守るべき者


 少年時代のノアが、想像以上の破壊力を秘めていた事に気付かされてから二週間後。


 俺はサンシタ王国と魔王国の国境付近に聳える砦にやって来ていた。


 何百年と敵の進行を阻み続けてきた魔王国の盾はかなり立派であり、見る者を圧倒する。


 俺はここで約3週間ほど生活することとなる訳だ。


 秋の終わりごろから冬の始まりにかけて戦う短い戦争は、二週間ほどでまた停滞する。


 2週間ならやる必要なくね?とは思うものの、サンシタ王国からすれば“僕達は魔王国と戦っているんですよ”と言う格好を取りたいため戦わざるを得ないのだ。


 人気取りの為に戦争を使うなんて、ゲームの世界も地球もそう変わらないんだな。


 お前達のちっぽけな人気取りのために、一体どれだけの人が犠牲となっているのやら。


 ハッキリ言って、クソである。


 それでも戦わなければならないのが、兵士の辛いところだ。


「........私がいない間にキャラが奪われていたにゃる。ノア、実は私の人気を奪おうとしているにゃるにゃ?!」

「何度も言うけど、俺が自らやったわけじゃないからね?文句なら魔王様に言ってくれよ」

「だってだって!!この2週間ずっとみんなノアにベタ惚れにゃる!!男も女も関係なし!!しかも、その方法が私のモノマネだなんて、偽物が本物を超えたらそれはもうモノマネじゃないにゃる!!」


 砦の中で荷物の整理を手伝っていると、代理軍団長のミャルが半泣きで俺をポカポカと叩きながら文句を言ってくる。


 二週間前に行った“代理軍団長を体験してみよう”という魔王の思いつきで始まった、ミャルのモノマネ大会。


 本人以上の破壊力を持ってしまった俺は、その日から更に第四魔王軍の面々に担ぎ上げられ、あっという間にアイドルとしての地位を獲得してしまった。


 すれ違う度に“姫様”と呼ばれ、全員をノックアウトした“にゃ♪”を求めてくる。


 もちろん、俺は全力で拒否するのだが、あまりにもやってくれとコールが大きくなるとやらざるを得なかった。


 流石に最近は落ち着いてきたけど、1週間ぐらいは酷かったな........家に来た魔王すらも“やってくれ!!”と言ってきた時は本気で殺してやろうかと思ったほどである。


 可愛い妹分の前で、なんて事をやらそうとしてんだこのロリババァは。


 第四魔王軍所か、噂を聞き付けた魔王軍の人達にも求められたしな。


 第四魔王軍どころか、魔王城のアイドルにすらなっている気もするが俺は何も知らない知らない。気にしたら負けだ。


「アッハッハッハッハッ!!ミャルはもういい年齢だからな。ちょっとキツイんだよ。そろそろ辞めたらどうだ?」

「あ"ぁ"?ぶち殺すぞブロンズ。お前が熱心に口説こうとしている看板娘の子にある事ないこと吹き込んでやるからな」


 怖っ........


 ブロンズにデリカシーのない話をされ、ガチギレするミャル。元々、軍人達を纏める代理軍団長をやっている身だ。本気でキレた時の凄みは正直無言のレオナよりも怖かった。


 と言うか、ミャルってキャラを作ってたんだ。いやまぁ、確かに素で“にゃ”ってつけて話す人なんて居ないもんな。


 一体どんな経緯でそのキャラになったのか非常に気になるが、今その話を聞いたら俺にまで火の粉が飛んできそうなのでやめておく。


 俺は人の地雷原の上で踊る趣味は無いのだ。


「ちょ、ちょっと待てよミャル代理軍団長!!いや、ミャル代理軍団長様!!それだけはご勘弁ください!!今いい感じなんで!!ノア!!お前も見てな出て助けろ!!」

「んな無茶な。今のはブロンズが悪いよ。ミャルさん、やっちゃってどうぞ」

「にゃふふ。ココ最近生意気な部下たちを躾けるいい機会だにゃ。私がなぜ代理軍団長としてこのマントを羽織っているのか、しっかりと思い出させてあげるのにゃ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 一瞬にしてするりとミャルに関節技を決められ、悲鳴をあげるブロンズ。


 今回はブロンズがどう考えても悪いので、しっかりと罰を受けてください。


 そして、そのやり取りを見ていた他のもの達はそれを見て笑っていた。


 本当に楽しい職場だ。戦争の最前線だと言うのに、全くピリピリとした空気がない。


「........調子はどうだ?」


 南無。と心の中で唱えていると、後ろから声をかけられる。


 後ろを振り返れば、既に今日の天気デッキを使い果たしてしまって少し困り気味のレオナが居た。


「問題ないよ。皆緊張を解してくれるし、何より楽しいからね。ほら、今もブロンズがボコボコにされてるし」

「デリカシーが無いからな。よく殴られてる」

「あはは........だから女の人にモテないんでしょ。この前一緒にご飯食べてたら嘆いてたし」


 俺がそう言うと、レオナが驚いた顔で俺を見てきた。


 ん?何か変なことを言ったか?


「........食べてるのか?」

「うん。昼は魔王城の食堂を使うでしょ?ブロンズとかシャードとかとはよく一緒に食べるよ。ミャルは偶に一緒に食べるかな。お陰で食堂の使い方が分からずに困ることがなくて良かったよ」


 魔王軍に入ってすぐの頃、子供の俺を心配してくれたのかブロンズやシャードがよくご飯に誘ってくれた。


 魔王軍の食堂は基本無料であり、何かと貯金が必要な今はとても助かっている。


 夕食の時は、何故か当たり前のように居るガルエルとエリスが作ってくれているが。しかも、食料は自費らしい。


「........そ、そうか」

「?」


 目に見えて落ち込むレオナ。それ以上何も言わないので、本心が分からない。


 今の会話に落ち込む要素があったのか?


 俺も推しの気持ちを理解する能力がまだまだ足りないな。もっと精進せねば。


 俺はそう思いつつ、話題を変えることにした。こういう時は、話題を変えて話を続ける事でレオナとの会話を長引かせるのである。


「俺は今回どうなるの?」

「普段ならば自由にやっていいと魔王様に言われるのだが、今回は珍しく指示があった。どうも、ノアの実力を確かめたいらしい」


 お、かなりの長文が帰ってきた。やっぱり仕事の話になるとレオナも普通に話せるんだな。


 普通の会話が上手く繋がらないのは残念だが、それは今後の俺の頑張り次第ということで。


「という事は、俺も戦うんだね」

「そうだ。と言うか、ほぼノア以外は戦わない。魔王様は、ノアの召喚魔法にかなり期待している」

「それはそれは。魔王様の期待が熱い事で。失敗した時のこととか考えないのかな?」

「もちろん、その時の計画もある。が、注意書きに“ぶっちゃけ必要ない”とデカデカと書かれていたな。見るか?」

「いや、いいや。と言うか、それ見せちゃダメなやつでしょ」

「........そうだったな」


 一介の兵士に作戦書を見せるのはダメでしょ。俺は一人部隊という特殊な存在ではあるが、魔王軍の中では下っ端も下っ端ですよ?


 レオナも抜けているところがあるんだなと思いつつ、俺は戦争について考える。


 戦争。つまりは、人を殺す言うこと。


 襲撃イベントの時はできる限り殺さないように心がけていたがら今回は殺す気で戦わなければならない。


 それでも俺はやるぞ。俺は、“人殺しとかできないんだ!!”と言う綺麗事だけを言う系の主人公は嫌いなんだ。


 アランだって敵であれば人間だろうが普通に殺すし、この世界ではそれが当たり前。ならば、俺も順応するしかない。


 くよくよ悩むな。守りたいものを守る為ならば、手段を選ぶな冷徹になれ。


 戦場に出てきている限り、相手も死ぬ覚悟があると判断しろ。殺せ。手を抜くな。


「........ノア?」

「........ん?どうしたの?」

「........いや、なんでもない。ともかく、サポートはできる限りする。頑張ってくれ」

「うん。頑張るよ」


 そう言ってどこかへと消えていくレオナ。あぁ見えてもひとつの軍を纏める幹部だからやる事が多いのだろう。


「村の次は国が。守るべきものが大きくなり過ぎて困るぜ。なぁ、アラン。お前はこの重さを背負ってたんだな」


 俺はそう呟くと、ノックダウンさせられて死体となった(死んではいない)ブロンズを見て笑うのだった。






 後書き。

 ノア君カワイイヤッター回の反応が良くて嬉しいです。可愛いは正義だし、可愛い分、カッコイイが映える‼︎

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