英雄の凱旋


 アランの気持ち悪いニヤケ顔を見せつけられてから二週間と数日後。戦争の英雄達は魔王城が聳える街へと帰ってきた。


 戦争の結果は既に伝えられているのか、街の人々が総出で暖かく迎えてくれる。


 英雄の凱旋を祝う者たちの熱気は凄まじく、多くの人前で歩く事が初めてであった俺は気圧された。


「姫様ー!!ありがとー!!」

「姫様!!バンザーイ!!」


 何故か皆俺の事を“姫様”と呼ぶけどね。


 ホントに覚えとけよ魔王。いつの日かあのムカつく顔に一発ぶち込んでやるからな。


 ノアは成長したらカッコイイんだよ!!ちゃんとイケメンになるんだから、ひめさまとか呼ばせるんじゃねぇ!!


 心のなかではそう思いつつも、俺は満面の笑みで手を振ってくれる人々に手を振り返す。


 俺はこの人達の笑顔を守ったのだ。胸を張って、この道を歩くとしよう。


「凄いだろ?皆、ノアの勝利を祝ってくれてるんだ」

「凄まじい熱気だね。正直、かなりビビってるよ」

「ガハハ!!四万もの軍勢を前に一切怯まなかった“骸の王”と言えど、この民衆の声には怯むのか。可愛いじゃねぇか?」

「ちょ、やめろよ」


 民衆の声に気圧された俺を見て、ブロンズが笑いながら俺の頭を撫でる。


 俺は少しウザったそうにしながらも、その手を跳ね除けることは無かった。


「毎年戦争しているけど、ここまでの声援は初めてにゃ。ノアのお陰にゃるね」

「そうだな。ノアが居なけりゃ、今頃この声援の裏で悲しむ人達も多くいたはずだ。よくやったぞノア」


 ミャルもシャードも俺の事を褒めてくれる。


 一応理論上は最強のネタキャラなのだ。このクソッタレなストーリーをぶち壊す為に動いているのだがら、これぐらいはできないとね。


 そうして、俺達は魔王城へと入っていく。


 民衆の声は最後の最後まで鳴り響き、魔王国全体を揺らしているようにも聞こえた。


 そして、魔王城に入れば、今度は魔王軍の面々が俺達を祝福してくれる。


 ここまでの完勝は初めてだったのか、全員とても嬉しそうに迎え入れてくれた。


 また“姫様”コールが聞こえるが、聞こえないフリをしておこう。いつの日か、この声援が“ノア”に変わってくれるのを期待するしかない。


 そして、レオナを先頭に歩き続けると最後は魔王が出迎えてくれる。


 腰に手を当て、仁王立ちの魔王は普段のようなふざけた雰囲気では無くしっかりと“王”たる威厳を感じるものであった。


「第四魔王軍。ただいま帰還しました」

「よくぞ無傷で帰ってきた。妾はお主らのような配下を持てて幸せじゃ。特にノアよ。初陣でありながら、たった一人で四万の兵を退けたその戦果。素晴らしいぞ」

「ありがとうございます。魔王様。ですが、俺だけの力ではありません。長年この戦線を支えてきた魔王軍の戦果です」


 思わず、敬語が出てしまう。


 それほどにまで、魔王はちゃんと魔王をしていた。


「くはっ!!お主がそれを言うか。100点満点の返しであるな。さて、諸君。誰一人として欠けることなく帰ってきたこの国の英雄たちをもてなせ!!妾達魔王国の勝利を祝うのだ!!」

「「「「「「「うをぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」


 大地をも揺らす咆哮が魔王国に勝利をもたらす。


 今日は祭りだ。皆酒を飲んで騒ぎまくるのであろう。


 俺も少し楽しんだら家に帰ってニーナやシスターマリアに会いたいなと思っていたら、ニヤニヤと普段の魔王に戻った魔王が俺を見ていた。


 ........嫌な予感がするな。もう帰るか。


 そう思って逃げようとしたその時、魔王は俺の腕を掴んで無理やり壇上へと登らせる。


 そして、いつの間に取り出したのか、俺の肩には“本日の主役”と書かれたタスキが掛けられていた。


 本当にこのタスキが好きだね?所で、なんで皆黙って俺を見てるのかな?


「帰っていいですかね?」

「くはは。ダメじゃ」


 しかも、既に全員が飲み物が入ったコップを手に持っている。あまりにも準備が良すぎて軽い恐怖を覚えるレベルなんだけど。


 そして、マイクまで用意していた魔王は急に語り始めた。


 俺にジュースの入ったコップを押し付けながら。


 ねぇ、なんでマイクとかまで準備してんの?俺の意見はフルシカトですか?


「えー、今回のMVPである我らが姫、“ノア”が乾杯の音頭を務める。異論があるものは?」


 誰も何も言わない。


 たった一人で戦争を終わらせたというのに文句を言う奴がいたら、見てみたいものである。


 これは家に帰る時間が遅くなりそうだ。


「うむ。異論なし。というわけで、ノアよ。なんかこう、いい感じの音頭を頼むぞ!!」

「いい感じとか言われても困るんだけど?何を言えばいいのさ」

「それはお主のセンス次第よ!!ほれ、何が盛り上がる事でも言ってこい!!」


 んな無茶な。


 無茶振りされてしまい、マイクを投げ捨てて帰りたいと思うがここは魔王国。


 ノリと勢いで生きている魔王が“王”を務めるこの国で、そんなシラケる事をしたら大ブーイングを食らう。


 以前、ミャルの代わりをやった時も諦めただろ。今回も諦めて、かっこよく決めるとするか。


 俺は魔王からマイクを受け取ると、数秒の沈黙の後口を開いた。


 こういう時、長々と話すのは悪手。短く、それでいて盛り上がる言葉を言うのが正解である。


「我々の勝利だ!!乾杯!!」

「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」


 全員がコップを天へと掲げ、勝利を祝う。


 ベタな音頭だが、こういう時は定番の事をやるのが1番いいのだ。


 俺もコップに入ったジュースを飲み干すと、壇上から降りる。


 すると、魔王軍幹部であるガルエル達がニヤッとしながら寄ってきた。


「元気そうで良かったぜ。なあ?【骸の王】様?」

「ガルエルさん、ここ一ヶ月ほどはずっとノアくんが心配でウロウロしてましたからね。本当に目障りでしたよ」

「んな?!エリスだって心配してたじゃないか!!私知ってんだぞ?!態々占い師に今回の戦争の結果を訪ねに言ったことをな!!」

「は?!なんでそれ知ってるんですか?!ストーカーなんですか?!」


 そう言ってギャーギャー喧嘩を始めるガルエルとエリス。


 へぇ、サブストーリーでもかなり仲良さそうにしていた二人だが、こうして喧嘩をする事もあるんだな。


 何度目になるか分からないこの世界に来てから初めて見るキャラの一面に感動していると、少し呆れた目でガルエル達を見ていたザリウスが俺の頭を撫でる。


「おう!!ノア!!大活躍だったそうじゃねぇか!!全く、ウチの女幹部共は男って奴を分かって無いな?男ってのは、困難を乗り越えて強くなる生き物だってのによ」

「あはは、二人からしたら俺はまだまだ保護するべき子供なんだよきっと」

「かー!!分かってねぇ分かってねぇ!!男は生まれた時から立派な大人さ!!そうだろう?グリード」

「貴方も貴方で極論ですが、あながち間違ってないですね。男子三日会わざれば刮目せよという言葉があるぐらいです。男の子の成長は早いものですよ」

「それ、使い方間違ってるような........でも、僕も同じ意見かな。男の子の成長は早いからね。身長とかそういう話じゃなくて」

「エルは昔から見た目が変わらんものな!!その内ノアにも身長を抜かれると思うぜ!!」

「ザリウス?僕結構気にしてるから言わないでくれない?」

「おっと!!怒らせちまったか!!」


 ガハハと笑いながら、結構怖い顔をする(可愛い)エルの頭も撫でるザリウス。


 ほんと、いい兄貴分って感じでザリウスは接しやすいな。


「そうだノア。何か欲しいものとかお願い事はあるか?大抵の物は魔王様が用意してくれるだろうぜ。もちろん、俺たちに頼んだっていい。今回はお前が主役だからな!!」


 魔王に頼むものは決まっている。取り敢えず金とこの杖だけは欲しい。


 最悪杖はダメでも、皆が生活するために必要なお金はある程度欲しかった。


 金策とかやろうかな........魔王国にもモンスターは出てくるだろうし、片っ端から狩って売り飛ばしてやろうか。


 そして、ザリウスにも一つお願いしたいことがある。


「あー、それじゃザリウスに頼んでいいかな?」

「おん?なんだ?」

「モフモフさせて欲しい。その毛並み、絶対気持ちいいだろうし」

「........ぷはは!!いいぜ!!好きなだけモフモフさせてやるよ!!」


 こうして、俺はザリウスをモフる事に成功した。


 滅茶苦茶モッフモフで、とても触り心地がよく思わず寝てしまいそうになってしまう程、素晴らしい毛並みだったね。

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