やばくね?


 アランが魔王国へと来てから1週間後、俺の長い休暇も明けて仕事に復帰する事となった。


 とは言っても、毎日のようにアランと勝負をするために第四魔王軍の訓練場に足を運ぶのでやっていることは変わらない。


 失われた1年を取り戻すかのように何度も戦い続けた俺とアランは、たった1週間でお互いの今の動きに適応し、より高度な戦闘を繰り広げるようになった。


 俺は物量戦法以外の方法が取れないのでできる限り立ち回りを改善し、アランは俺の立ち回りを把握して適切な魔法と武技を使用しながら攻撃を仕掛ける。


 そんな楽しい日常を過ごす中で、俺とアランの仲はさらに深まった事だろう。


 何をするにも一緒。俺が徳稼ぎの為に休暇でありながら仕事の手伝いをする時はアランも一緒に仕事を手伝うし、俺が飯に行こうとするとアランも飯に着いてくる。


 まるでピク〇ンだ。金色ピク〇ンはオールラウンダーである。


 そんな俺にピッタリくっついて離れないアラン。一緒に風呂まで入るわ、寝る時も一緒だわでニーナから“私もにぃにと一緒にいたいのに”とアランは恨まれていたが、何をやっても基本可愛いニーナなのでアランは笑い飛ばしていた。


 いつの日か、本当にアランがニーナの恨みを買って暗殺されそうだな。ニーナの職業、一応暗殺者ですよ。


 で、そんな楽しい毎日をすごし、アランも魔王国に慣れてきた頃。


 俺はアランとの約束を果たすためにロリ魔王の元を訪れていた。


「─────と、言うわけで、アランを魔王軍に入隊させるのと俺と同じ所属にして欲しい」

「くははははははっ!!勇者も人の子よのぉ!!まるで親離れできぬ子のようじゃ。聞いておるぞ?アランと姫が毎日一緒にあちこちに顔を出しておることはの!!」

「まぁ、昔からそんな感じだしな。別に今更だよ」

「くはは。そうかそうか。友情とは美しいものよな。妾にもそんな美しい友情を誓える友が欲しいのじゃが........なぜかの?誰も妾の友になりたいと名乗り出る者が居らん。妾、普通に泣きそうじゃぞ?」

「それは日頃の行いが悪いせいだ。グリードお爺さんから聞いたぞ、昨日は夜中に出歩く人達に近づいて驚かせては笑っていたそうだな。そんなおさがわせの問題児と友人になりたい奴がいるとでも思うのか?」

「世の中には数多くの人がおる!!一人ぐらい妾の友となってくれる者がおってもよかろう!!」


 友達がいないと嘆くくせに、全く反省の色がない魔王。


 そんなんだから友達ができないどころか、雑な扱いを受けるんだぞ。


 アランとの約束。“アランを俺と同じ軍の所属に入隊させる”と言う約束を果たしに、俺は魔王の元を訪れた訳だが、ここにアランはいない。


 もし、魔王が“ダメじゃ!!”とか言った日には、アランが何をするのか分かったもんじゃないからな。


 原作ストーリーをぶっ壊したはずなのに、結果が変わらなかったら意味が無い。


 今の魔王をアランが倒せるとは思えないが、アイツはこの世界の主人公。内なる力が覚醒し、急に魔王をぶった斬るなんて事も起こらなくは無いのだ。


 全く、本当に困った友人だ。そんな状況を楽しんでしまっている俺も俺だけどね。


「んで、どう?アランの入隊は許可してくれる?」

「もちろん許可するとも。魔王軍が子供を戦士として扱わないようにしているのはもちろんだが、それでもノアのような例外もある。勇者の職を持ち、女神の加護を受けた称されるものを拒むことは出来ぬのでな。いきなりノアのように戦場に向かわせることは出来ぬが、国内にも仕事は多くある」


 基本子供の入隊は許さない魔王軍。しかし、俺やエリスの様な例外もある。


 アランはどうやら、その“例外”に当てはまるようだった。


 流石勇者様。主人公補正が凄いね。


 魔王に許可を貰えたことで、俺も心配事が1つ減ったよ。


「それじゃ、アランは俺と同じ同僚になれるって訳だね。良かった。もし断られたら、アランが魔王様を殺しに行きそうだったから止める手間が省けたよ」

「くは?妾の聞き間違いかの?今、勇者が妾を殺すとか聞こえたのじゃが........」

「聞き間違いじゃないよ。もし許可してなかったら、アランは魔王様の元に乗り込んでただろうね。そして、“許可する”って言うまで殴り続けてたと思うよ」

「やば過ぎじゃろ。絵面的にも魔王国的にも。妾、長年生きておるが少女のような可憐でか弱い見た目をしておるのじゃぞ?そんな誰もが目を奪われるような少女を殴りつけるとか、本当に勇者がとる行動かのぉ?」

「いや、アランは俺の勇者になるって決めたから、その為には手段を選ばないよ。覚悟が決まった勇者様は例えイタズラ好きで周囲の人々に迷惑をかける少女の見た目をした魔王相手にも殴り掛かるだろうさ」

「ヤバくね?」

「ヤバいね」


 アラン、俺の勇者になると決めてからなんというか........“覚悟”を感じられるんだよな。


 普段はニコニコと爽やかな青年の笑顔を浮かべているが、時折目の奥に光が宿っていない時がある気がする。


 ごみ拾いを邪魔してきた鳥に襲われた時が顕著だったな。俺はいつもの事だったので手で追い払おうとしたら、アランが目にも止まらぬ早さで鳥を捕まえて何やらボソッと小さく呟いたのだ。


 その時の目を見て、“ヤバい方向に進んでしまったかもしれない”と危機感を覚えたものである。


 闇落ちはしなかったが、闇を抱えてない?


 捕まえられた鳥さん、その後ブルブル震えてたよ。


 尚、その鳥はなぜか今ニーナのペットになっている。


 アランが鳥さんをビビりにビビらせたあと、ニーナが優しくしてあげたのが原因なのか滅茶苦茶懐いて今ではニーナの肩の上がその鳥さんの家だ。


 ニーナも鳥のことが気に入ったのか、結構可愛がっているらしい。


 名前は“トリ”(カラスのような見た目)。そのまんま過ぎる。


「くはは。ノアも大変じゃの。妹分であるニーナ嬢の面倒にアランと言う友人の面倒を見なければならぬとは。どちらもお主にベッタリじゃろう?」

「寝る時は3人で寝てるよ。なぜか俺が真ん中でな。今は冬だから暖かいけど、夏になったらと思うと想像したくないな。冷房用の魔道具を買うかかなり真面目に検討しているよ」

「予言しよう。お主は絶対その冷房の魔道具を買うぞ。なんなら、アランとニーナ嬢が買ってくるかもしれん。お主と寝る為だけにの」

「勘弁願いたいよ。2人に抱きつかれて寝返りが打てないんだぞ?ニーナ1人だけの時だったらまだ良かったんだがなぁ........」

「それは────ん?待て、今思いっきりスルーしかけたが、お主ニーナ嬢と一緒に寝ておるのか?!」

「え?そうだけど。軍に入隊してから遊んであげられる時間が減った代わりに、一緒に寝る事に........あ」


 しまったぁぁぁぁぁ!!


 ニーナと一緒に寝ている事は秘密にしていたんだった!!


 ニーナは今や魔王軍のアイドル。俺にもファンクラブがあるらしいが、ニーナのファンクラブはそれ以上に勢力を拡大し今やニーナ一強時代が幕を開けようとしている。


 で、そんなアイドルと一緒に寝ている男が居たらどうなるのか?


 答えは簡単。“即、断罪ギルティ”であるのだ。


 魔王軍の面々は基本優しく良い人達が多いが、悪ノリの良さも凄くいい。


 俺を攻撃する材料を見つけ、大義名分を持ったファン達は俺に押し寄せて来る可能性が物凄く高いだろう。もちろん、冗談でやるだろうが。


「くははははははっ!!いいことを聞いたの!!これは今すぐ皆に伝えなくては!!我らがアイドルニーナ嬢の特大スクープじゃ!!」

「ちょ、待て魔王!!逃げるんじゃねぇ!!」

「くははははははっ!!嫌じゃ!!」


 こうして今日も魔王軍とのかけっこが始まる。


 その後、俺は悪ノリしたファン達に押し寄せられたが、アランに食い止めて貰ってニーナに泣きつき自体は収束した。


 次会ったら覚えとけよロリババァ、俺の拳は効かないだろうがアランの拳なら痛いだろ?アランにゲンコツを頼んでやる。男として情けなさすぎるが、1度痛い目を見るんだな!!

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