にゃ♪
天真爛漫な魔王の提案により、一日代理軍団長をやらされる羽目になった俺。
第四魔王軍の面々は、“あぁ、今回はこれか”となれた様子で訓練場に集まり俺に視線を集める。
過去に何度もやっていたからなのだろう。誰一人として、今回のイベントに疑問を持っていなかった。
そして、魔王に代理軍団長押し付けられた俺は、なんかかっこいいマントを羽織らされた挙句“今日の主役”というタスキまで掛けられて壇上に立たされている。
あまりにも用意が良すぎる。さては魔王め、ミャルの妹が体調を崩したことを知って最初から計画していたな?
「お、魔王様がまた騒いでたから来てみたら、本当にノアが代理軍団長の代わりをやるのか。コイツは楽しみだな」
「昨日までカンカンに怒ってたのに、貴方って人は単純ですね。いいのですか?ノアくんを戦場に出して」
「あぁなった時の魔王様に何を言っても無駄さ。それに、本人がやる意思を見せていたらどうしようもない。未だに私は反対だがな」
「おー、ノアくんが代理軍団長ですか。初々しいですね」
「ガハハ!!あれじゃ、服に着られてるな!!頑張れよー!!ノア!!」
「が、頑張ってください!!」
魔王城内で魔王が言いふらしてきたと言っただけあって、魔王軍幹部はもちろんのこと、暇をしていた魔王軍の面々が訓練場にワラワラと集まってくる。
授業参観よりも緊張するんだけど........なんなのこれ。
フットワークが軽すぎる魔王軍達に呆れていると、俺の隣に立つ魔王がニヤニヤしながら1枚の紙を渡してきた。
「今日、皆の衆に通達する事項が全て書かれておる。今回は、これを読みあげよ」
「マジで俺がやるのかよ。どうなっても知らんからな」
「構わん構わん。失敗してもなんとでもなるからの!!それより、
「........」
態々念を押してくる魔王。そして、嫌な予感がしたので内容を見てみると、予想通り酷かった。
確かに通達事項はしっかりと書かれている。が、その語尾には必ず“にゃ”が付いており、最後の文には“みんな頑張るにゃ!!(猫のポーズで可愛らしく)”とすら書かれている。
ぶっ殺すぞロリババァ。
何が“猫のポーズで可愛らしく”だよ。俺は男だし、男がこんな事してたら生き地獄だろうが。
あれは、ミャルがやるから可愛いのであって、俺がやったらただの地獄なんだよ!!
「魔王様?1発ぶん殴っても?」
「クハハ!!別にやらなくてもいいぞ?やるまで何度もやらせるからな!!ちなみに、お主と仲の良いブロンズやシャードもやらされておるぞ。あれは傑作じゃった」
“やらされた”じゃなくて“やらせた”だろうが。
と言うか、あの筋肉ムキムキのブロンズやイケメンのシャードもやらされてるんかい。
チラリと2人を見ると、同じ苦痛を味わって欲しそうに俺の事をニヤニヤと見ていた。
マジで後で覚えとけよ2人とも。模擬戦で大量のスケルトンを出して音を上げるまで殴り続けてやるからな。
どうやっても逃げ場がない。俺は、最後の希望を持ってレオナに視線を向ける。
「レオナ軍団長........」
「........(グッ)」
助けを求めた子羊に、親指を立てて“頑張れ”と応援してくるレオナ。
いや、“グッ”じゃねーよ!!アンタもノリを合わせなくていい所で無理して合わせてくんなよ!!
逃げ場がない。こんな事なら、今日は仮病を使ってでも逃げるべきだった........いや、魔王のことだから多分仮病を見抜いて無理やり連れてくるだろうな。
仕方がない。こういう時に恥ずかしがってモジモジしていると、空気が悪くなってしまうことを俺は知っている。
この場所の空気が既に乗ってきている状態で、空気をぶち壊せる程のメンタルを俺は持ち合わせていないのだ。
号泣すれば話は別だが、それはそれで“姫様が泣いた!!”とか言われるだろうしここは覚悟を決めるしかない。
なんやかんや、俺も俺でこの状況を楽しんでいるのかもしれないな。
俺はゆっくりと深呼吸をすると、滅茶苦茶ノリノリで通達を始めた。
「諸君!!明後日の早朝に我々はこの城を出て戦場へと向かうにゃ!!今年も去年と変わらず睨み合いが続くとは限らないにゃ!!補給部隊は速やかに食料庫へと向かい、遠征の準備を整えるにゃ!!戦闘部隊は各自の武器、防具の点検及び、予備武器を運ぶのにゃ!!」
最初かなり嫌がっていたのに、いざ始まればノリノリでやってくれた事に皆驚いたのか、誰もが目を見開いて静まり返る。
隣に立っていた魔王ですら、“こいつマジかよ”と言いたげな顔で俺を見ている。
俺が恥ずかしがりながらやる姿を想像したか?残念!!俺だってやる時はやる男なのさ!!
その後も通達事項を告げ、最後の〆に入る。
もうここまで来ると、俺の中の羞恥心は死んでいた。
「────冬が来れば再び戦場は停滞するにゃ!!我々の頑張りがこの国を救う!!みんな頑張るにゃ♪」
最後の最後に甘い声&全力の可愛い猫のポーズで締め括る。
俺はまだ11歳なので、声変わりも来ていない。自分が想像しているよりも滅茶苦茶可愛い声が出て、軽くビビった。
あー死にたい。この場に村のみんなが居なくて良かったよほんと。推しにこの姿を見られている時点で俺の中の男は死んでしまったが。
「「「「「「........」」」」」」
数秒の静寂。
盛り上がる訳でも無く、笑われる訳でも無く無言。
辞めて、無反応がいちばん恥ずかしいからせめて笑ってくれ。
俺がそう心の中で願っていると、1番前の列に立っていたシャードが胸を抑えて倒れ込む。
「グハッ........」
「ゴフッ........」
「ゴハッ........」
そして、シャードが倒れたのを皮切りに、次々と第四魔王軍の面々が倒れ始めた。
男も女も関係なく、誰もが胸を抑えて地面に膝を着く。
ドミノ倒しのように前から順番に倒れ込む魔王軍は、遂に訓練場に居た全員が膝を着いてしまった。
ガルエル達も倒れてるよ。一体何が起きたんだ。
予想外すぎる出来事に困惑していると、若干呆れ顔の魔王が俺の肩に手を置く。
鼻からは何故か鼻血が出ていた。
「お主は尽く妾の想像を超えてゆくな........ノリノリでやるのも以外だったし、何より最後の“にゃ♪”が可愛すぎるじゃろ。妾でなかった死んでおったわ」
「........魔王様、鼻血出てる」
「........妾も死んでおったわ。お主本当に男か?見よ、お主の“にゃ”にやられたもの達を。戦場でこれをやれば、敵軍であろうと寝返るぞ?」
「ふふん。俺だってやれば出来るんだよ。流石にここまで効くとは予想外だったけど........」
俺、そんなに可愛かったか?
成長したノアの姿ってちょっぴりダークな感じのイケメンなんだが、少年時代はここまで人を壊せるもんなんだな。
ノアの成長した姿を知っているので、俺は別に将来このままエルのように可愛い路線で行く事になる心配はしていない。
未来を知ってる事が、こんなところでメンタルを保たせてくれるとは。人生、何が起きるか分からないものである。
「このまま“にゃ”でキャラ付けすれば、ミャルの地位を奪えるな。のぉ、ノアよ。お主、猫耳と尻尾を付けてみぬか?昔、“猫型の魔人族になってみよう!!”というイベントを開いた時の在庫がまだあるんじゃが........」
「いや、付けないよ?!なんで真面目な顔で言うんだよ!!」
「........ノア、可愛かった」
「あ、ありがとうございます?」
レオナさん?胸を抑えながら言うのやめてくれません?
俺、一応男だから“可愛い”よりも“カッコイイ”がいいんですよ。
こうして、俺の“代理軍団長を体験してみよう!!”のイベントは終わったのだが、その日皆が使い物にならなくなってしまって一日戦場に行く日が遅らされると言う珍事が起きたのであった。
後書き
ノア君カワイイヤッター‼︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます