行くぞ、我らの戦争だ
魔王国とサンシタ王国の最前線にやって来てから三日後。遂にその日は訪れた。
秋から冬へと変わろうとする肌寒い風が吹き荒れる中、サンシタ王国側の陣地には多くの人が展開しているのが見える。
正確な数は分からないが、レオナ曰くその数なんと4万。
一万ほどしかいない第四魔王軍の4倍近くの兵士たちが、この戦場に立っている。
しかし、レオナや第四魔王軍の面々が焦ることは無かった。
“数の不利は当たり前。魔王軍は常に劣勢の中で戦ってきた”。皆そう口を揃えて言い、事実この数百年の間国を守り続けている。
なんとも頼もしい兵士達だ。自らが“国を守る”と志願してきた人達なので、やる気が違う。
メインストーリーで見てきたリバース王国の兵士たちは、戦いたくなくても無理やり連れてこられた農民たちが泣いていた描写だってあった。
貴族達は自分たちのプライドを守る為だけに兵を集め、盤上の駒のように味方を切り捨てる。
戦争としてのあり方としては正しいのだろうが、魔王軍側を見てしまうとどうしても悪者に見えてしまった。
そりゃ勝てない訳さ。嫌々戦う兵士と、国の為に誇りを持って戦う兵士。
実力が全く同じ場合、どちらが強いかと言われれば圧倒的に後者である。そして、普段から訓練し一人一人の実力も違うとなれば、例え4倍差の戦力だろうが守り抜く事も出来るのだ。
「今日動くとレオナ軍団長から命令があったニャる。ノア、準備はいいニャるか?」
「問題ないよミャル代理軍団長。何時でもやれる」
「にゃはははは!!その姿で言われると違和感が凄いにゃるね。普段は何も持たず服も運動用のものしか着てなかったからビックリにゃる」
「俺も、態々こんなものが用意されているとは思わなかったよ。っていうか、この装備かなり高級品でしょ........」
「それだけ魔王様もノアには期待してるって事にゃる。頑張るにゃるよ!!まぁ、最悪失敗しても死ななきゃセーフにゃる。命あってこその金。命あってこその勝利にゃるからな」
ミャルはそう言うと、パシパシと俺の背中を笑いながら叩く。
“幸運のネックレス”以外の装備なんて正直必要ない(ゲームクリアまでは)ので、俺は今回の戦争もいつも通りの服装で戦う気でいた。
魔王国へとやってきたときに支給された衣服であり、なんの効果も持たない服である。
しかし、流石の魔王もそれでは格好がつかないと思ったのか、それっぽい装備を見繕ってきた。
まさか、一昨日に渡させるとは思ってなかったが、その服を着た俺は如何にも“術士”という格好である。
“風のブーツ”に“防刃のズボン”。“術士の上着”に“召喚術士のマント”、そして“森羅万象の杖”装備させられている。
服装は正直ゲーム中盤辺りで買えたり合成して作れる装備なのだが、この杖はやばい。
一見普通の木の杖に見えるのだが、ゲーム終盤になっても手に入れられるかどうかかなり怪しい超レア&ぶっ壊れ武器なのだ。
そして、ノアの
その分効果もモリモリであり、“自動MP回復量50%増加”“魔法使用時の消費魔力35%軽減”“詠唱速度28%軽減”“使用魔法の与ダメージ67%増加”とか言うイカれた性能をしている。
更に、武器固有の魔法も存在し、“
消費魔力がとんでもなく高い代わりに得られる効果のはずなのだが、これをノアが持つとヤベー事になる。
魔力量に関してはゲームの中でもトップのノア。ほぼ無限の魔力を使ってこのバフを掛けたらどうなるのか?
答えは簡単。全能力値が10%増加したスケルトン、スライム軍団が出来上がる。
しかも、このバフがノアの固有スキルにも乗るので、回避率60%とか言うクソゲーキャラが生まれるのだ。
本来ならばエンドコンテンツ“魔王回廊”と呼ばれる、無限に敵を倒し続けるコンテンツのラスボスを倒す事で超低確率で手に入る武器のはずなのだが........なんで魔王国にこれがあるんだ?
俺が原作ストーリーを捻じ曲げたのが原因なのか、それとも原作ストーリーでも既に魔王国にはこの杖があったのか。
もし、あったのであればなぜ戦争で使ってこなかったのか。
様々な疑問が残るが、ともかく手に入れれたのであればラッキーである。考察は後でしよう。
様々な考察が頭の中を巡る中、レオナが塔の広場にやってきた。
「ミャル。今から始める」
「了解ですにゃ。総員!!傾注!!」
ミャルがそう言うと、ザワザワとしていた広場の兵士達はピタリと声を止める。
お、これは知ってるぞ。
魔王軍には、その軍団によって戦争前に行う1つの儀式のようなものがある。
例えばガルエルが居る軍では、ガルエルが兵士達を鼓舞して場を盛り上げたりするのだ。
しかし、レオナは口下手。長々と語るのは無理である。
だから、第四魔王軍は静かに、そして鋭く自らを鼓舞するのだ。
「我々は今からサンシタ王国との戦争に入るにゃ!!皆、心してかかれ!!これより、レオナ軍団長より、お言葉があるにゃ!!」
しんと静まり返る広場。
皆が注目する中で、レオナはこの時のためだけに用意されている壇上の上に立つ。
「........」
「「「「「........」」」」」
無言が続く。普段とは違う張り詰めた空気がその場を支配する。
ゲームの中では感じられなかった空気感。これが、第四魔王軍........!!
レオナは腰から剣を1本引き抜くと、それを壇上に強く突き刺す。
ダン!!
そして、一泊置いて兵士達がその音に呼応するように各々の武器を地面に叩きつけた。
ダン!!!!
そして、再びレオナが剣を持ち上げて壇上に突き刺す。
ダン!!
ダン!!!!
ダン!!
ダン!!!!
計六回。地面に叩きつけた武器達は持ち主の覚悟を感じ取り、今日振るわれる事を誇りに思う。
そして、レオナが最後の一言で締め括った。
「........行くぞ、我らの戦争だ」
「「「「「「うをぉぉぉぉぉぉォォォォォォォ!!」」」」」」
空気を、大地を揺らす咆哮。
戦士達に与えられた鼓舞は天まで登り、この戦争への勝利を掲げる。
それぞれの持つ武器は天高く掲げられ、咆哮の音に共鳴して震え上がった。
これがゲームの中でも見た第四魔王軍の鼓舞。広場にいる兵士たちだけではなく、砦の中にいる兵士たちの声まで聞こえる。
カッコイイ。そして、ゲームよりもリアルだ。
かつて胸を打たれたこの光景を見ることが出来た俺は、彼らの一緒になって声を上げる。
その様子を見ていたレオナは、どこか満足そうであった。
「これが第四魔王軍の伝統だ。戦争前には必ず兵士達を勇気づけ鼓舞をする。どうだ?凄いだろう?」
「すごくかっこいいよ!!でも、出来ればやる前に教えて欲しかったかな。俺も一緒にやりたかったよ」
知ってても、その迫力に押されて出来なかったけど。
まぁ、そのお陰で、怪しまれないで済んでいるのだが。
俺がそう言うと、レオナは“しまった”という顔で固まる。
俺にこの光景を見せたいがあまり、伝え忘れてしまっていたようだ。
「........あ、済まない」
「いいよいいよ。次やる時は俺も合わせるから」
「にゃはははは!!1番やらなきゃダメな人がやってないなんて、幸先不安にゃるね!!もう1回やっておくかにゃ?ちょっと締まらないけど、ノアの為に見本を見せたってことで」
「........そうする」
その後、“今のはノアに見せるためのデモンストレーションだから、もう1回本番やるにゃるよ!!”というミャルの機転により、俺も混じって再び鼓舞をする事となった。
さぁ、戦争の始まりだ。理論上最強を舐めるなよ?
【魔王回廊】
ヘルオブエデンのエンドコンテンツ。ゲームストーリーをクリアした後のみ攻略可能であり、過去に出てきたボスたちと戦うことが出来る。下の階層に潜っていくほどボスは強くなり、ラスボスはレベルがカンストした上でガチガチのパーティーでないと勝てないレベルの強さ。
そんなラスボスを倒すと、確率でアイテムがドロップする。武器と防具はステータスの数値が完全にランダムに決められており(スキルや効果は固定)、ハクスラ要素になっている。理論値を狙おうとすると、どれほど時間があっても足りないとされている。
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