完全崩壊
闇落ち回避
アランってあんな泣き方するんだな。
サンシタ王国軍との戦争で勝利を収めた俺は、村にやってきたアランを見て驚いていた。
ここは戦争の最前線。サンシタ王国軍と魔王国を隔てる砦の一室。
普通であれば他の人たちと相部屋になるのだが、子供が大人達の中に混ざって生活するのは息苦しいと配慮されたのか俺には個室が与えられていた。
“骸の王様と同室だなんて恐れ多い!!何より、レオナ軍団長直属の部下なのですから、個室でお休みください”とノリノリで言ってきた兵士たちの顔が忘れられないな。
配慮は感じられるが、悪ノリもある。それがこの魔王軍なのである。
「ま、お陰で誰にも見られずにアランと接触できたし問題ないか。原作のストーリーとも大分変わった展開になってきたな」
アランの性格を変えてしまった事により、本来この場に訪れるはずの王女リーシャが居なかったのは驚いた。
メインストーリーでは、何かとアランと一緒にいた王女。
空気が読めない箱入り娘なのだが、彼女は彼女なりの優しさを持って頑張ってアランを励まし奮い立たせる役である。
ポンコツすぎて毎度クソ面倒なクエストを持ってくるから嫌われていたが(俺も嫌いだった)、それでも人気ランキング11位に入れる程の存在なのだ。
村を滅ぼされ、シスターマリアのロザリオを見つけ怒りに震えるアランに声を掛け続け、そっとしておいて欲しいと言われてもなお諦め無かったその根性は素晴らしいと思う。
で、今回一緒に現れたのは恐らくエルベスと呼ばれる貴族の子供だ。
メインストーリーで彼と絡むのは相当後になるはずなのだが、何故かアランは彼と仲良くしている節が見られる。
一体何があったんだろうな?後で上手く聞き出せるといいけど。
現在アランはエルベスと一緒の馬車の中。俺達が生きていることを知って安堵の涙を流した後のアランを見て、“村の人達が消えて悲しんでいる”と勘違いしているのかかなり気を使ってアランに何も話しかけてないため情報が得られない。
アランもアランで俺の分身とも言える召喚物の小鳥と一緒に居られるのが嬉しいのか、エルベスから顔が見えないように下を向いてずっと小鳥をもふもふしていた。
エルベス君。君がものすごく気を使って何も話しかけないその男は、今気持ち悪ほどの笑顔を浮かべながら鳥さんをモフってるぞ。
しかも、匂いまで嗅いできやがる。
「ノア........」
ボソッと偶に俺の名前を呟くものだから、さらに勘違いが生まれる。
俺は少しだけエルベスに同情してしまった。
「これでアラン闇堕ちルートは回避出来たか。小鳥で頭を突いても反応がなかった時は焦ったけど、伝えたいこともある程度伝わってよかったよ」
俺は誰もいないその部屋でポツリとつぶやく。
ここで、大きく原作のストーリーを変えてしまった。
今後確実に役に立つ知識は、武器や防具、キャラの性能や魔法やスキルの効果ぐらいだろう。
メインストーリーの知識も多少は役に立つだろうが、あまり宛にしない方がいい。
アランの動き1つで全てが変わってしまうし、既に変わってしまっているのだから。
とは言え、次のイベントに向けて多少の対策はしておくつもりである。
備えあれば憂いなし。準備が無駄になったとしても、準備しておくことに意味はある。
「アランとコミュニケーションが取れるようになったのが大きいよな。これでやれることが増えたし、アランに伝えたい情報もやろうと思えばできなくはない。知能の低い動物しか召喚できないから会話は出来ないだろうけど、YESNOぐらいはできるからな」
俺はそう言いつつ、何度も何度もあちこちの視界を切りかえてサンシタ王国軍が砦の近くにやってきてないかを確認する。
戦争は俺達の勝利で終わったが、まだ冬が来ていない。サンシタ王国軍がトチ狂って、奇襲をしかけてくる可能性もあるのだ。
一応、第四魔王軍の兵士達が監視はしているが、戦争に絶対はない。
これだけ気持ちのいい勝利を納めたのだから、最後まで完璧にやり通すつもりである。
「異常は無いな。あるとしたら、アランが未だに小鳥をベタベタ触ってニヤけてるぐらいか。いつからアイツはあんな気持ち悪い笑顔を浮かべるようになったんだ?全く、親友の将来が不安だぜ」
俺はそう言いながら、今日も砦の掃除や兵士たちの手伝いをして徳を稼ぐかと思うと、部屋を出ていくのであった。
乱数の女神様に媚びるのは大事だからね。今回もそのお陰で助かったし。
【森羅万象の杖】
見た目は素朴な普通の杖。エンドコンテンツである魔王回廊と呼ばれる場所でなければ入手不可能(ゲームでは)
【自動Mp回復量50%増加】【魔法使用時の消費魔力35%軽減】【詠唱速度28%軽減】【使用魔法の与ダメージ67%】というぶっ壊れ性能をしており、エンドコンテンツで手に入る武器の中でも最上位に位置する。
更に、武器の固有魔法【
このバフは固有スキルにも影響し、ノアの固有スキルにもバフが乗る。その為、ノアの
魔王国のシンボルとも言える魔王城の横にポツンと聳える小屋。ここは、【
「くははははははっ!!妾の目に狂いはなかったか!!流石は妾だな!!」
魔王はサンシタ王国軍との戦争に関しての報告書を受け取ると、盛大に笑った。
初めから分かっていた結果だったが、戦果は圧勝。
魔王国建国以来の快勝であり、誰もがその勝利を称えることだろう。
しかし、魔王にとってそんなことはどうでもよかった。彼女が笑ったのは、最後に添えられた一文である。
「ノアめ。妾の目を持ってしてもその名を見抜けなかった杖の力を十全に引き出したようじゃの?この妾ですら、使い方が分からなかった物を、10年ちょっとしか生きておらぬ小僧が使ったのじゃ」
初めてであった時から感じた違和感。魔王の目には、ノアがどうしても歪な存在に見えて仕方がなかった。
魔王軍幹部と知りながら交渉をし、召喚術士とは思えない速度と物量で全てを解決した少年。
魔王よりも多い魔力量は目を見張るものがあるが、それに釣り合わない魔法の数々。
そんなものはどうだっていい。問題は、魔王の目にはノアが世界の異端者に見えた事である。
レオナですら気づけない程微かな歪み。しかし、魔王にはその歪みがハッキリと見えていた。
「あの杖を使えた。それだけで妾は十分じゃの。しかし、本当に面白い男じゃ........ところで【骸の王】とは随分と不敬な二つ名を与えられたのぉ。あヤツらが言っておる姿が目に浮かぶわい」
本来、その国で“王”の名を冠するのを許されるのは王家の者のみ。魔王に跡取りはいないので、魔王国では“王”と名乗れるのは一人しかいない。
が、魔王国は良くも悪くもノリがいい。
どうせ誰かがそれっぽい事を言って、みんなが“お、いいねぇ!!”と賛同したが故に決まった名前なのだろう。
実に魔王軍らしい二つ名の出来方だ。
魔王は兵士たちが楽しそうにノアに二つ名を付ける姿を想像して、クスリと笑う。
「くはは。全く、困った奴らじゃ。妾以外の者に“王”を名乗らせたら、国が二分するかもしれぬぞ?まぁ、そんなことは無いだろうがの」
魔王はそういうと、報告書をバインダーに挟んで棚に戻す。
普段滅茶苦茶やっている魔王ではあるものの、王としての仕事はしっかりと果たしていた。
「さて、妾はガルエルとエリス辺りをからかって来るかの。今日は新たに思いついたイタズラを試してやらねばならぬ!!魔王たる威厳を見せてやるぞー!!」
魔王リエルはそう言うと、ニヤニヤと笑いながら自分の家を飛び出すのであった。
後書き。
第三章開幕‼︎と共に、申し訳ありませんが明日から一日一投稿にさせて頂きます。流石にストックが厳しくなってきたので。
ですが、できる限り毎日更新(0時ごろ)は続けるので、応援よろしくお願いします。
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