ただいま


 英雄達の凱旋も終わり、俺は少し早めに宴を抜け出して我が家(仮家)に帰ってきてきた。


 レオナや魔王軍幹部たちとワイワイ騒ぐのも好きと言えば好きだが、やはり長年一緒に暮らしてきたニーナやシスターマリア達に会いたい。


 街に帰ってくるまでの間はアランの事を見ていたが、アイツ俺が視界を切りかえた時にはずっと俺(召喚した小鳥やネズミ)と遊んでたからな。


 エルベスに召喚物だとバレないようにはしていたが、そんなにニヤついてるといつの日かバレるぞ。


 そんな事を思いながら家の前にやって来ると、つい先程まで兵士達の輪の中に混じって騒いでいたはずの魔王の姿が見える。


 馬鹿な。なんでこの問題児がここにいるんだよ。


「くはは。妾がここにいることがそんなに不思議か?この国の新たな英雄に妾自らがお褒めの言葉をくれてやろうと言うのに」

「正直要らないね。もう、多くの人から貰ったから。言葉よりもお金が欲しいよ」

「くははははははっ!!正直で何よりだ。金については問題ない。後でたんまりとくれてやろう。魔王国の金庫は意外にも潤沢での。妾が財務の者と掛け合って限界まで報酬を引き上げてやる。正しき仕事に正しき対価を。それが魔王国じゃからの」

「それは有難いね。これでこの家を離れても暫くお金に困ることは無いだろうし」

「くはは。お主は優しいのぉ。これでは大人の立つ瀬が無いでは無いか」

「そうかもね。それで、なんのよう?」


 俺はそう言うと、魔王は懐から1本の杖を取り出す。


 それは、支給されただけで俺のものになった訳では無かった“森羅万象の杖”であった。


 宴が始まって直ぐに、無くしたらやばいと思って魔王に返したのだ。


 あのぶっ壊れエンドコンテンツ武器を無くしましたとか言った日には、割とマジめに魔王に殺されそうなので。


 魔王は“うむ!!”とだけ言って受け取っていたが、まさか返しに来るとは思わなかったぞ。


「あの場では受け取ったが、これはお主にくれてやったものじゃ。今から取り上げたりはせぬよ」

「........いいのか?魔法使いが使えばとんでもない力を発揮できるはずだぞ?」

「くはは。よいよい。こんなもの無くとも、魔王国軍の魔法使いは強いのでな。此度の報酬とでも思っておけば良い」


 正直、この武器は死ぬほど欲しかった。


 ノアの最強装備フルビルドの一つにして、メインストーリーが終わらなければ決して手に入らないはずのエンドコンテンツ武器。


 断る理由があるはずもないので、俺は大人しくその杖を受け取る。


「........後で返せって言っても返さないからな」

「くはっ!!妾がそんな事言うわけなかろう。報酬としてくれてやったのだ。その杖は今この瞬間からお主の物じゃよ。それと、ご苦労であった。此度の戦争の活躍........大義であったぞ。妾も死した兵士の遺族に頭を下げに行く必要もなかったし、何も考えずに騒げたのはお主のお陰じゃ。魔王国を代表し、この王たる妾が最大限の礼を言おう。ありがとう。小さき戦士【骸の王】ノアよ」


 魔王はそう言うと、珍しく真面目な顔で頭を下げる。


 一国の王が頭を下げる。それは、国が頭を下げると同義だ。


 魔王は今、この魔王国そのものの意志を持ってして俺に頭を下げているのである。


 俺は、困惑しながらも素直にその礼を受け取った。


「........今後も守るよ」

「ふはっ!!くははははははっ!!この国を守る英雄の誕生か?今日は実に愉快じゃのぉ!!長々と引き止めて悪かった。可愛い妹と母達が待つ場所へと帰るがいい。妾も暇なんでついて行くがな!!」


 ちょっと格好付けすぎた俺に笑う魔王はそう言うと、俺の背中を押して強引に扉を開かせる。


 バン!!と扉を開くと、そこには綺麗な飾りつけがされた部屋と様々な料理、そして笑顔で俺を出迎えてくれる村人達がいた。


「にぃに!!おかえり!!」

「わっ........急に飛びつくなよニーナ。危ないじゃないか」


 我先にと俺に飛びついてきたニーナを受け止めつつ、俺はニーナを抱っこしてやる。


 少し見ない間にまた背が伸びたのか、少しだけ大きくなったニーナは嬉しそうに俺の顔を見つめた。


「にぃに、すごく活躍したって。魔王様が言ってた」

「くははははははっ!!今回は誰から見てもノアの一人勝ちよ!!たった一人で四万の軍勢を相手にし、その半数以上を退けた英雄たる行いであった!!」

「にぃに、カッコイイ!!」


 久々に俺に会えたのが余程嬉しかったのか、かなりテンションの高いニーナ。


 そんなニーナに構ってやっていると、その隣からブラッド兄さんがニヤニヤしながら俺を小突いてくる。


「英雄様になった気分はどうだ?俺達も凱旋パレードを見に行ったが、凄かったな。“姫様!!姫様!!”って」

「その名前で呼ばないでね兄さん。割とマジめに落ち込むから」

「ハッハッハ!!英雄様も姫様呼びには耐えられんか!!ともかく、お前が無事でよかったよノア。アランもきっとお前の勇姿を見たかっただろうぜ」


 そう言ってポンポンと二回頭を叩いたブラッド兄さんは、笑いながら子供たちの面倒を見に戻る。


 アランのやつ、今俺の召喚した小鳥やネズミを見て気持ち悪い笑を浮かべてるよ。


 とは流石に言えないので、俺は適当に笑って誤魔化した。


「お疲れ様でしたノアくん。とても心配しましたよ」

「ただいま。シスターマリア。心配をかけてごめんさない」

「ふふっ、全く思ってもないことを言うもんじゃないですよ。どうせノア君の事ですから、“初めての戦争楽しかった!!”とか思っているのでは無いですか?」


 結構不謹慎な事を言ってくるシスターマリアは、普段以上に優しい微笑みを見せながら俺をニーナ事抱きしめる。


 ニーナは俺とシスターマリアにサンドイッチにされて、少し苦しそうであった。


「にぃに、シスターマリア苦しい」

「俺に言うな、シスターマリアに言ってくれ」

「ふふっ、久々に2人を抱きしめたから少し力が入ってしまいましたよ。おかえりなさいノア君。そして、お疲れ様でした」


 その後も、次々と“おかえり”と言われていく。


 本来であれば既に死んでいるはずのキャラクター達。しかし、俺が全ての未来を変えたのだ。


 この光景は、決してゲームを外からプレイしていた側からは見ることが出来なかった景色であろう。


「お、間に合ったか?ノア、途中で抜けるならそう言ってくれよ。一緒に行こうとして探しちまったじゃないか」

「そうですよ。というか、魔王様までいるんですか。帰ってくれていいんですよ?」

「........魔王様は要らない」

「ガハハ!!確かにこの馬鹿は要らんな!!大抵こういう時の宴にいる時はロクな事がない!!」

「魔王様、お帰りはあちらです」

「みんな酷いよ。魔王様だってみんなと一緒に楽しみたいはずだよ........でも正直帰って欲しいかも」

「おいおーい?お主ら毎回妾の扱いが雑じゃぞー?もう少し心優しくしてくれてもよいだろうに。妾泣くぞ?この国たる王が泣くぞ?」

「「「「「「泣けば?」」」」」」

「うわーん!!聖母よ!!皆が妾を虐めるぞー!!」

「えぇ........」


 ガチ泣きする魔王に困惑することしか出来ないシスターマリア。


 この流れ前も見た覚えがあるぞ。確か、魔王に初めてであった時もこんな感じのことをやってただろ。


「魔王様、いつも扱い雑。帝王学の本に書かれていた理想の王とは真逆の存在」

「ニーナ?その帝王学の本って何?」

「ガルエルが持ってきてくれた本。多分、魔王城の書庫にあったやつ」


 おい、大丈夫かそれ。ニーナ、頼むから本を無くしたりするなよ?


 俺は、ようやく戦場から日常に戻ってきたんだな実感しつつ、この日は皆でワイワイと騒いで楽しんだのであった。

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