守るべき者
アランを魔王国に連れ出す為、監視の無力化を続けていく俺とエリス。
基本的に監視が1人になったタイミングをエリスに伝え、エリスが監視をボコボコに殴ってスキルで洗脳すると言うやり方で無力化を続けていたが、特に問題もなく順調に無力化を終えることができた。
無抵抗の人間をボコスカに殴るエリスの姿はあまり見ていていい気分ではなかったが、エリスはプレイヤー達に“魔王より魔王してる”と言われる程にえげつない戦い方をするキャラ。
アランと初めて邂逅した時なんかは、王都にいた人たちを人質に取りながら戦うというかなり敵役っぽい戦い方をしている。
しかも、アランが街の人たちを殺せないと分かると足止めの為に突撃させるからな。
結局、その後の戦争でエリスは死ぬが、その時も敵兵を操って同士討ちさせる戦法を取っていただけに、エリスの無慈悲さが伝わってくる。
エリスを怒らせるのだけは辞めておこう。シスターマリアに並ぶ恐ろしい光景を目の当たりする事になりそうだし。
そんな“魔王より魔王してる”と言われるエリスだが、仲間には滅茶苦茶優しくていい人だしな。ココ最近も、未だに少し魔王国に慣れない村の人達を心配して相談を聞いたりしてあげているらしいし。
「これで寮内にいる監視以外の全てを無力化出来ましたね。恐らく気づかれては無いと思いますが、最悪を想定すると早めに動くべきだと思うのですが........ノアくんはどう思いますか?」
「そうだね。中には洗脳されているかどうかを判別するスキルや、洗脳を解く魔法なんかもある。何らかの間違いで洗脳が解けたりバレたりする前に、急いでアランと合流するべきだと思うよ。アランも待ちきれないのか、最近はウズウズしているし、アランからバレる可能性もある」
「ふふっ、ノアくんに会えるのがそんなに楽しみなんですかね?私も早く会ってみたいですよ。話には聞きますが、実際に会ったことはありませんし」
「男から見ても惚れるぐらいカッコイイやつだよ。性格も真面目で爽やか。正直、完璧すぎて比べようとも思わないぐらいだよ。もしかしたら、魔王国のアイドルになるかもね」
「あー........魔王様ならやりかねませんね。エルが可愛いからってアイドル的存在に担ぎ上げたり、“イケおじ派もおるかもしれん!!”とか言い出して、グリードさんをイケおじアイドルにしようと画策してましたからね。後者はグリードさんにバレて滅茶苦茶怒られてましたが」
何それ知らないんだけど。
ゲームの中で行われるイベントは、あくまでも魔王国で起きた出来事のほんの一部。
あの魔王は毎日やらかしまくるから、それを全てサブストーリーにしてたらキリがないわな。
と言うか、グリードもアイドルにされかけてたのかよ。“イケおじ派もおるかもしれん!!”って何目線?魔王はアイドルプロデューサーなのかな?
相変わらず滅茶苦茶やっている魔王に、慣れてしまって最早呆れすら出てこない。
一度本格的に医者に頭を見てもらわないと、一生治らないんだろうな。いや、もう手遅れか。
「ちなみに、エリスもアイドルにされそうになってたりする?」
「私は無かったですね。“メイド服を来てくれなければ減給するぞ!!”と脅されたぐらいです」
「とても国のトップに立つ人とは思えない言動だね。完全なる独裁政治じゃん」
「ガルエルさんとザリウスぐらいですかね?そう言う我儘を言われてないのは。レオナはビジュアル系バンドとか行けそうという事で、ドラムをやらせようとしてましたよ。まぁ、あの人は剣以外が結構不器用で、力加減を間違えてドラムを壊してしまい落ち込んでましたが」
って事は話自体は受けたんかい。
レオナ軍団長?嫌なら嫌って言っていいんですよ?
コミュニケーションに難ありで、そのことを後ろめたく思っているレオナは何かと魔王の頼みを断れない人なのだが、流石にそれは断っていいと思うよ。
と言うか、ビジュアル系バンドを組もうとしてた時期があったのかよ。絶対ボーカルは魔王だな。絶対ノリだけでメンバーを集めて、音楽性の違いで解散しているよ。
それにしても、ドラムってどんな叩き方をしたら壊れるんだ?バカ力過ぎやしないか?
俺は、ちょっとカッコイイレオナを見てみたいと思いつつも話を戻す。話が脱線しすぎだ。
この調子で話していたら、夜になる。
「それで、いつ決行する?できる限り早い方がいいのは間違いないけど、アランにも伝えないといけないよ」
「明日の夜にしましょう。夜ならば人目に付きにくいですし、暗闇に隠れやすくなります。ローブは既に準備してありますし、メイドの監視が入れ替わる瞬間を狙って動くのはどうでしょうか?」
「いいんじゃないかな?それで、逃走経路は地下の水路を辿る感じで行こう。あそこなら絶対に人目がないし、道も分かるからね」
「万が一の場合は、私が残って戦います。ノアくんはアランくんを逃がすことだけを考えてください。既に転移魔法が使える者を呼んで街の外に待機させていますので、合流次第魔王国へと逃げますよ」
「わかった。アランにも伝えておくよ。必要なものはちゃんと持ってくるようにってね」
決行は明日の夜。
俺は1年ぶりに会えるであろう親友の顔を思い出しながら、その日はゆっくりと眠るのであった。
【聖なる靴】
白く輝く神聖なる靴。【光属性魔法の与ダメージ47%増加】と【光属性魔法使用時の魔力消費20%減少】の効果がある。更に、防具スキルとして【光の道】もあり、5ターンの間、移動速度上昇を付与できる。
アランの火力を補う装備であり、この装備があるためステータスを速度よりに振った方がいいとまで言われている。アランのみならず、光属性魔法を主体に戦うキャラにとっては必須級装備でありメインストーリーではとんでもない活躍を見せる。なぜ水路に隠されていたのかは不明。
その日もアランは学園の授業を終えるとエルベスと少し話した後、真っ直ぐ自室へと帰る。
アランのここ最近の楽しみは、ノアとの会話だ。
ノアが残した鳥やネズミを可愛がりながらノアを待つ。そして、ノアが現れたらその日の出来事を話すだけの他愛もない時間。
それが、アランにとっての唯一の楽しみである。
「もうすぐノアと出会えそうだね。凄く嬉しい」
「ピ?」
両手に包まれた小鳥を撫でながら、心の底から嬉しそうに呟くアラン。
今、ノアはこの部屋いにる召喚物に憑依していない。アランは、鋭い勘でアランが憑依しているのかどうかを見極められるだけの実力を持っていた。
それが単純な実力なのか、親友故の絆なのかは分からないが。
可愛らしく首を傾げながらも、主人の命令を待つ小鳥はアランに優しく撫でられて目を細める。
できる限り本物に似せて作られた小鳥やネズミは、本物よりも賢くアランの言葉を少しだけ理解していた。
「あぁ、早く会いたいよノア........僕、ノアに言われて決めたんだ。僕はこの国の勇者ではなくて、君の勇者になりたい。誰の為に正義を振るうのか。それは僕が決めることだって言われて気づいたんだよ」
アランにとって、この世界で最も大切な存在がノアである。
自分を拾ってくれたシスターマリアや、アランの事を褒めたりしてくれる村の人たちももちろん大切ではあるがその中でもノアがぶっちぎりで大切であった。
そして、大切な人を守るために勇者は剣を取り敵を薙ぎ払う。
アランの事を思うノアのように、アランもノアの事を思っているのである。
「ピ!!」
「あ、ノア。おはよう。もう夕方だけどね」
「ピー」
最近はよく訪れるようになった親友。その親友の声を聞いて、アランは笑う。
そして明日、アランはノアと再会出来ることを知り心の底から喜ぶのであった。
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