騎士団長ブルーノ
アランと再会し、お互いに感傷に浸るのもそこそこにして俺達は動き始める。
監視の殆どを無力化したとは言えど、メイドの監視は残っているのだ。
いつ気付かれるかも分からないこの状況で、油を売っている暇は無い。
俺達は、事前に確認しておいた逃走経路に沿ってなるべく人目に付かずに移動を続ける。
その間は誰もが緊張し、無言の時が流れていた。
このまま上手く行けばいいけど、どうも嫌な予感が拭えない。ゲームの世界ならば、この逃走中のどこかで敵が現れるはずである。
この世界がゲームの世界ではないと分かってはいるが、腐ってもゲーマーである俺の頭の中では誰が敵として出てくるのか気が気ではなかった。
一番楽なのはエルベス。彼は話が通じるタイプなのでなんとでもなる。
一番ヤバイのは騎士団長。あれは話が通じない上に、クソ強い。
国の為ならば例え世界を救った勇者ですら殺そうとする狂信者だ。頭の作りがそもそも違うため、対話を試みるという選択肢すら用意されていない。
王女を殺したのもアイツだしな。呼び出して後ろからブスリ。しかも、その様子をアランに目撃させて罪を擦り付けたクズである。
頼むから来ないでくれ。俺がお前を倒すのに必要なアイテムがまだ揃ってないんだよ。
そう心の中で願うが、そういう時に限って不幸は訪れる。
もう少して人目から完全に避けられる水路に入れるという所で、奴は現れるのだから。
「ふむ。何となく鼠が入り込んでいると思い適当に街を歩いてみれば、こんな出会いもあるのですね。勇者アラン。何をしているのですか?」
「........チッ、一番会いたくない奴に出会っちまった」
今日はオフなのか、ゲームの中で見た高級そうな防具に身を包んではいない。しかし、常に持っている剣が腰に下げられている。
ガルエルと同じく目元に大きな傷を持った現状リバース王国最強の騎士。メインストーリーではほぼ出てこなかったくせに、最後の最後で存在感を顕にした王の盲信者。
「そちらの2人も怪しいですね。ご同行願えますか?」
「断る........と言ったらどうします?」
「もちろん、私の剣の錆にしますとも。勇者アラン以外は別に殺しても何ら支障はないのでね」
DLCにて敵として出てくるノアの天敵、騎士団長“ブルーノ”が俺達の前に立ち塞がった。
緊迫する空気。
対応をひとつでも間違えれば、大騒ぎになって逃げ出すのが難しくなる。
あぁ、乱数の女神様。なぜ俺に試練をお与えになるのですか。
アランを魔王に売ってレオナの困る姿を見てみたいと願ってしまったからですか?........割と有り得そうだな。
そんなアホなことを考えつつも、俺はローブの中に隠していた杖を手に持つ。
森羅万象の杖。
できる限り争いは避けたいが、こいつに話は通じない。
ここで大人しくアランを差し出せば俺たちの命は助かるかもしれないが、友人を見捨てるほど俺は薄情者では無いのだ。
「仕方がありませんね。あまり使いたくない手なのですが........」
エリスも何となく“話が通じる相手では無い”と気づいたのだろう。偶々近くを通りかかった不用心な市民を糸で拘束すると、素早く自分の場所まで引き付けて首筋にナイフを当てる。
人質を取っての交渉をするつもりらしい。が、それは奴には意味が無い。
相手は己の正義の為ならば、例え全てを犠牲にしてでも遂行する狂信者なのだ。
「そこを通しなさい。さもなければこの人の命は─────なっ?!」
一瞬にして目の前にまで迫って来たブルーノは、人質ごとエリスを切り裂こうと剣を縦に振るう。
まさか人質ごと切ってこようとするとは思ってなかったエリスは、僅かに反応が遅れながらも人質を突き飛ばすと剣を回避........しきれなかった。
「浅いですか」
「チッ!!」
エリスの左肩から血飛沫が上がる。
あまり深く傷ついた訳ではなさそうだが、それでも普段の動きはもう出来ないだろう。
「アラン、これを装備しておけ」
「なにこれ。今は着替えている場合じゃ........」
「早く。エリスが気を引いている内に靴を履き変えろ」
今すぐにでもエリスの加勢に行きたいが、先ずはアランの装備を更新することを優先。
俺はアランのために買った装備を渡すと、アランが着替え終わるのを待った。
これで動きが多少早くなる。逃げられる確率もかなり上がることだろう。
「勇者アラン。今お助けしますよ。鼠に唆された哀れな勇者を救うのは気が進みませんが、あなたを殺すと面倒になるのでね」
「騎士は民を守るものでは無いのですか?今、明らかにあなたは人質ごと人を切ろうとしていましたが........」
「大義のためには犠牲が付き物です。人質にされた市民だって、国のために死ねて本望でしょう」
人質を取った側として何も言えることは無いが、考えがあまりにも極端だな。こんなクソみたいな国のために死ねて本望なら、ゴブリンの餌になったとしても本望だろうよ。
そんな人間がいてたまるか。
大義のためには犠牲が付き物という点には同意するが、やり方というものがあるだろうに。
「エリス、アラン。あいつは俺が引きつけるから、その間に上手く逃げてくれ」
「ダメですノアくん。私が引き付けますので、ノアくんがアランくんを連れて逃げてください」
「いや、これは譲れないね。その傷、深くはないけど手当しないと大変なことになるよ。俺は大丈夫。こう見えても、多少は強いからね」
「ダメです。軍人とは言えど、あなたは子供です。私には、子供を守る責務があります。それに、ノアくんが死ねば悲しむ人も多いですよ」
「それはお互い様でしょ」
個人的にはエリスにはアランを連れて逃げて欲しいが、エリスも譲る気がない。
これは全員で逃げることになりそうだ。
「僕も戦うよ。僕も覚悟は決めたからね」
「おいおい、お前をこの国から連れ出す作戦なのに、その本人が戦ったら意味が無いでしょうに。でもまぁ、アランらしいっちゃらしいけどな。戦闘訓練はどこまで詰んだ?」
「一応、少しだけダンジョンに潜った。ダンジョンって分かる?」
もちろん、知っている。
このゲームもRPGゲームなのでレベリング用のダンジョンが存在している。無限にモンスターが湧き出て来てくれるのがダンジョンであり、少年編のアランは基本的にそこでレベル上げをするのだ。
これは、まだゲームの戦闘システムに慣れていない人達に慣れさせようと言う開発側からの思惑を感じる。
ダンジョンでのレベリング作業も結構優しめだし、毎回中が変わるローグライク形式だったから結構楽しかった覚えがあるな。
宝箱から装備を獲得できるし、その装備を売って新たな武器を買うみたいな事もよくやったっけ。
本当にストーリーはクソだが、ゲーム自体はよく出来ていたと思うよ。だからこそ、ストーリーの酷さが余計に目立つのだろうが。
「分かる。なら、多少は戦えるな。なんとしてでも3人で逃げ切るぞ」
「ノアと一緒ならなんでもできるよ。何気に初めてだね。ノアと一緒に戦うのは」
そういえば、アランと一緒に戦うのは初めてか。
村にいた頃はアランとお遊びの模擬戦ばかりしていたし、チュートリアルイベントは一緒に戦う前にゴブリンくんが真っ二つにされていたし。
俺は少しだけ笑いながら、アランの横に立つと杖を構える。
今回は相手を倒す必要は無い。ならば、こちらにも十分に勝ち目はある。
必須アイテムが無いのが惜しいが、それはまたの機会に集めるとしよう。
「行くぞアラン」
「行こうノア。僕達の未来は邪魔させないよ」
「........魔の手に落ちたのか勇者アラン。これは、目を覚まさせなければなりませんね」
「させると思いますか?させませんよ」
主人公&モブ&元敵役vsDLC中ボス。
今後の未来を決める一戦が、今始まろうとしていた。
後書き。
実は女の子展開だったりTS展開だったり予想している人が多いですが、先に言っておきましょう。今後、そんな展開は無いです‼︎だって付いていた方がお得じゃ無いですか‼︎
ワンチャンTSは魔王様の悪ノリでやるかもしれないけど(すぐに元に戻す)、実は女の子展開は絶対に無いです。アラン君もノア君も付いています。
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