勇者必須装備


 非合法の店でノアがよく使うアイテムを回収すると同時に、アランの装備も回収した俺は、もう1つのアランの必須級装備の回収に来ていた。


 この装備はかなりストーリー後半にならなければ手に入れることが出来ない装備なのだが、回収の仕方さえ知っていれば俺でも問題なく回収できる。


 ストーリーだとお転婆王女ちゃんが偶々その場所を見つける都合上、手に入る時期が決まっているのはゲームとしては仕方がないわな。


「ノアくん、私よりも王都に着いて詳しいですね。まさかこんな所から王都の地下に入れるとは思っていませんでいたよ」

「ネズミ達に偵察させているからね。その気になれば一日で街の地図が描けると思うよ。あ、そこの水路からモンスターが出てくるから気をつけてね。ブラッドアリゲーターが出てくると思うから」

「え、それかなり強いモンスターじゃないですか。そんな危険な場所に来たのですか」

「うん。でも大丈夫。倒すコツがあるから、それが分かっていれば問題ないよ」


 俺とエリスがやってきたのは、王都の地下にある水路。


 下水道ではなくちゃんと綺麗な水が流れるこの水路の中に、アランの装備が隠されているのだ。


 原作ストーリーでは増えすぎた“ブラッドアリゲーター”というモンスターを討伐する為にこの水路に入り、ポンコツ王女が迷子になったて捜索クエが始まるとかいうストレスマッハな場所である。


 やべぇ、俺王女リーシャにあったら助走をつけてぶん殴りそうだな。


 画面の前で何度殴ってやろうかと思う程に、あのポンコツはプレイヤー達を苦しませてきた。


 ゴミ拾いでゴミをぶちまけるわ、ちょっと目を離すと迷子になるわ、回復の魔法を使ったはずがイベントによって強制的に別の魔法を使用されるとか........


 あー、思い出したらイライラしてきた。今から城に乗り込んで王女の顔面殴ってこようかな?


 ストーリーの最後に王女が死んだ時、“うわマジかよ”と思うと同時に“よくやった”と思ってしまう程には、俺は王女にイライラしていたよ。


 本当にクソ面倒なクエストばっかり持ってきやがって。初めてヘルオブエデンをプレイした時、魔法を間違える強制イベントで全滅したのは今でも忘れてないからな。


 あれ以降、キャラのHPが六割を切ったら即回復という癖がついた。


 しかも、他ゲーでもその癖が出るから某ハンティングゲームとかかなり回復薬の消費が早かった気がする。


 そんなポンコツ王女の事を思い出してイラッとしつつ、水路を歩いていくとブラッドアリゲーターが現れる。


 赤い肌と凶悪な口。一度挟んだら逃さないその狩人の目は、かなり強そうである。


 実際ゲーム終盤に出てくるということもあってかなり強いモンスターだが、こいつは決まった倒し方があるのだ。


「........!!ノアくん、下がってください」

「大丈夫だよ。エリス。コイツ、弱いから」


 俺を庇って前に出るエリスだが、俺はそのエリスを押し退けて前へ出る。


 そして、半開きの口の中に大量のネズミを召喚して突っ込ませた。


 可愛いネズミさんがワニに食われるのはちょっと可哀想ではあるが、これも勝つためには必要な犠牲。


 そもそも、俺の魔力だけで生成しているのでそこまで心は痛まない。


「アグ........ガ........」

「「「「「チチッ!!」」」」」


 無限に口の中へと突撃しまくるネズミ達。


 ワニは何とかネズミから逃げようとするものの、周囲を囲まれて逃げるに逃げられない。


 吹き飛ばせばいいのにとは思うものの、ワニの知能はそこまで高くなかった。


 そして、ネズミたちが口の中に入ることにより息ができず、暫くすると苦しそうにもがきながら死んでいく。


 窒息ダメージはこのゲームだと1ターンで最大体力の20%のHPを削るので、一度でも窒息ダメが入った瞬間にかなりエグいダメージを食らうのだ


 ノア単騎攻略の際に知能の低いモンスター相手に使えるのがこの“窒息戦法”である。


 このゲーム何故かモンスターに“知能”という隠れステータスがあり、知能が低いモンスターは口の中にネズミや鳥を突っ込ませると簡単に死ぬ。


 ゲームだと“攻撃”コマンドで行えるのだが、この世界ではちゃんと自分で操作しなければならなかった。


 そして、窒息死したブラッドアリゲーターはピクリとも動かなくなる。


 うーん、知能が低いモンスターは倒すのが楽でいいね。


「........召喚術士にこんな戦いがあるのですね。初めて知りました」

「ほとんどのモンスターには通用しない戦法だけどね。口を閉じればいいだけだから。でも、このモンスターはその頭すらないほどにお馬鹿なんだよ」

「お馬鹿で可愛いんですね。ただの馬鹿な魔王様と違って」

「あはは。全くだよ。魔王様はもう少し可愛げを持った方がいいかもね」


 サラッと魔王をディスりつつ、やっきたのは何の変哲もない水路。


 ここに、アランの必須装備がもうひとつ埋まっている。


「えーと、この辺だったかな?」

「何をしているのですか?」

「アランにあげる装備をちょっとね。あ、ここかな?」


 正確な位置が分からなかったので、壁の色んなところを強く押してみるとガコンという音と共に壁が凹む。


 よし。場所はちゃんとあってるな。


 ここにはアランの必須装備となる【聖なる靴】が隠されている。


【光属性魔法の与ダメージ47%増加】と【光属性魔法使用時の魔力消費20%カット】が付与されたこの装備は、アランの火力を一気に底上げしつつ継続的な戦闘を可能にしてくれる。


 この装備があるため、アランのステータスは火力ではなく速度寄りにした方がいいとまで言われるほどには強く、装備しているのとしていないのとでは火力の差が歴然。


 さらに、防具スキルとして【光の道】というスキルがあり、5ターンの間移動速度を上昇させてくれる。


 クールタイムは確か12ターンだったかな?使うタイミングがかなり重要なスキルで、主に敵の攻撃を避けるのに使っていたはずだ。


 ゴゴゴゴゴと、壁が自動ドアのように開くとそこには眩い光を放つ真っ白な靴が。


 青色と金色の装飾が少しだけ施されており、金髪蒼眼のアランにふさわしい輝きを放っている。


「よしよし。ちゃんとあったな。これで、一旦の目標は終わりかな」

「........色々と聞きたいことがありますが、まぁいいでしょう。これで用事は終わったのですか?」

「うん。出来れば城の宝物庫にある聖剣を回収したいんだけど、流石にそれは無理だからね。となると、魔王国の聖剣を使うことになるかな?と言うか、魔王国に聖剣ってあるの?」

「宝物庫とか興味無いので覗いていませんね........わからないです。ですが、聖剣があったら驚きですね。聖剣って正義の剣じゃないですか。認められたものだけが使えるって話を聞きましたし........」


 うーむ。エリスは知らないのか。


 多分あると思うんだよな。森羅万象の杖があったということは、おそらく魔王国には【魔王回廊】に出てくる装備が存在している。


 そしてその中には、アランの最強装備フルビルドの一つ【朽ちた聖剣】がある。


 ヘルオブエデンの中でも屈指のぶっ壊れ武器であり、色々な手順こそ必要だがその聖剣の力を引き出せると凄まじいことになるだろう。


 森羅万象の杖と同じく、エンドコンテンツで手に入る武器なのでもしかしたら魔王国にあるのかもしれない。と期待している。


「さて、用事が終わったのであれば帰りましょうか。明日からは、アランくんを魔王国へご招待する準備をしますよ」

「ありがとねエリス。態々付き合わせちゃって」

「いいんですよ。ノアくんのやりたいようにやればいいのです」


 エリスはニッコリと笑うと、優しく俺の頭を撫でるのであった。





 後書き。

 クリスマスプレゼントとして、歴代主人公達が話す超短編(限定公開)を上げました。ぶっちゃけ、本編とは全く関係のない話しかしていない上にメタイ話をしていますが、それでもいいよと言う方はどうぞ。

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