理論上最強(笑)vsサンシタ王国軍 2


 ヘルオブエデンは魔王国とリバース王国の戦争を描いたストーリーであり、もちろん戦争フェーズが存在する。


 メインストーリーではアランが無双して終わることが多いが、二週目からはノアの独壇場となる。


 理論上最強が唯一輝くのが、正しく雑魚敵が多く集まり戦う戦争であった。


 圧倒的な数による暴力で敵軍をねじ伏せ、こちらの損害を一つも出さずに勝つ。


 ゲーム終盤にもなるとモブ敵だろうがHPが多くなるので少々厳しくなるが、まだ敵が強くならない序盤の戦争ほどノアは輝く。


 そして、今回はそのケースであった。


「........これ、1人で全部終わらせれるんじゃないか?」

「模擬戦を何度かしていた時も思ったが、ノアの召喚魔法があまりにも早すぎるぞ。しかも、これだけの数をほぼ同時に召喚できるのはおかしい。魔王様が“心配するな”という訳だ」

「んにゃ。ちょっと引くにゃ。ノア、強すぎにゃ」


 大して鍛えてもいない鎧に着られた兵士達を、次から次へとなぎ倒していくスケルトン達。


 もちろん、スケルトンも兵士たちに壊されていくが、壊す速度よりも召喚されるスピードの方が圧倒的に速い。


 更に序盤最強戦術である“剣雨”まで混ぜれば、四万の軍勢だろうがたった一人で戦う事が出来るのだ。


 まぁ、1人でも強い敵がいると全て崩壊するんですけどね。


 俺は、空に飛ばした鳥達の視界を素早く何度も切りかえながら、戦線に穴を作らないように徹底的に相手を飲み込んでいく。


 剣を召喚して相手の足を止めさせ、その隙に溢れんばかりのスケルトンを配置。そして、目の前の敵を倒すように指示を出す。


 あーやばい。やることが多すぎて頭がおかしくなりそうだ。


 何度も何度も視界を切り替えながら、的確に相手にダメージを与え続けるのは結構疲れる。


 ゲームの頃はターン制だったのでゆっくりと考えられたのだが、この世界には一時停止ポーズもなければターンもない。


 リアルタイムストラテジーゲームのように、常に考え動き続けなければならないのはかなりの負担となった。


「すごい集中力にゃる。私たちの声が欠片も届いてないにゃるよ」

「そりゃあれだけの魔法を使ってるんだ。極限まで集中しないと、手元が狂うんだろ。少なくとも、俺には無理だね」

「俺も無理。戦場の中を駆け巡っていたとしても、絶対に何処かで集中力が切れちまう。程よく力をぬくのが最適だよ」

「........」


 外野が何か言っているが、それに反応する余裕は無い。


 常に状況が変わり続ける中で、俺は最適解を導き出し続けるしかないのだ。


 あぁ、くそう。


“森羅万象の杖”の“使用魔法の与ダメージ67%増加”が召喚魔法にも適応されてくれたらもっと楽だったのに!!


 召喚魔法で召喚したモンスターは、ゲームの仕様上この効果を受けることが出来ない。代わりに専用の魔法があり、それを使うと召喚したモンスターが強化されるのだ。


 しかし、残念な事に俺はそれを使えない。


 序盤の魔法と最強の固有スキルだけで戦わなくてはならないのが、ノアの辛いところである。


 ノアの最強装備フルビルドなら、もう少し火力を上げられるんだけどなぁ........あの装備は別大陸にあるし何よりダウンロードコンテンDLCから追加された装備なので、現状手に入れるのは難しい。


 正直、“森羅万象の杖”も手に入れられるとは思ってなかったからな。


「........凄い」

「一人軍隊にゃる。これ、ノアだけでひとつの戦線を維持できるんじゃないにゃるか?」

「第七魔王軍の出来上がりか?いいなそれ。たった一人の軍団長とかかっこいいし」

「いや、ノアが過労死するぞそれ........今も相当な集中力を使って戦っているし、何より何日も戦闘を続けるのは厳しいだろ。まだ子供だぞ?」

「そういえば“姫様”だったな。こんな姫が居たら、怖すぎるが」

「全くにゃるね。しかも、“にゃ”の一言で魔王軍を悩殺できるにゃる........ハッ!!実はノアが一番の驚異では?!」

「うるさい!!黙って!!」

「「「........ごめんなさい」」」


 あまりにも煩い外野に、思わず大きな声が出てしまう。


 本当に黙って。俺、今滅茶苦茶集中してるから。


 よし、左翼を上手く潰せた。ここはこれ以上の戦力を出す必要は無いから、視界を共有する回数を減らして、残りは後ろからの奇襲に使わせてもらおう。


 レオナの話ではサンシタ王国の勇者もここに居るらしいが、上手く潰せるだろうか?




【リアルタイムストラテジー】

 コンピュータゲーム(主にパソコン向け)のジャンルの一つ。ストラテジーゲームの中でも、命令および行動の順番が明確に決まっているターン制ストラテジーゲームとは違い、プレイヤーはリアルタイムに進行する時間に対応しつつ、プランを立てながら敵と戦う。




 予想外の戦力に苦戦を強いられるサンシタ王国軍は、遂に彼女を使うことを決めた。


 本来であれば、レオナを止めるために温存しておきたかった切り札であるが、骸の王の進行が早すぎるので使わざるを得ないのだ。


「頼みました。ジュナイダー」

「わかってる。あの子供を射抜けばいいんでしょ。子供を殺すのは少々気が引けるけど、戦場に出てきている限りはあの子もまた“戦士”。同じ戦士として、君を殺そう」


 サンシタ王国の勇者“ジュナイダー”。


 彼女は卓越した弓使いであり、アランとはまた違ったタイプの勇者である。


 彼女は派手に装飾された弓を構えると、魔法を使って矢を作り出す。


 魔弓士と呼ばれる、魔法と弓を併せ持った職業のみが使える魔法“七本の矢セブンレイ”。


 その中でも長距離狙撃に優れた矢を具現化したジュナイダーは、静かに弓を引くと狙いをノアに定めた。


「........いけ」


 距離は凄まじく遠い。少し風を読み違えるだけで、矢は狙った場所から離れた場所に落ちてしまう。


 慎重に、されど大胆に。


 長年風と共に戦ってきたジュナイダーは、風を読み切って矢を天に放つ。


 放たれた矢は天高く登り続け目に見えないほどまで行くと、今度は重力に従って下へと落ちていく。


 このまま行けば、簡単に脳天を貫ける。


 完全な死角から放った矢の為、魔王軍の誰もが気付いていない。


 討った!!


 そうジュナイダーが確信したその時、理論上最強への審判が下される。


 風は読み違えてないが、彼女は空に飛ぶ鳥の軌道までは考えていなかった。


 そして、それは理論上最強への幸運を引き寄せることとなる。


「........へ?」


 グサッと刺さったのは、矢の落ちていく軌道に入ってしまった1羽の鳥。しかも、少し大きめの鳥で、矢に引っかかってしまう。


 長距離狙撃は緻密な計算によって行われるものだ。


 このような異物が紛れ込めば、矢の軌道は当然変わる。


 フラフラと落下していく矢と鳥は、ポトリと理論上最強の前に落ちて脳天を貫くことは無かった。


 まるで天が彼を生かしたかのように。矢は意図しない部外者に阻まれたのである。


「........もう1回。今度こ──────」


 次は外さない。今回は運がなかったが、次は必ず当たるはず。


 そう言って再び矢を魔法で作ったジュナイダーだが、それを許すほど理論上最強も甘くない。


 落ちてきた矢の位置から大凡の場所を把握したノアは、その周囲一帯にスケルトンを召喚しつつ剣を降らせる。


 こうなってしまえば、矢を放つ所ではない。


 狙撃手が場所を把握されてしまったら、ただの的なのだ。


 特に、勇者の中でも耐久力が低いジュナイダーにとっては、この剣の雨は致命的な攻撃に成りうる。


「クソッ!!」


 自らに降り注ぐ剣の雨を迎撃するジュナイダー。戦争が終わるその時まで、その雨が止むことは無いだろう。

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