リバース王国王都
初めてレオナに命令を下された俺は、エリスと共にリバース王国の王都へと足を運んだ。
ここでもやはり転移魔法が活躍し、転移魔法を使える魔王軍の魔導士があっという間に王都へと送ってくれる。
リバース王国は魔王国と違い、国中全てに転移対策をしていないから出来る選択だな。
と言うか、小さな国とは言えど国一つ丸々覆えるだけの結界を生み出して維持する魔王がおかしいのだ。
流石はメインストーリーラスボス。他の者とは格が違いすぎる。
「着きましたね。リバース王国。最後に訪れたのはノアくんと出会った時ですから、数ヶ月ぐらい前ですかね?」
「あの頃はエリスもシスター服を着て子供達と遊んでたね。今日は普通の服を着てるけど」
「流石にメイド服では目立ちますしね。魔王様は“ヤダヤダ!!エリス!!メイド服を着て潜入しに行け!!”と駄々を捏ねていましたが」
いつもの魔王の言動に、呆れて笑いも出ないエリスはそう言いながら首を横に振る。
潜入調査をするにあたって最も大事なのは、どれだけ自然に周囲に溶け込めるかである。
村に来た時は監視をするつもりだったらしいのでメイド服を着て来ていたが、しっかりと潜入するのであればエリスは普通の服を着るのだ。
今は、そこら辺の町娘と言った格好をしており、そこまで目立ってはいない。が、本人があまりにも美人なので、少々人目は引いている。
「取り敢えず街に入りましょうか。検問は私に任せてください。村から上京してきた姉弟というテイで行きますよ」
「分かったよ、お姉ちゃん」
「........ごめんなさい。もう一回呼んで貰えます?」
「........?お姉ちゃん?」
姉弟設定なら“お姉ちゃん”呼びの方が自然だろうと言うことで、エリスの事を“お姉ちゃん”と呼ぶと、エリスは胸を抑えながら膝を着く。
なにしてんのこの人。目立たないつもりじゃないの?思いっきり目立つぞこれは。
「の、ノアくん。私に“お姉ちゃん”は効きすぎる様なので、普通にエリスと呼んでください。鼻血が出そうです」
「何言ってんの?馬鹿なの?」
「ほんと、辞めてくださいノアくん。可愛すぎて変な気分になるので」
おい、本当にこの人密偵として活躍してた人なんだよな?大丈夫なのかこれ。
完全にノリが魔王軍のノリである。
あの見習いシスターとして働いていた時は完璧だったと言うのに、なぜ急にポンコツになる?
「分かった分かったから、普通に立ってエリス。絶対に目立つから」
「すいません。私とした事が、ノアくんの破壊力に耐えられませんでした。流石は皆を魅了した姫様なだけありますね。魔王様が姫様と呼ぶ理由が今ハッキリと分かった気がします」
俺はエリスが実は相当なポンコツだって分かった気がするよ。
本当に大丈夫だよな?この人について行って問題ないんだよな?
俺は、俺の肩を支えにしながら立ち上がるエリスを見て、不安しか感じないのであった。
【第六魔王軍】
エリスが軍団長を務める軍。基本的に諜報や密偵など偵察に優れた人材が多く、軍として集まって戦うことは少ない。常にどこかしらの軍に派遣され、戦場の偵察を行うことが多い。その為、ほぼ戦場に出てくることは無い。
しかし、その戦闘力は本物であり、第六魔王軍として動く時は奇襲や暗殺等を駆使して戦場を掻き乱す。
エリスが若干可笑しくなってしまったものの、その後はなんとか正常に戻り無事に検問を突破する。
リバース王国は上が腐りきっているので、その下につく者も不真面目な奴が多いのだ。
少し怪しい動きをしていようが、特に怪しまれることも無く街の中に入れる。
検問の意味はあるのか?と思わなくも無いが、この国はそういう国だから仕方がない。
こんな国で勇者として人々を守る期待を背負わされたアランは可哀想だな。少なくとも、俺ならご勘弁願いたい。
身を粉にして国の為に戦ったのに、最後は王女すらも殺してその罪を擦り付けられるのだから、胸糞悪いよホント。
今すぐにでも、この国の王と貴族を皆殺しにした方がいいかもしれん。
「無事に入れましたね。では先ず宿を取りましょうか」
「そうだね。取り敢えずは拠点の確保からだよ。情報収集はその後からだね」
リバース王国の王都を歩く俺とエリス。
この王都の景色は何度もゲームで見たな。
一見とても栄えた街のように見えるこの王都だが、東側に行けば行くほど活気は薄れてスラム街になってくる。
メインストーリーでアランと唯一の友人となった元騎士はそこにおり、なにか辛いことがあるとアランは彼のもとへと行き助言を聞きに行っていた。
彼は今現在ここに居るのだろうか?人間側のキャラではかなり話の通じる良心的なやつだったが(それでもクズ)、この時間軸だとまだ騎士団に居そうだな。
酒とギャンブルに溺れ、身を崩した騎士。正義とは真反対に行く彼だったからこそ、闇堕ちしたアランと仲良くなれたのかもしれない。
今回は彼と関わる機会はないだろう。王都に来たついでに、幾つかの用事を済ませるつもりではあるが、彼と会うのは用事に入ってないしな。
「それに、今のアランには教育に悪そうだ。酒の味を覚えるには、まだ早い」
「ノアくん?何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ。大きな街だけど、あそこよりは活気がないなと思っただけさ」
「リバース王国はかなり税金が重い国ですからね。特に、大きな街になると半分以上を税で持っていかれますし。地方の村は四割程度を持っていかれると聞きましたね」
「村の人達は毎年税金で悩んでたけどね。稼ぎが少ない分、税の重さそこまで変わらないよ。神父様が嘆いてた」
「生かさず殺さず搾り取るのが上手なんでしょうね。ちなみに、我が国の勢は滅茶苦茶安いです。人々の財布を弛めることで経済を回させて、税を取る方針なので」
確かに魔王国は税金が厳しいとは聞かないな。村の人たちも魔王様に魔王国の税金やらルールやらを聞いていたが、かなり緩くて驚いていた覚えがある。
ちなみに、俺も一応税金は払っている。
魔王軍から渡される給料から天引きされているらしい。ここら辺は、前の世界と然程変わらないようだ。
「アランくんはどうでしたか?同意したとは聞きましたが........」
「最初は困惑していたけど、納得していたよ。最後の言葉が決めてになったみたい」
魔王様が“勇者さらっちまおうぜ!!”と計画を立てたことは、もちろんアランにも伝えてある。
魔王から許可を貰ったし、結局のところアランがどうしたいかが重要なのだ。
最初は“理想の勇者像”と大きく違う事は勇者としてどうなんだと真面目に悩んでいたが、“お前は誰を守りたいんだ?”と聞いたところ即座に“ノアや村のみんな”と返ってきたのである。
そこでアランも決心が着いたのだろう。
そもそも、勇者という職業が必ずしも自分の生まれた国を守るための存在としている訳では無い。
誰の勇者になりたいのか。誰を守り何を成すのかは勇者自身が決める問題だ。
そもそも、勇者1人に全てを背負わせるのは間違っている。魔王の言葉を聞いて、俺もそう思った様にアランも勇者が何たるかを悟ったのだ。
「では、向こうも協力してくれるという方針で行きます。彼への連絡は頼みましたよノアくん」
「任せてくれ。バレないように上手くやるさ」
次いでに、王都にあるアラン強化パーツも貰っていこうかな。
アランに必要な物が王都には幾つかある。流石に王宮にある物は取りに行けないが、普通に買える物は買っておこう。資金は潤沢に貰ったし、俺が使うアイテムも幾つかあるからな。
俺はアランに会う日を少し楽しみにしながら、今日の宿をエリスと共に探すのであった。
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