代理軍団長の仕事を体験してみよう‼︎


 朝からごみ拾いをして徳を稼いだ俺は、第四魔王軍が訓練に使う訓練場へとやって来ていた。


 いつもゴミの処分をしてくれる人に“いつもお疲れ様です姫様”とからかわれたりもしたが、いつもの事なのでもう何も言わない。


 本当に覚えとけよ魔王。いつの日か痛い目を見せてやるからな。


「........おはようノア。今日もいい天気だな」

「おはようレオナ軍団長。今日も爽やかな晴天で心地がいいよ。でも、秋も終わりかけだから少し寒いね」

「........そうだな」


 第四魔王軍の訓練場で日課の筋トレをしていると、レオナがふらりと現れる。


 顔を合わせる度に天気の話をされるのは正直困るが、段々と俺も慣れて会話を上手く回せるようになっていた。


「ブロンズから聞いたんだけど、もうすぐ戦争を再開するんだよね?第四魔王軍も動くの?」

「........そうだ。魔王様からノアも同行させるように言われている」

「へぇ、魔王様の命令なら仕方がないね。ガルエル辺りが凄く反対してそうだよ」

「........してた。でも、魔王様は1歩も引かなかった」

「魔王様らしいね。まぁ、でも、いつかは経験することだから仕方がないよ。戦争が続く限りは、俺もいつかは戦場に出ることになっただろうからね。今回戦うのかは知らないけど」


 俺はそう言うと、腕立て伏せを辞めて立ち上がる。


 両目を布で隠したレオナは何か言いたそうにしていたが、事前に準備した会話デッキか俺から振られた話題以外は上手く話せないので何も言わなかった。


 そして、話題を強引に変えてくる。


「........ここの暮らしはどうだ?」

「随分と慣れたよ。皆から“姫様”と呼ばれるようになったのは勘弁願いたいけどね。みんないい人たちだし、ニーナ達も大分慣れてきたみたい」

「........そうか。それは良かった」

「魔人族に強い偏見を持つ人達じゃないけど、文化の違いには少し戸惑ってたね。生活が安定し始めて、大人達は働き始めたけど問題も多そうだよ。ほら、魔人族は見た目や性質がみんな違うから」

「........確かにそうだな。この国に来たばかりの人は、ここの暮らしに苦労する」

「でも、冬が終わった辺りで自立できそうかな。俺も一応お給料は貰ってるし、大人たちの稼ぎもある。ブラッド兄さんは来年魔王軍に志願するらしいよ」

「........大丈夫か?」

「ブラッド兄さんは強いし強かだから大丈夫だよ」


 15際で既に成人しているブラッド兄さんは、俺から魔王軍の話を聞いて来年志願することを決めたそうだ。


 ノアが心配だからなと言ってはいたが、おそらく給料がそれなりにいいから入るのだろう。


 来年の春頃には、貸してもらっている家から出ようと村の人達は計画しているし、少しでもお金は稼いでおきたいからな。


 今、村の中で一番の稼ぎ頭は俺だし。


 リバース王国は兵隊をほぼ無賃金同然で徴収するが、魔王軍はかなり手厚い給金と保証をしている。


 どんな理由であれ、自ら立ち上がって戦ってくれる兵士の方が強い事を魔王は知っているのだろう。


 事実、メインストーリーでも規格外なアランが暴れない限りは魔王軍に負けはなかった。


 やっぱ主人公は強すぎるよ。あいつ一人で大体の事は片付いたしな。


 しかし今回は、アランもこちらの味方をしてもらうつもりである。リバース王国の闇を暴き、アランを味方に誘い込んで唯一の負け筋を潰す。


 最悪の場合は、アランを魔王国に引き込んでしまってもいいとすら俺は思っていた。


 こうして上手く会話を続けていると、代理軍団長のミャルがトコトコとやってくる。


 ココ最近よく話すようになって聞いた話だが、彼女には病弱な妹がいるらしい。


 その妹の治療費を稼ぐために、自分は魔王軍に入ったのだと語っていたな。


 公式ガイドブックにもストーリーの中でも語られなかった一面だ。小一時間以上妹の魅力を話され、ちょっと妹への思いが強く見えてしまったがそれは気のせいだと思いたい。


「おはようございますにゃる」

「おはようミャル代理軍団長。今日は遅めだね」

「........おはよう」

「にゃはは。ちょっと妹が熱を出しちゃって。隣のおばちゃんに看病をお願いするのと、薬を取りに行くので遅くなったにゃる」

「大丈夫なの?」

「いつもの事にゃる。特別変わった症状も無かったにゃるから、問題ないと思うにゃる」


 そう言いつつも、心の中では心配しているのか若干元気がないミャル。


 昨日も夜遅くまで看病していたのか、目の下には少しだけ隈が見えていた。


「........今日は帰れ。後のことはやっておく」

「いやいや。今日は軍への通達があるにゃる。レオナ軍団長はできないでしょ?」

「........帰れ」

「嫌にゃる。どちらにしろ暫くはここを離れるニャるから、その命令は聞けないにゃる」


 レオナも妹を心配するミャルを気遣って“今日は帰れ”と言うが、今日は重要な話があるのか1歩も引かないミャル。


 わずかに空気が悪くなり始め、どうしたものかと考えていると空から声が降ってきた。


「くははははははっ!!相変わらず部下とのコミュニケーションが下手だな!!」


 声のする方に目を向けると、天から盛大に笑う魔王の姿が。


 この瞬間、俺は死ぬほど嫌な予感を覚えた。


 こういう時に魔王が現れると、大抵ろくなことがない。


 それはレオナもミャルも同じだったのか、心の底から嫌そうな顔をしていた。


「妹が好きすぎるがあまり、妹の肖像画を自分の部屋にこっそりと飾っているミャルと、部下とのコミュニケーションをどう取ればいいのか毎日悩み、ぬい──────うをっ?!いきなり攻撃してくるでは無い!!危ないでは無いか!!」

「それ以上言ったら殺す」

「にゃにゃにゃ?!な、なんでそれを知ってるにゃるか?!」


 何本も収納出来る鞘から剣を抜き、魔王に向かって投げつけながら殺気を出すレオナと、自分の恥ずかしい秘密を暴露されて顔を真っ赤にするミャル。


 もちろん、第四魔王軍の面々もここにいるので、魔王の言葉は耳に入り“ミャル代理団長........”と呆れられた目で見られていた。


「........人の秘密を暴露するのは、重罪」

「くははははははっ!!そうか?妾としては、親しみを持ってもらおうと思ったがゆえの行動なのだがな!!」

「余計なお世話。その口を今すぐ閉じなければ、殺す」

「わかったわかった。そう怒るなレオナよ。我らが姫が怖がるぞ?」

「誰が我らが姫だ。俺も参加するぞ?」

「くはは。誰も味方がおらんくて涙が出そうじゃ。さて、話を戻すかの」


 レオナの殺気に全く怯まずケラケラと笑う魔王は、空から降りてくると楽しそうに言う。


「可愛い部下を帰らせたいレオナと、レオナがマトモに話せないことを心配するミャル。ならば、ここは1つ、他のものにやらせてみるのはどうじゃ?」

「他の人にゃ?」

「........まさか」

「そう!!代理軍団長の仕事を少し体験してみようのコーナー!!昔何度かやったな!!今回は簡単な仕事だし、丁度いいじゃろ」


 魔王はそう言いながら、チラリと俺を見る。


 あー、なるほどね。その体験してみようのコーナーを俺にやらせる気満々だね?


 魔王軍に入って一ヶ月足らずの俺に、無茶振りがすぎる。


 が、こうなってしまった以上拒否権はない。ここで拒否すると、何故か後ろで期待して目で俺を見る第四魔王軍の面々からブーイングが飛んでくるから。


 ノリがいいのを見ていた時は楽しかったが、その当事者になるとちょっと嫌になるな。まぁ、それでも楽しいが勝つけど。


「と、言うわけでノアよ!!お主、今日一日ミャルの代わりに代理軍団長をやれ!!これは魔王命令じゃ!!」


 こうして、俺は魔王の思いつきで一日代理軍団長をやらさせる羽目になったのだった。


「あ、ちなみにガルエルたちも見に来るぞ。ついさっき言いふらしてきたからな!!やったなノア!!今日はお主がこの魔王城の主役じゃぞ!!」


 ........1発ぶん殴っても乱数の女神様は許してくれるかな?

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