの関係であるノアが、大衆の流れに飲まれて“にゃ”をやらざるを得ない状況を。


 それは間違いなく面白いだろう。ココ最近、イタズラが出来ていないという事もあって、魔王のスイッチは簡単に切り替わってしまった。


 仕事モードから悪ノリモードへ。


 こうなってしまってはもう誰にも止めることは出来ない。さらに言えば、今回は勇者の頭脳まで加わるのだ。


 隣で今のやり取りを全て見ていた財政管理担当の者は頭を抱えると、“今日はもう無理だな”と諦める。


 最低限の仕事は終わっているのだし、少しは遊ばせてあげようと言う完全に親目線の気持ちであった。


「ほう。ほうほうほう!!それは面白そうじゃの!!今日の仕事はここまでじゃ!!アランよ!!今から妾の家で作戦会議を立てるぞ!!」

「さすが魔王様!!話がわかるね!!」

「くははははははっ!!最近妾の威厳が足りないからの!!次いでにこの国では妾が偉いと言う事を思い出させてやろう!!」


 こうして、原作では殺し合うはずであった魔王と勇者はたった一人の男に“にゃ”を言わせる為だけに本気で作戦を練り始める。


 その後、かつて行われた“猫型の魔人族の気持ちを体験しよう!!”と言うイベントを独断で開き、更にその中で最も破壊力のある“にゃ”を言わせる大会を開いて無事ノアに“にゃ♪”を言わせることに成功するのであった。


 これを機に勇者と魔王の仲は深まり、一緒に食事をしたりするほどに仲良くなる。


 ある意味、世界平和がなされたと言ってもいいのかもしれない。


 ちなみに、大会ではノアの“にゃ♪”の破壊力が凄まじすぎて死人(死んでは無い)が続出。


 ブッチギリで頂点に立ってしまったノアは、その日アランに一切口を聞かなかったとかなんとか........

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