理論上最強(笑)vsサンシタ王国軍 1
その日は、雲ひとつ無い晴天であった。
今日この地に血が流れることを理解しながらも、今回の戦争の責任者である貴族の1人テナッドは馬の上で魔王軍の砦を見つめる。
もう何年目になるだろうか。貴族たちが民衆に支持されるために行っている戦争。
恒例行事と化したこの戦争は、今日も普段通り双方痛み分けで終わるはずである。
しかし、嫌な予感が拭えない。
彼は、勘が冴える方であった。
「伝令!!」
そんな嫌な予感を感じいてると、伝令がやってくる。このタイミングで伝令が来たということは、まず間違いなく魔王軍が動いたのだろう。
テナッドは“聞くまでもないよな”とは思いつつも、いつものように伝令の言葉を聞く。
「何があった?」
「魔王軍が動き出しました!!........のですが、少々普段とは違いまして」
「ん?」
普段とは違う報告。今思えば、この時不名誉な称号を背負ってでも彼は逃げ出すべきであった。
今回の魔王軍には、理論上最強が居る。しかも、2つの神器を携えた、本物の化け物が。
だが、彼が、彼らが今それを知る由もない。
その絶望は、もう少し後になって気づくものである。
「何が違う?」
「普段であれば約一万程の軍勢がやってくるのですが、今回はたった5人しか来ておりません。【戦舞】レオナの姿が見えますので、確かに魔王軍のはずなのですが........」
「五人だと?他の魔王軍の者たちは何をやっておるのだ?」
たった五人で四万もの軍勢を相手にするなど馬鹿げている。確かにレオナは一騎当千の力を持っているが、サンシタ王国にも対抗すべき手札はあるのだ。
アランと同じく、“勇者”でありながら、弓の名手“ジュナイダー”。
ゲームでは名前しか出てこないモブではあるものの、その強さは魔王軍幹部にすら匹敵すると言われている。
事実、戦場で暴れるレオナを食い止めるのがジュナイダーの役目だ。その凛とした姿から、兵士たちの人気も高く気高き女性だとしてテナッドも敬意を払う程である。
「偵察隊の情報によれば、そのほかの魔王軍は砦の中にいるとの事です」
「本当に五人で我々の軍と戦うつもりなのか?他の4人は誰だ?」
「【猫指揮者】ミャルと【陰の侵略者】シャード、【突撃無双】ブロンズは確認できましたが、最後の一人だけが分かりませんでした。おそらく、人間の子供です」
「........人間の子供か。一体何がしたいのか分からんな」
3人は何度も戦場で戦ったことがある。的確な指揮をし、効率的に軍を動かす指揮者ミャルに、戦場の中でも気配を消し敵を暗殺するシャード、そして、目の前にある全てをなぎ倒すブロンズは、サンシタ王国軍の中でも有名な魔人族だ。
しかし、人間の子供の話は聞いたこともない。
一体何がしたいのか。何が狙いなのか分からないが、相手がその気ならこちらは応じるのみ。
テナッドは横に並ぶ兵士達の間を通り、戦場の中心部まで行くとレオナが来るのを待つ。
この世界では、戦争を行う前に必ずお互いに“宣戦布告”をしなくてはならない。
これは、1種の礼儀でもあり、これを破った側の国は何をされても文句が言えないとされている。
ある種の停戦状態であったサンシタ王国と魔王国の戦争再開。
この最低限の礼儀は、魔王からクズと言われるリバース王国ですら守っている。
「気でも狂ったか」
「........」
出来れば二度とみたくない顔を合わせつつ、テナッドは口を開く。
しかし、レオナは何も答えない。
テナッドは無口な戦士だと勘違いしているが、レオナはただ単純に何を話したらいいか分からないから困っているだけであった。
「ふん。まぁいい。貴様ら魔王国に宣戦布告する。大人しく降伏すれば、命だけは助けてやろう」
「断る。失せろ」
お互いに言いたいことを言い、自軍の陣地に戻っていく。
魔王軍が何を策略しているのかは知らないが、全て踏み潰してしまえば問題ない。
たった五人で四万を相手に出来るほど、戦争は甘くは無いのだ。
自軍に戻ってきたテナッドは、全ての将軍に指示を出す。
これが戦争の引き金。打ち出された弾丸は、相手を貫くか壁に阻まれるまで突き進む。
「やれ」
「全軍!!突撃!!」
総勢四万の兵士達がその言葉を聞き、走り始める。
相手はたったの五人。数で圧倒すれば全てが終わる。
地面を強く叩く足音。多くの兵士たちが突撃をしていく中、テナッドは見た。
小さな体とハイライトの消えた目。確実に相手を殺す事しかし考えていないその少年を。
あまりに遠すぎて顔なんて見えないはずなのだが、何故かテナッドにはその少年の顔が良く見えた。
その目はまるで深淵。ここにある全てを飲み込んでもなお底が見えぬ闇の中。
この瞬間、テナッドは“死”を覚悟した。
アレは人がしていい目ではない。殺気は感じないのに、死神の鎌が首筋に当てられている気分になる。
「ここも危な───────」
“ここも危ないかもしれない”。そう言いかけたその時、理論上最強が牙を剥く。
ガシャガシャガシャと、骨がなる音。
瞬きをするよりも早く現れたスケルトン達が、戦場の全てを埋め尽くす。
「........は?........は???」
訳が分からない。
どんな魔法であろうと、これだけの数のスケルトンを一瞬で出現させることは不可能だ。
その数は四万の軍にも負けず劣らず。否、それよりも断然に多いようにも見える。
テイマーか?
否、テイマーはそもそもスケルトンなどと言う弱い魔物を配下に加えないし、これだけの数を用意するのに時間も魔力もかかりすぎる。
では、召喚術士か?
否、魔法の行使速度が早すぎる上に、幾ら消費魔力の少ない最弱の魔物と言えどこの数を召喚すれば即魔力が枯渇してスケルトンたちは姿を消す。
では、死霊術師か?
否、この戦場には多くの屍が眠っているだろうが、召喚術士と同じく魔力と召喚速度の問題がある。
では、この現象はなんなのか。
答えは簡単。
“分からない”
ただそれだけである。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
「なんだコイツらは!!」
「ゴフッ!!このスケルトン、強いぞ!!」
急に目の前に現れたスケルトン。人が突然止まることが出来ない。彼らは、自然の法則に従ってスケルトンの中に突撃をしていく。
が、急に現れたスケルトンへの対応が遅れたが為に兵士達は容赦なく殴られていく。
たかがスケルトンの攻撃。しかし、これほどの数ともなれば兵士達はバランスを崩して倒れ込む。
そして、倒れ込んだ仲間を兵士達やスケルトンは踏み潰すのだ。
全体重が乗ったその一撃は、容易に人を殺し生ある者を死者へと変える。
更にそこへ追い打ちをかけるように空からは剣の雨が降り注ぐ。
序盤最強戦術“剣雨”。
この広く、空への対抗もない戦場は理論上最強の男の独壇場であった。
降り注ぐ剣は兵士たちの体を引き裂き、当たりどころが悪いもの達はいとも容易く死んでゆく。
運良く剣の雨から生き残った者達も居たが、彼らはスケルトンの波に飲み込まれる。
一体何が起きたのかさっぱりだ。
だが、この事態を誰が起こしたのかは分かる。
レオナや古くから第四魔王軍に属するもの達の事はよく知っている。その戦い方や能力はしっかりと把握しているのだ。
となれば、この阿鼻叫喚の地獄を生み出したのは1人しか存在しない。
あの人間の少年。彼がたった一人で、四万もの軍勢を相手に戦っているのである。
「1人で軍を成す怪物........スケルトン達を率いる軍の長........!!【
あまたのスケルトンを率いる少年。“骸の王”。
彼の開いた死の門は、この四万人を飲み込むまで閉じることは無い。
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