再会
アランを助け出す計画を立てた翌日。遂に俺とエリスはアランを魔王国に連れて行くために動き始めた。
監視は寮にいるメイド以外全て無力化しており、そのメイドも交代の時間を狙って行くのでアランから監視が外れる。
恐らくある程度の時間が過ぎれば気付かれてしまうだろうが、逆に言えばある程度の時間は自由に動けるのだ。
逃走経路の確保と下見も終わっているので、余程イレギュラーが発生しない限りは上手くいくだろう。
上手くいかなかった時は俺もエリスも殺されるな。気を引き締めなければ。
「........監視が入れ替わります。今ですノアくん」
「分かってるよ。もう合図は出してる」
学園の寮が見える建物の屋上からアランの動きを見張る俺は、監視が入れ替わるタイミングでアランに逃げ出すように合図を出す。
合図の出し方は簡単で、アランの持っている小鳥に窓をコンコンと叩かせるだけであった。
「逃げる時間だね。よし、行こう。エルベスには申し訳ないけど、僕は僕の正義の道を行くことにしたよ」
「ピ!!」
「分かってるからそう急かさないでノア。今行くから」
合図を出されたアランが、窓を開けてできる限り音を立てないように三階から飛び下りる。
普通の人間であれば間違いなくどこかしらを怪我していたが、この世界はファンタジーな上にアランはこの世界の中でも最強格。
三階から飛び降りる程度で怪我をするほどやわでは無い。
できる限り音を出さずに飛び降りたアランは、そのまま静かに寮の中を移動。
小鳥の誘導通りに進み、寮を見回りする者たちにもバレズに上手く寮から脱出する事が出来た。
「誘導完了。アランと合流しよう」
「実際に見ると、想像以上のイケメンですね。これ、間違いなく魔王様がアイドルに仕立て上げると思いますよ。なんなら、ノアくんとセットでデビューでもしますか?」
「ふざけた事言ってないで早く行くよ。アランは意外と気が短いから、俺達を探すためにフラフラ歩くかもしれないからね」
「おっと、それはマズイですね。早く行きましょう」
アホなことを言い始めるエリスの言葉を中断させ、俺達も集合場所に向かう。
ここから先は時間との勝負。焦りは禁物だが、いやでも焦ってしまうのが人のサガと言うものだ。
俺は、知らずの内に歩く速さが速くなっていた。
「ノアくん。早歩きになり過ぎです。こういう時ほど落ち着いて自然に余裕を持って歩くのですよ。それが諜報員というものです」
「........ごめん」
「ふふっ、いいのですよ。ノアくんはこういうことに慣れてませんからね。私も初めの頃は焦って失敗を何度もしてきましたし。手を繋ぎましょう。私の歩く速さに合わせて歩いて下さい」
そう言って優しく微笑みながら、俺に手を差し出すエリス。
確かにその方が確実でバレにくいか。傍から見れば仲の良さそうな姉弟に見えなくもないだろう。
俺はエリスの手を握ると、エリスの歩く速さに合わせて歩く。
エリスは俺の普段の歩く速さと同じぐらいの速度でゆっくりと歩きながら、街の中を堂々としていた。
街中の人達の視線が全て気になる。悪いことをしている時の典型的な被害妄想だな。
犯罪をした犯人がどうして挙動不審になるのかがよく分かる。彼らは最悪の想定が頭から抜けないのだ。
だから、不自然な動きが出てしまう。
俺は、できる限り周囲の景色を気にしないようにしながらエリスとともに歩き続け、ようやく人目のつかない場所へとやってくる。
そして、そこで月明かりに照らされた金色の髪を持つ友人と再会を果たした。
「よう。久しぶりだな」
「ノア!!........あれ?なんか縮んだ?」
俺を見つけるなりパッと顔を輝かせるアラン。その顔だけで世界中の女性を虜に出来そうだ。
相変わらず綺麗な顔をしてんな。そして、アランくん?今のは喧嘩を売ってきたって解釈でいいのかな?
暗に“お前成長してないね”と言われるよね?喧嘩売ってるよね?
「それはアランがデカくなり過ぎてるからだ。喧嘩を売ってんなら買うぞコノヤロー」
「あはは。そんなつもりは無かったんだけどな。でも、確かに僕の方が成長が早いのかもね」
アランはそう言いながら、俺に近づくとぺたぺたを頬に触れ、そしてゆっくりと抱きしめる。
村から離れ、友人とも離れて誰も知り合いのいない世界に放り込まれたのだ。このぐらいの抱擁は大人しく受け入れてやるとしよう。
アランもアランで大変だっただろうし、俺の“学園生活を満喫して欲しい”というエゴで苦労を掛けたしな。
俺はそう思うと、アランを抱きしめ返す。
やっぱりコイツ、女の子のように細いな。なんかくびれもあるし、いい匂いがするし。
この世界の主人公はスゲェな。成長してもこのスタイルとか、モデル行けるよ。アランは成長すると178cmになると公式ガイドブックに書いてあったし、ファッションモデルとか普通に行けそうである。足も長いしな。
「あぁ。ノアの匂いだ。懐かしいよ」
「まだ1年そこらだろ。そこまで懐かしむ程じゃないと思うけどな。ほら、俺に会えて嬉しいのはわかるが、サッサと逃げるぞ。どうせ明日から毎日会えるんだ。感動の再会に浸るのはここら辺にしておけ」
「うん。分かってる。せっかくノアと........エリスさんだっけ?が、用意してくれた未来なんだから、手放す訳にはいかないしね」
俺はアランに黒いローブを渡すと、アランは素早くローブを来て顔を隠す。
まだ国の未来を背負うには早いという事で、一般人の中でアランの顔を知っている人は少ない。
が、街中の声を聞いた感じアランが金髪だという情報は出回っている。
この世界は多種多様な髪色をした者が存在しておりもちろん金髪も多くいるが、アランの金髪は本人の美顔も相まって目立ちまくる。
月明かりに照らされているだけで様になる男の顔は隠さなければならないのだ。
「できる限り自然に行きましょう。初めましてアランくん。私はエリスです。時間がありませんので、自己紹介はまたの機会に」
「アランです。よろしくお願いします。エリスさん」
空気を読んで感動の再会に口を挟まなかったエリスだが、流石にこれ以上は待てなかったのか簡単な自己紹介だけを済ませて頭を下げる。
そして、性格が穏やかになっていたアランも無難な挨拶だけをして移動を開始した。
ちょっと感動的だな。メインストーリーでは顔を合わせてた瞬間に殺しあっていた2人が、今こうして並んで歩いている。
剣と糸が交わり、お互いに血飛沫を上げながら睨み合っていた2人が、同じ目的を持って動いているのだ。
ゲームの世界では決して見ることの出来なかった光景。俺がねじ曲げたストーリーの行き着いた未来。
悪くないし、とても嬉しい。
根は良い奴だったアランと、普通にノリのいいエリス。
この2人の出会いが世界をどう変えるのかは分からないが、少なくとも原作程酷い結末を辿ることにはならなさそうだ。
原作から思いっきり外れてしまって、俺のストーリーに関する知識が全く使い物にならなくなってしまうが........まぁ、それはなんとでもなる。最悪“理論上最強”が何とかしてやるから。
「先ずは、ここから逃げ出してアランを魔王国へ連れていかないとな。今後の未来を考えるのは、この作戦をしっかりと終えてからだな」
「ノア?何か言った?」
「何も。お前は声もいいんだから黙ってろ。バレるぞ」
「ん、分かった」
声を褒められて嬉しかったのか、ニッコニコのアランはそう言いながら王都の脱出を目指す。
このまま何も無ければいいが........この先でイベントが起こりそうと思ってしまうのはゲーマー脳過ぎるだろうか?
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