姫様vs青年


 日課のごみ拾いをしながら魔王城へとやってきた俺達。ゴミを処理してくれる魔人族の人に“いつもお疲れ様です姫様”とからかわれたりしつつも、第四魔王軍の皆が揃う訓練場へとやってきた。


 アランは魔王軍所属では無いので本来は立ち入り禁止なはずなのだが、なぜが魔王から“アランの立ち入りを許可する”と言う通達がなされているようであっさり通して貰えた。


 あのロリ魔王、絶対“面白そうだから”という理由だけでアランの立ち入りを許可してるよ。


 セキュリティがガバガバな魔王城に不安を覚えるが、俺の仕事の範囲では無いので口出しはしない。


“ならお主が代わりにやれ!!”と言われたら普通に困るしな。


「お、この青年がノアの言っていた友人か。確かに爽やかでイケメンだな。姫様のような可愛い雰囲気とは違って、こちらはしっかりとカッコイイ」

「ブロンズ、お前も喧嘩を売ってるのか?ミャル代理軍団長に言いつけて、ブロンズが狙っていると言う女性にあることない事吹き込んでもらうぞ」

「いやー!!骸の王様もかっこいいな!!男の俺ですら惚れそうなぐらいだぜ!!」


 第四魔王軍の訓練場へと足を運ぶと、ブロンズ達が出迎えてくれる。


 調子のいいやつだ。手のひら返しが早すぎる。


「ノアがお世話になっています。ノアの親友のアランです」

「おうよ。よろしくアラン。俺はブロンズ。一応この第四魔王軍で大隊長をやらせてもらっている。何か困ったことや聞きたいことがあれば頼るよといい」

「あ、ならノアの話が聞きたいです。ノアはここでどのような生活をしているのですか?」

「ん?姫様か?姫様は面白いぞ。何せ、この魔王軍の中で一番勢力のあるファンクラブが結成されてるからな!!やっぱりノアを語るなら、伝説の“にゃ”は欠かせない。あれは誰もが度肝を抜かれる可愛さだった........」

「なんですかそれ?!もっと詳しく聞かせてください!!」


 おいやめろブロンズ。俺の友人に人の黒歴史を勝手に吹き込むんじゃねぇ。


 と言うか、ファンクラブが出来上がっているのか。小耳に挟んだ程度だったから気の所為だと無視していたが、どうも俺にもファンができ始めてしまったらしい。


 悪い気はしない。人に好かれる事自体は嫌いでは無いし、皆がそれだけ俺と言う存在を認めてくれているのだがら。


 だがらその過程がおかしい。


“伝説のにゃ”ってなんだよ。いつの間に伝説になったんだ?


 それよりも“骸の王”としての活躍を先に語るべきだろうに、この空気の読めない牛野郎は........


 そして、目を輝かせて人の黒歴史を聞き出そうとするアランもアランだ。頼むからお前はこの魔王軍のノリに呑まれないでくれ。


 俺はあのロリ魔王と肩を組んで笑っている姿を正直見たくない。勇者と魔王が悪ノリ友達とかになった日には、アランをぶん殴るだろう。


「アラン、その話は聞くな。と言うか、聞かないでくれ。それよりも、勝負するんだろ?その話を聞き出したら俺の不戦勝にするからな」

「えー........ノアの事を知りたいだけだったのに」

「不満そうに言うな。ほら、さっさと始めようぜ。ルールは少し変えるがな」


 俺はそう言うと、ブロンズが余計なことを言い出す前にアランとの勝負に戻る。


 多分俺の知らないところでアランは“伝説のにゃ”の話を聞くんだろうなとは思いつつ、アランに木剣を渡した。


「ルールは魔法ありで怪我をさせないように加減すること。昔のように一撃食らったらアウトでもいいんだが、それだと俺が有利だからな。勝敗はどちらかが降参するまで。ただし、意地は張るなよ」

「そういうノアこそ、意地を張って怪我をしないでよ?ノアは昔から負けず嫌いなところがあるからね」


 ニッと笑いながら俺を挑発してくるアラン。そういうアランこそ、負けず嫌いだろうがとは言い返さない。


 その返事の代わりに、俺は“早速始めよう”と言わんばかりにアランに手招きをする。


 1年ぶりのアランとの勝負。ここは気持ちよく勝って俺の素晴らしさを見せてやるとしよう。


 いつの間には周囲には第四魔王軍の面々が集まり、何故か普段あまり顔を見せないレオナまでこの勇者とネタキャラの戦いを見に来ている。


 この感じだと魔王も見ていそうだな。騒ぎあるところに魔王あり。


 あの人は、そんな人なのだ。


「行くよ!!」


 先手を取ったのはアラン。昔のように勢いよく俺に向かって突っ込んでくるが、俺は昔のような対応はしない。


 魔法ありの勝負なのだ。動ける範囲は狭いが、召喚術士としての本領を見せてやろう。


「馬鹿正直に突っ込んできても勝てねぇぞ?」

「─────っ!!」


 一瞬にして現れるのは大量のスケルトン。攻撃をされれば簡単に崩される防壁だが、無限に生み出せる防壁は絶対的な防御札となる。


 周囲を一気に囲まれたアランは数秒足を止めるが、相手が最弱のスケルトンの為簡単に倒せるということを思い出したのか再び突っ込んできた。


「邪魔!!」

「脳筋だなおい。ほら、追加だ」

「グッ........!!」


 某無双ゲーのようにバッタバッタと敵を薙ぎ払うアランだが、無限に湧き出るスケルトンは何体倒されようが意味が無い。


 無限に湧き出るスケルトンに不意を付かれたアランは、スケルトンの拳を一発貰ってしまった。


「昔のルールなら俺の勝ちだな。良かったな、ルールを変えて。まだ負けじゃないぜ?」

「召喚魔法を使っているノアとの戦いがここまで面倒だとは思わなかったよ。確かに“骸の王”と呼ばれるだけはあるね。でも、僕だって何もしてこなかった訳じゃないんだよ!!」


 アランはそう言うと、周囲のスケルトンをなぎ払いつつ武技の行使に入る。


 あのモーションは広範囲攻撃の“剣輪”か。


 初期の方に覚えられる武技の中ではクールダウンが短く、魔力消費も少ないため貴重な広範囲攻撃手段としてよく使用していたのを覚えている。


 ダメージ倍率は低めだが、スケルトンを吹き飛ばすぐらいは簡単にできるだろう。


 でも、確か修得時期が二年目とかのはずなんだがなぁ........どうやらこの世界の勇者様は成長速度が早いらしい。


「刻め“剣輪”」


 ゴォ!!と、風を切り裂く音と共にスケルトン達が崩れ去ってゆく。


 確かにアランの一撃は凄まじい威力を誇っているのが分かるが、残念ながらお前は俺の魔法を舐めすぎだ。


「.......やっぱりだめか」

「周囲を薙ぎ払うだけで満足するとは、アランも弱くなったか?俺を舐めすぎだぜ。召還速度の事を忘れていたか?」

「あはは。まさか。僕の親友はこのぐらいやってもらわないとね」


 消えた戦場に再び顕現する骸の軍団。


 アランは俺の煽りに対して実に楽しそうに笑いながら、再び剣を振るう。


「【ファイヤーボール】」

「当たらねぇよ」


 剣だけでは俺を仕留めきれないと判断したのだろう。ついに魔法まで使い始めたアランだが、魔法が放たれたとしても足の速さで逃げられるのが俺の強み。


 とにかく逃げ続けて雑魚モブの物量で倒し切る。それが、理論上最強のネタキャラの戦い方だ。


「あはは!!やっぱりノアとの勝負は楽しいね!!学園にいた頃は、誰も相手にならなくてつまらなかったんだよ!!」

「安心しろ。一生お前の相手をしてやるよ。もちろん、生涯戦績は俺の勝ち越しでな!!」

「それはどうかな?!去年の戦績は僕の方が上だったのを忘れたのかい?!」

「全てを合わせた通算では俺がまだ勝ち越してるだろうが!!」


 こうして、俺とアランは失った1年を取り戻すかのように、心の底から笑いながら戦った。


 なお、結果は大量のスケルトンに対処しきれず根を上げたアランの負け。


 久々の勝負は、俺の白星だぜ。

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