理論上最強(笑)vsサンシタ王国軍 3


 サンシタ王国軍の行く手を阻み続ける魔王軍の砦。


 その砦は防衛がしやすいように山の中腹に建てられており、今回の戦争を上から見下ろすことが出来た。


 今回新たに魔王軍に入ってきた少年。どこの部隊にも属すことなく、特例として一人部隊として第四魔王軍に入隊してきたノアの実力を砦にいた彼らも目撃する。


 戦争が始まると同時に溢れるスケルトン達の波と、天から降り注ぐ剣の雨。


 たった一人で四万人を相手にし、互角以上に戦うノアの姿に第四魔王軍の面々は空いた口が塞がらなかった。


「........俺達要らなくね?」

「魔王様が彼を特例としてこの軍に入隊させるわけだわ。たった一人であの物量を生み出せる召喚術士だなんて、戦争ならほぼ一人で圧倒できてしまうもの」

「俺の知ってる召喚術士じゃないんだけど。あの数をあの速さで召喚できるなんて聞いたことないぞ」


 第四魔王軍の大隊長である第三大隊長バーサド(見た目は普通の人間。モブのため人気ランキング圏外)と第五大隊長カミル(足が蛇のようになっている“ラミア”と呼ばれる魔人族。人気ランキング32位)はそう呟きながら戦場を眺めた。


 左翼を初めに潰したノアは、その後スケルトンの軍を上手く動かしてサンシタ王国軍を小さく包囲しつつ殲滅を繰り返していく。


 更には、敵軍が逃げられないようにサンシタ王国軍全体を包囲。


 徐々に包囲網を小さくしながら、確実に敵軍の数を減らしているのが見て分かる。


 その手法は明らかに手慣れており、到底初めて戦場に立つ子供が出来るとは思えなかった。


「ただの子供では無いと思っていたが、これ程までの力を持っているとは驚きですな。戦術までしっかりとしているように見えます。レオナ軍団長と肩を並べる強さと言っても過言では無いですよ」

「ゴード爺さんもそう思うか?数とは力だ。たった1人で何千何万物相手をするのは疲れるからな。魔王軍幹部達は別だろうが、すくなくとも俺達よりは強いぜ」


 第四魔王軍第一軍大隊長ゴード(人気ランキング圏外)は、常識では考えられないほどの量のモンスターを召喚したった一人で戦い続けるノアを見つめる。


 魔王軍は子供が戦場に立つ事を良しとはしない。魔王もそれは同じだろう。


 しかし、それでも彼を戦場に出したのはなにか理由があるはず。


 そう思ってノアのことを見ていたが、これ程までに規格外だったとは予想もしていなかった。


 魔王様もとんでもない人材を引き入れてきたものだ。そう思いながら、ゴードはこの後のことを考える。


 今回の戦争はどう見てもノアの功績が大きい。となれば、彼のためになにかしてやるのが、第四魔王軍としての礼儀である。


 その日もっとも功績が高かった者には、何かしらの褒美があるというものだ。


「........パーティーでもやるか?なぁ、カミル。子供ってパーティーとか喜ぶものかね?」

「喜んでくれるんじゃない?私の子は、誕生日を祝ってあげるとすごく喜ぶわよ。“ありがとうママ!!”って言われた日には、嬉しさのあまり寝れなかったわ」

「相変わらずの子煩悩だな。でも、いいんじゃないか?と言うか、物資が限られたここでできることなんて、パーティーぐらいしかないだろ。デカデカと“祝勝会”と書いた弾幕と、“本日の主役”タスキ用意して騒ごうぜ」

「ふむ。そうですね。ちょっとしたゲームとかも考えておきましょうか。さすがに第四魔王軍全員で行えるゲームは無いですが」

「その前に、ノアくんを応援しなきゃ。私の子とそう変わらない子が戦場で頑張っているんだから」


 祝うにしても、先ずは勝ってから。


 大隊長達はそう思い、再び戦場に目を向けるとスケルトン達が一気に輝き出す。


 一瞬、自分たちの目がおかしくなったのかと思ったが、スケルトンが本当に輝いているのだ。


 そして、それと同時に戦線が少しづつ崩れ始めていく。


“森羅万象の杖”を装備することで使える魔法“森羅万象、我ここにザ・デウス”をノアが使用し、スケルトン達の全ステータスを10%バフしたのである。


 所詮は序盤のザコ敵。後半になればなるほど強いこの杖の魔法で得られる力は各々小さいが、それが軍隊となると話は変わる。


 与えるダメージが1から2に増えるだけでも、均衡は崩れ去るのだ。


 徐々に有利になっていくスケルトン軍。心を持たず、死を恐れずして敵に向かってくるスケルトン達に恐れを感じた兵士達が背を向けて逃げ始める。


 そして、恐怖は伝播し、やがてサンシタ王国軍の陣形は完全に崩れてスケルトンが背中を追うようになり始めた。


「終わったな。勇者が暴れるんじゃないかと心配していたが、この物量と空から降ってくる剣の影響でまともに弓を射ることが出来ない。完全に封殺されちまったぞ」

「あのレオナ軍団長相手に時間を稼げる勇者がここまで何もさせて貰えないなんて........相性の差もあるんだろうけど、馬鹿げた強さをしているわね」

「確か、レオナ軍団長との模擬戦ではかなり苦戦を強いられていたと聞きましたし、このような距離のある戦いでないと本来の力が発揮されないのでしょう。逆に言えば、距離さえ取れればノアの独壇場という訳です。全ての攻撃をものともせず突っ込んでくるブロンズのような相手とは相性が悪そうですが」

「いや、ブロンズも普通にタコられてたらしいぞ。“突進しても足が早すぎて逃げられる”って言ってた。シャードも“そもそも追いつけないから無理”って言ってたな」

「........レオナ軍団長は足も早かったですね。ノアくん足の速さが分かりませんが、レオナ大隊長とは本当に相性が悪いようです」


 兵士の心を折った事により、一気に有利になったスケルトン軍。


 ノアは逃がすまいと追加でスケルトン軍を召喚しつつ、逃げ道を塞ぐように剣の雨を降らせ続ける。


 森羅万象、我ここにザ・デウスのバフが乗ったスケルトン達が追撃を続け、一人一人確実に戦場の地を赤く染め上げさせた。


 その姿は死を告げる死神のようであり、大隊長達と一緒に戦場を眺めていた1人の兵士がポツリと呟いた。


「骸骨達を従え、王のように君臨する死の宣告者........【骸の王】。骸の王がこの戦場に生まれたんだ........!!」


 奇しくも、その名はテナッドが呟いた言葉と同じであった。


 無数のスケルトンを召喚し続け、敵を蹂躙する骸骨達の王。その姿は正しく玉座に座る王の如く。死を宣告し、命を刈り取る骸にふさわしい。


 ポツリと呟かれたその二つ名は、第四魔王軍の中で一気に広がる。


 ノリの良い彼らは、こういう話の広まり方が異常に早いのだ。


「【骸の王】か。確かにこの光景を見たらその名前がいいよな。ノアくん、男の子だしカッコイイ感じの二つ名でいいんじゃないか?」

「何故か“姫様”って呼ばれてるもんね........いいんじゃない【骸の王】。魔王様はほら、何かと問題ばかり起こすし、もう1人ぐらい王がいても問題ないでしょ」

「そうだな。それがいい!!今日からノアくんの二つ名は【骸の王】だ!!」

「【骸の王】!!万歳!!」

「新たなる英雄に万歳!!」


 誰もが同じことを思い、それ以上に相応しい名は無いと思ったのだろう。この日からノアは【骸の王】という二つ名を手にしたのである。


“理論上最強(笑)”とユーザーから付けられた名前ではなく、ノアがノアとしてこの世界で生きた証となるその名。


【骸の王】。


 これが、ノアの新たな名前となる。


 そして、戦争が始まってわずか一日足らず。


 戦力差四倍の軍を持ちながらもたった一人の王に蹂躙されたサンシタ王国軍は敗走し、第四魔王軍が勝利の雄叫びを上げるのであった。

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